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【無料記事】赤羽太郎・小山龍介対談|超・資本主義原理としてのサービスデザイン

サービスデザインの専門家であり実践者である赤羽太郎さん。先ごろ出版された『This is Service Design Doing サービスデザインの実践』(ビー・エヌ・エヌ新社 (2020/2/18))も手がけられた赤羽さんに、サービスが主導するサービスドリブン・イノベーションについて講演いただきました。

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この記事は、講演に続き行われた小山龍介との対談をお届けします。(文・山下悠希)

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サービスデザインは時間のデザイン

小山龍介(以下、小山) サービス・ドミナント・ロジックという話が出てきたところから質問したいです。結局、物を売買するというのはポイントで終わる関係です。その後の、空になったら補充するだとか、いろんな体験すべてがサービスとなった瞬間に時間が長くなる。そうすると、サービスデザインというのは、基本的に「時間のデザイン」が重要になりそうです。

カスタマージャーニーマップも、全体としての時間をどう演出するかだと思うんです。時間は、サービスデザインするにあたって重要な要素になりますか。

赤羽太郎(以下、赤羽) ユーザーの時間をずっと見られるわけではないので、特定の使い方のコンテクストをいくつか想像してリサーチする場合と、ユーザーの1日のライフスタイルみたいな、特定の目的がある文脈とない文脈の両方合わせた時間軸としての体験をリサーチする場合があります。最初、ユーザーのペルソナごとに分けたりするんで、どこまでパターンを考えるかはちょっと難しいんですけれども。でも、時間はすごく大事ですね。

小山 21世紀に入ってから、ユーザーがサービスを感じてる時間が長くなってるんです。自分が捨てた物はどこに行くんだろうとか、このコーヒー豆はどこから来てるんだとか。

赤羽 今僕は実験で、ダイエット食のサブスクリプションを4種類ぐらい使ってるんです。送ってくるタイミングがけっこううまく設計されていて、「これ、そろそろ食べないといかんな」となる。つまり、もともと想定していた物の価値と別に、サービス側が僕の行動を変えている。自分が想定してなかった時間軸というのを、ユーザーになってみると感じるところがありますね。

サービスデザインで資本主義がバージョンアップする

小山 資本主義というのは根本的に、「現在価値」がすごいフューチャーされる経済システムです。プロジェクトの将来の収益を現在価値になおして、何十億円のプロジェクトですよ、となると、時間軸が「今この瞬間」にどんどん収束していく。そこに、資本主義の行動特性があるように思うんです。

ところが、たとえば今回のコロナ。つくっても売れないんで、トヨタの工場が止まりました。もしこれをサービスでサブスクリプションにしてたら、別にトヨタは困らなかったんです。それが、コロナみたいなことが起きてみんなが買い控えした瞬間に、業績が超悪くなるわけですよね。(売買という現在に依存するシステムだったわけです。)

経済的なシステムとして、現在価値に全部収斂(しゅうれん)する仕組み自体が限界にきている。実はサービスデザインは、資本主義が次のフェーズにバージョンアップする、ひとつの架け橋になってるんじゃないかと思います。

赤羽 それは言えると思いますね。さっきのサービス・ドミナント・ロジックは「信頼経済」と繋がる話もあるので、常にインタラクティブに評価されます。

ジョン・ラスキンが提唱した「固有価値」

小山 ジョン・ラスキンというイギリスの経済学者・哲学者・美学者が、当時の古典経済学が取り引きした瞬間の交換値段しか経済として評価しないのはおかしいと考えました。

たとえば美術の作品は、取り引きのときだけじゃなく常に価値を持っていると。見る人の心を癒やしたり自然の風景に癒やされたりという「固有価値」が存在していて、常にそれの恩恵を受けていると言っています。

当時の経済学者からは総スカンを食らいましたが、実はけっこう先見の明があったんじゃないかと思います。つまり、本来的には物自体の固有価値がいかに発揮されるか。これはまさに、サービス・ドミナント・ロジックと一致している。

赤羽 確かに、その当時で言うと「じゃあどうすんだよ」と。その分も織り込んで値段を上げればいいのかみたいな、結局その瞬間のお金の支払いの話に戻ってきちゃったと思うんですけど。

今だったら、癒やされる体験だけ欲しいから、所有はしないけどアートを定期的に届けてほしいみたいな要望に応えるサービスもあるわけです。それがリアルな体験とか価値として具体性を帯びていますよね。すごく先見的ですね。

