オバアとオバア

 オバアが駅の階段から落ちそうになっていた。

 オバアがなぜ落ちそうになったかというと、オバアの後ろにいたオバアが突然オバアにぶつかってきたからだ。

 オバアはたたらを踏んで耐えたものの、そのまま下まで転げ落ちても何らおかしくはなかった。

 踏みとどまったオバアは後ろを振り向き、オバアをキッと睨みつけ「ちょっとぉー危ないでしょうよぉーう!」と叫んだ。

 だがオバアはオバアの存在などまるで意に介さず、スッとオバアを避けて早足で階段を降りてしまった。

 オバアは去りゆくオバアの背中に向かって何やら呪詛の言葉をブツブツとつぶやきながら、自身も階段を降りていった。


 オバアの後ろからオバアがぶつかり、それが原因でオバアが階段を落ちかけた。これは事実。

 階段を降りていたオバアが突然立ち止まり、オバアが避けきれずにオバアにぶつかった。これがわたしの中の真実。

 だってわたしは見ていたから。

 あれは無理だ。避けきれない。あのオバアの急ブレーキにはオバアに限らず誰も反応できない。

 反応できる可能性があるとすれば、それは井上尚弥選手くらいだろう。それか竈門。あとは猫。野良の。飼い猫はダメだ。日々寝転がってちゅ〜るをねぶりまくっている野生を忘れた猫畜生では話にならない。

 もしオバアがオバアとの距離を充分に確保していれば、或いはオバアにぶつからずに済んだのかもしれない。

 謝罪もなしに去っていったオバアの態度にも問題がないとは言えないが、そもそもオバアが急に立ち止まったりしなけれは、オバアがオバアにぶつかる事もなかったはずだ。

 いったいどちらに非があるのか。オバアか。それともオバアか。これは議論の分かれるところかもしれない。

 だが誰が何と言おうと、これだけは炎上覚悟で明言したい。

 わたしは圧倒的にオバア擁護派だ。

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