7歩目「とある喫茶店のお話。」①
序
ある時、客のひとりが尋ねた。
「この店に"名前"はあるの?」と。
その客は恋人を連れた、20代前半〜半ば程の男性。
見た感じ、会社員でもなければ公務員でもない。
眼鏡がよく似合う──どちらかと言えば、文系。
「この店の"名前"は──」
と、喫茶店のマスターが客の方を向いて、
薄く微笑みながら問いに答える。
この喫茶店には、何故か恋人たちが集まるという。
ムードの良い音楽が掛かっている訳ではない。
そして、恋仲にある男女を迎え入れられる様な
そんな雰囲気がある訳でもない。
しかし──ここには「魔法」が存在する、という
なんとも摩訶不思議な噂がある。
それこそ、SFの様なものではないが、
訪れた人々が揃って口にする言葉がある。
「あの喫茶店には、魔法が掛かっているんだ」
────と。
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