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アフターコロナはポスト資本主義の新しい経済へ

小山 このタイミングにそれを議論するのは、すごく意味があるなと思っています。この鎖国状態が一時的なものではなく、恒久的にシステムとして組み込まれて、人が簡単に移動できなくなってくる世界が来るんじゃないかということが言われています。

赤羽 一生、村の中で暮らすみたいな。

小山 安いところでモノをつくって移動させ高く売るというグローバル経済から、鎖国状態で人が動かない中で経済を回していくことに、シフトしていくのかなと思います。

赤羽 一部ローカルの商店街のような、出なくていい範囲での価値の提供みたいな。確かにちょっと時代が戻るところはあるのかもしれないですね。

小山 だから僕は、新しい「ネオ商店街」というか、21世紀型商店街みたいなことがありうるんじゃないかなと。それはもういろんな人がトライアルしてますけど、シェアリングの拠点としての商店街というのは。

赤羽 あり得ますね。

小山 半径500メートルぐらいの人に影響を与えるシェアリングエコノミー。こういう実態のあるサービスが、ネオ商店街という形で出てきたときに、これはもしかして新しい経済、資本主義の次に行くのかなという。

赤羽 なるほど。アフターコロナ的な話で言うと、ネオ商店街的なコンセプトがリアルな価値を持つということが、肌感に出てくる可能性が現実味を帯びてきてますよね。

小山 それが今の資本主義をどう転換していくのか、みたいなことを思ってたんですよね。

赤羽 資本主義のベースのところは残るんだとは思いますけど、その前提としての信頼感とか身近さみたいなものが、選択する際の価値とか評価の中に入ってくる。アフターコロナ状況になると、その人にとって何が合理的かという軸が変わってくる。結果として、いわゆる資本主義ロジックで、うまくいかないものがいっぱい出てきます。

サービスデザインが牽引して社会を変えていく

赤羽 若い子と話してると、モノがあればあるほど嬉しいという感覚がすごいないですよね。部屋が狭くなるから嫌だなとか。日本は人口も減っていきますし、次々つくって、捨てさせて売るというのは無理があります。

小山 そういったときに、今回は「サービスドリブン」というタイトルをつけたんですけども、サービスデザインというのが背負ってる可能性というか責務というか。サービスというものが牽引して社会をどう変えていくかみたいなところが、すごくおもしろいなと思います。

赤羽 個人的には、サービスデザインとかサービスドリブンの視点というのは、みんなが持ってくれたらいいなと思っていて。サービスデザイナーのナレッジとかやり方とか、それがうまくいくための時間軸の考え方とかは、どんどん提供したいと思ってます。なので、翔泳社のBiz/Zineでも、公開イベントなどをずっとやっているんです。

なので、別にサービスデザイナーが特別にそれをデザインするというよりは、日本がもともと得意な「おもてなしの文化」に、デジタルはヨーロッパ・アメリカ発のサービスデザインナレッジをうまく取り入れつつ。この本とかも、別にここまで出しちゃっていいのみたいな内容が結構あるんですね。「やり方書いてあるじゃん」と。みんなサービスデザイナーになればいいじゃん教です。

ベーシックサービスで要らないものを持たない社会へ

小山 みんながサービスデザイナーになったときは、社会はどうなるんですかね。

赤羽 必要なとき必要な場所、本当に自分に必要なサービスだけで構成されているライフスタイルになる。そのときにはどうなるんですかね。

小山 社会福祉的なベーシックインカムじゃなくて「ベーシックサービス」で、今のシェアリングエコノミーみたいなことを。たとえば、車はみんな無料で使い放題で。公共交通機関は、行きたいところから行きたいところまでポイント・ツー・ポイントで行けるようになって。

別にそれに何百万も払う必要はまったくなくなるときに、ベーシックインカムはもらってないけどベーシックサービスを享受してるので、「別に給料いらないじゃん」みたいな世界がやってくると思います。

赤羽 ローカルで使える地域通貨みたいなベーシックポイントを使って生活をすることが合理的になるので、地域経済が回る。ベーシックサービスはそうですよね。

小山 よく言われるのは、地域通貨といった瞬間に色濃く資本主義的なというか、通貨で等価交換でしようみたいなことに、どうしても巻き込まれちゃうわけですよね。もう少しそれをサービス的なものと組み合わせてやると、もしかしたら突破口があるのかな。

赤羽 あるかもしれないですね。その考え方の発展型に何かがありそうな感じは、僕も今ちょっとしています。

小山 だから、今メーカーの人とかあらゆる人がサービスデザイナーになると、時間軸の非常に長い製品との関わりが生まれてくる。そのときに、物をピンポイントで買って所有する時代じゃなくなって、お互いにいろんなものを融通し合うというか。

