ブルーカーボンって一体なに?宮城県ブルーカーボンシンポジウムをレポートします。
2021年より、宮城県では「宮城ブルーカーボンプロジェクト」を立ち上げ、年間平均250tのCO2の削減、10年間で2,500tのCO2の削減を目指しています。しかし、まだブルーカーボンがどんなものなのか十分認知されていないと考えた宮城県は、2022年3月23日(水)にブルーカーボンシンポジウムをTKPガーデンシティ仙台にて開催しました。
当日は、基調講演とパネルディスカッションの二部制で進められ、「ブルーカーボンの今とこれから」について活発な話し合いが行われました。第一部では、水産研究・教育機構 水産資源研究所の堀正和氏より、「ブルーカーボンを活用した水産業の地球温暖化対策」というテーマの基調講演がなされました。第二部では、引き続き堀正和氏、神戸大学の信時正人氏、宮城県漁協の阿部敏和氏、ヤフー株式会社の長谷川琢也氏の4人をパネラーに迎え、科学/社会実装/生産現場/企業という異なった立場から、ブルーカーボン事業に対する考えを述べ合いました。
この記事では、QandAの形で堀氏の基調講演を振り返りながら、ブルーカーボンについての理解を深めていきます。
Q1:そもそもブルーカーボンって何?
ブルーカーボンとは、海洋生物によって取り込まれた炭素のことです。みなさんにとって、海よりも森を想像してもらったほうが簡単かもしれません。森の木は光合成を行うことでCO2を吸収し、自分の体に変えていきます。つまり、植物がCO2を吸収し、炭素を取り込んでいるわけです。
海でもこれと同じことが起きています。ただ、ブルーカーボンで気をつけなければならないのは、海草や海藻(※1)そのものは炭素の貯蔵庫としてはみなされていないということです。理由は、木と違って数ヶ月から数年で食べてしまったり、枯れてしまったりするためです。
では、どのように炭素が蓄積されるのか。それは、海草や海藻が枯れて海底に堆積したり、流されて深海に送られたりすることで、バクテリアによる分解がなされず、ブルーカーボンとして溜まっていくのです。
ブルーカーボンを貯蔵できる生態系として、海底に堆積物をつくり、かつ、砂や泥の上で繁茂しているアマモ場や、塩生湿地、マングローブ林があげられています。最近の研究ではワカメやコンブなどでつくられる海藻の藻場(※2)もCO2吸収源として注目されています。北欧の事例では、海藻の一種であるホンダワラが年間につくりだす炭素量の10%以上が深海に運ばれ、ブルーカーボンとして貯留されているという報告も出ています。
Q2:CO2を吸収・削減した量ってどうやってわかるの?
CO2の吸収量は藻場のタイプによって大きく異なります。そこで今、海草や海藻の種類ごとに吸収量を測定する計算式をつくっています。この計算式ができれば、地域ごとにどのくらいのCO2が吸収され、どれくらいのブルーカーボンが貯蔵されたかを測定できるようになります。
すごく簡単にいってしまえば、吸収されるCO2の量は、「植物がどれくらいCO2を吸収しているか」という値に、「その植物がどれくらい生い茂っているか」を掛けた数値なわけです。
この「植物がどれくらいCO2を吸収しているか」を「吸収係数」と呼ぶわけですが、植物のタイプによって、この係数は大きく変わります。
例えば海草。海草は「株」単位でみると、とても長生きをする植物です。海草の一つであるアマモの寿命はなんと数千年です。海草の場合、ブルーカーボンを蓄積する方法はいくつかあります。一つは、枯れた葉っぱなどが海底に溜まり、蓄積するパターン。寿命が長いため、かなりの量の堆積物がつくられます。二つ目が、流れ藻になって深海に運ばれるパターン。三つ目が、流れ藻がバクテリアに分解されない物質となって海底に貯まるパターン。海草はもともと陸上に生えていた植物なので、構造がしっかりしていて、セルロースなどバクテリアに分解されない物質を多く含んでいます。
また、ワカメなどの海藻では、成長する過程でだしたネバネバの物質(分解されにくい)が海底に貯まるパターンもあります。
また、「その植物がどれくらい生い茂っているか」の意味するものが、ただの面積ではなく、活動量であることも非常に大切です。活動量というのは、ブルーカーボン事業で新たに増やした藻場の面積のこと。海草や海藻を増やす取り組みをなにもせず、「CO2を減らした」と謳うことはできません。
Q3:海藻の養殖もブルーカーボンになるの?
結論からいうと、海藻の養殖もブルーカーボンを貯蔵します。養殖というのは、海藻を収穫してしまうわけですが、先に述べた通り、ワカメやコンブなどは成長する過程で、炭素を含むネバネバしたものを海中に分泌しています。このネバネバはバクテリアが分解することの難しい炭素物質を含んでいるため、ブルーカーボンを貯蔵していると考えることができます。最近の調査では、天然の藻場と変わらないくらい、海藻の養殖もCO2を吸収していることがわかってきています。
さらに、海での養殖はブルーカーボン以外でも、CO2を減らすとして期待されています。その理由は、排出するCO2の少なさです。例えば、ホタテを食べられる部分(可食部)1トンつくるのに排出するCO2の量は、鶏と比較すると1/4ほどだといいます。
陸上で食べ物をつくる場合、森林を切って牧草地にして、そこで牛や羊を飼うといったようなスタイルが多くなります。その場合、食糧生産とCO2の吸収はトレードオフの関係になってしまいます。
一方、海の場合はCO2の吸収源となるものを減らす必要はありません。海での養殖は、食糧生産とCO2の吸収を両立することができるのです。
CO2の排出量の少なさにあわせて、農業や畜産業と違い、海での養殖では淡水を使わないことから、海産物は「ブルーフード」として注目を集めています。水も資源のひとつであり、過剰な使用は水資源の枯渇や環境破壊を招きます。そのため、欧米では国家プロジェクトとして海藻の養殖が進められています。
Q4:ブルーカーボンにいまどんな動きがあるの?
いま国際的に議論が進められている海洋での気候変動対策は主に五つあります。①再生可能エネルギーへの転換、②海上輸送の脱炭素化、③ブルーカーボンの活用、④水産業の振興による食料源の転換、⑤海底へのCO2直接埋没です。
このうち、①、②、⑤はインフラや技術の整備に時間がかかるため、すぐに取り組めるわけではありません。なので、いますぐに実行できるという点で、③ブルーカーボンの活用、④水産業の振興による食料源の転換が急がれています。
日本では、このブルーカーボンの動きを活発にするため、「Jブルークレジット」という新しい資金メカニズムの導入が進められています。
クレジットというのはCO2の排出権のことです。ブルーカーボン事業に取り組む人たちは、CO2吸収源である海草や海藻を増やした分をクレジットに変換することで、CO2削減に取り組む会社に販売することができます。一方、これからCO2の削減に取り組む会社は、社内でCO2削減を行うことはもちろん、クレジットを買うことでCO2フリーを達成することができます。
実は、すでに「Jブルークレジット」を通じたやりとりが全国でなされるようになってきています。今年度は、横浜港(神奈川県)や徳山下松港(山口県)、神戸港(兵庫県)、北九州港(福岡県)で、クレジットの申請が出され、さっそく買う企業も多く現れています。
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第二部のパネルディスカッションでは、より具体的に、いま科学/社会実装/生産現場/企業の領域でどんなことが行われているのか、なにが課題なのかを深掘りしていきます。