見出し画像

絵本『カイマンのダンス』―アマゾン川のほとりに住む人たちを訪ねて―絵本作家 市川里美

ハンモック船に乗って

 2019 年の夏はアマゾン川を訪れた。ペルーのアマゾン地帯の主都イキトスあたりで、支流が合流しアマゾン川が生まれる。その後ブラジルを通り2700km先、大西洋に流れ出ていく。このイキトスへは、道路が無いため、飛行機か船しか行くすべがない。私は迷わずプカルパから6 日間の貨物船の旅を選んだ。
 すべての生活用品は貨物船で運ばれる。船底はブルドーザーから洗濯機、トイレの紙、ビール、卵、生きた鶏まで、ありとあらゆる物がぎっしり積まれている。上の階も乗客でいっぱいだ。
 貨物船で旅するような地元のペルー人は気さくで親切、とても人情深い。みんなとひとつの大部屋にハンモックで寝て、まさに「同じ釡のメシを食い」、家族のように過ごした6 日間は一生忘れることができない。

ペルーMAP

ペルー共和国の地図


カイマンと出会う

 イキトスに着いてからは、毎日、動物保護センターにスケッチに通った。人間が自然を破壊したために、数少なくなった動物たちがここに保護されている。
 いるいる! ヒョウ、魚、サル、ヘビ、鳥など。アマゾンに住むワニはカイマンと呼ばれることも、そこで初めて知った。赤ちゃんカイマンもたくさんいる。市場で売られているところを、おまわりさんに助けられてここに連れて来られたのだろうか。まだ小さいのに、恐ろしい目にあってかわいそう。
 でも、ここではもう心配は無用だ。背に太陽の陽を浴びてウトウトするもの、のん気そうにぽっかり水に浮かんでいるものなど。目がパッチリしてかわいい。カイマンなんて自然の中で出会うことなど、まずないにちがいない。ここでスケッチできるのは好都合と、せっせと毎日鉛筆を走らせる。

カイマンのスケッチ-2

カイマンのスケッチ


自然とともに暮らす人びと

 さて、川やジャングルに住む人たちの生活も見たいと、またブラジル方面に向かう貨物船に乗りこんで途中下船。小さい部落まで行き、そこで暮らす家族に迎えられた。
 ふと、そこの台所をのぞくと、なんとまな板の上に小さいカイマンがのっている。「けさ、おとうさんがつかまえてきたの。今日の昼食よ」と言う。カイマンってここでは日常生活の中にいるものなんだ! 自然の中で暮らす人たちは、地球が始まって以来、自然が与えてくれるもので、すべてまかなって生きてきた。それで問題なく自然のバランスが保たれてきたのだ。ここらでは家族が生きていくために捕まえるくらいは許されているらしい。

パンを焼くためにイモをする

パンを焼くためにイモをすりおろすお母さんのスケッチ

 アマゾンは暑く湿気が多い。だれもが毎日1、2回は川に水浴びにおりて行く。子どもたちは川辺に着くやいなや 、バシャーンと勢い良く水に飛びこんでいく。同じ川には、ヘビもカイマンも、そのほかたくさんの生きものが住んでいるというのに……。よそ者の私は、おそるおそる岸辺で水浴びをする。人間と動物たちがそれぞれに同じ川で共存するには、お互いの領域というものがあって、皆それを了解しているのだろう。
 動物たちはかしこく生きるすべを知っている。カイマンたちの世界にも、親から子に伝えられる知恵でもあるのだろうか? 危険をのがれるには、どうするの……?
 アマゾン川のほとりで過ごした日々を思い出しながら、いろいろ空想を重ねているうち『カイマンのダンス』の絵本ができた。

カイマンのダンス(表紙)

カイマンのダンス

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?