歩きスマホ勢とぶつかる

 道を歩いていたら動物とぶつかった。

 狭い歩道だった。2人が並んで歩けるほどの道幅はない。すれ違うためにはお互いが少し斜めにならないとぶつかってしまう。

 私がその歩道を左に寄って歩いていると、前から40代前半くらいのアルキスマファー(オス)が、スマホを凝視しながら真ん中を歩いて来るのが見えた。

 このままではぶつかると判断した私は、すれ違いざまに斜めを越えて縦になるとともに、オカモトのコンドーム0.01(オススメ)を凌駕するほどに最強に薄まった状態まで可変したが、奮闘努力の甲斐もなくアルキスマファーと肩がぶつかってしまった。

 残念だが起きてしまった過去は変えられない。早々に未来に目を向けてその場を歩き出した私の背後から「イテエナオイー」という音が聞こえた。

 振り返ると、私とぶつかったアルキスマファーの鳴き声のようだった。声の強さや抑揚から判断して、どうやら相手を威嚇する時に発する鳴き声らしい。

 アルキスマファーは続けて「ナニブツカッテンダヨー」と鳴いた。

 こちらの言葉が伝わるかは甚だ疑問ではあったが、私は「それはお互い様では?」と問いかけてみた。するとアルキスマファーは私の言葉を理解したようで「オタガイサマジャネエヨアヤマレヨーゥ」とさらに威嚇してきた。

 ほう。どうやらこのアルキスマファー、命が惜しくないらしい。私のバックに誰がついているのか知らないようだ。ならば教えてやろう。何を隠そう私も知らない。でも霊能力者を自称する同僚に「背後霊に江戸時代の農民が憑いてるね」と言われた事はあるけど当時のほぼ9割は農民であった事実を鑑みれば、それはもう「あなたには佐藤か鈴木の背後霊が憑いてますね」と言われるのと同義であり何ら物珍しいことではなく残念な気持ちになったYOKOHAMA二十才まえ。

 私はアルキスマファーを諭すようにゆっくりと、

「君はちゃんと前を見て歩いていたか? もしそうなら私の存在を認知できていたはずだから衝突を避けることは出来たはずだ。にも関わらずぶつかったという事は、君は故意に私にぶつかったと見なされ暴行罪に問われる可能性がある。一方で君が前を見ずに歩いていたのなら、私とぶつかったのは前方不注意であり、もし私がケガをしていたら過失傷害罪に問われる可能性もあるがどうだろう。そしてこれまでの私の主張は当然に私にも適用されるためにお互い様と言ったのだが何か反論は?」

 と、一気にまくしたて論破する想像をしながら実際は「ア、スイマシェン」と小声でつぶやきそそくさとその場を離れ家に帰ってジャックダニエルをストレートで浴びるほど飲んで翌日ひどい下痢と嘔吐で会社を休んだ事実を鑑みれば、これは試合に負けて勝負にも負けたのだと絶望的な気持ちになったTOKYO五十才まえ。

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