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サービスデザインが取り引き状況をサービス・ドミナント・ロジックに変える

小山 それから、足元のサービスデザインが草の根的に、取り引き状況をどんどんサービス・ドミナント・ロジックに変えていくことによって、ある瞬間にワッと社会の形を変えてしまうみたいなことが起こる。

赤羽 僕が好きなのはそこで、サービス・ドミナント・セオリーじゃなくてサービス・ドミナント・ロジックという出し方です。理論じゃなくて論理という言い方で発表してるところが。バーゴとかルッシュの考え方として、「研究して新しい理論を出したというよりは、捉え方自体が変わっていくように感じるんだけれども、みんなどう思う?」と。

それをもとにして、裏づける理論研究とかをやりたい人がいたら、どんどん使ってベースにしてやっていいよという。大上段でこれからの経営理論みたいな話ではなくて、変わってきてるよねというぬるい感じで、サービス化していってるなと思います。

サービス・ドミナント・ロジックで人気ユーチューバーになる?

小山 You Tubeで、たとえばヒカキンが800万人フォロワーがいますよみたいなのは、サービスデザイン的にはどう捉えられるんでしょう。

子どもたちがマイクラをやるときに、ヒカキンのマイクラを見ながら参考にやってるんです。この瞬間はサービス・ドミナント・ロジック?みたいに感じたりもするんです。つまり、「マイクラを購入しました」で終わりじゃなくて、マイクラを長く楽しむためのコンテンツをヒカキンは提供しているわけですよ。

実はYouTubeって、サービス・ドミナント・ロジックでいわれてる長期的な、たとえばモノを買った瞬間だけじゃなくてそれをどう使うかとか、どんな楽しみがあるかみたいなことを深掘りするすごい有効なメディアとしても機能してる。そうすると、YouTube2.0というのは、広告モデルじゃなくてサブスクリプションじゃないかと思います。

赤羽 それは、あると思いますね。

小山 インプレッション広告モデルのような、だまし討ちで広告をクリックさせるような世界とは違う可能性が出てきて。取り引き関係が全然違うので、新しい経済ロジックが生まれるんじゃないかなと。その根底にあるのが、実はサービス・ドミナント・ロジックですよね。ちょっとキャッチーに言うと「人気ユーチューバーになるためには、サービス・ドミナント・ロジックを学べ」とか「サービスデザインを学べ」とかね。

赤羽 確かにさっきのマイクラの話で言うと、ほかで人気があって価値があるものに、さらにそれのいい使い方を提案することで価値がより共創される。価値共創の接点て何があるんだろうというのは、使えるかもしれないひとつの視点ではありますよね。あとは、「一斉に動画を投下しちゃ駄目だよ」というユーチューバーのお作法みたいな話は、結構サービス的ですよね。一定間隔でやって、ちょっとずつエンゲージメントを伸ばしていくのは、けっこう大事らしいですよ。

サービスデザインが「文化」を生み出す

小山 エンゲージメントという言葉も、本当にここ最近一般的に使われるようになってきましたね。地域活性化も、やっぱりエンゲージメントが重要なんです。関係人口とか言い始めたときに、極めてサービス的な観点からの、単純に旅行で一時的に来てもらうだけじゃなくて、その後も関係をつくっていくという。

新しい世界になってきたときに、僕はひとつは「文化」という切り口で考えていくのが重要だなと思ってるんですね。観光文化という研究があるんです。

赤羽 もともとある土地の文化ではなくて、観光によってできる文化。

小山 そうすると「マイクラ文化」というのが、YouTube上に生まれてるんですよね。僕は経済を変えるというのは、もうひとつ文化を変えることでもあるのかなと思っていて。そこをサービスデザインみたいな切り口で、文化を生み出すサービスデザインを考えたいと。

赤羽 実際、サービスデザインでもけっこう、「最終的には文化と空気を変えなきゃいけないよね」みたいな話はあります。観光文化ですか、おもしろいですね。観光を活性化させることによって、新しい文化がどう共創されるかということですよね。

小山 文化が洗練されたり共創されていく、クリエーションされていくというのが、現象としても起こってくると思うんです。そういったものを含めて観光文化と名づけたときに、これは観光のサービスデザインだよなと。でも、分野によってはそれを文化創造と呼ぶみたいなところもあって。

赤羽 目的というかやろうとしてることは文化創造で、方法論はサービスデザインでもいいですしチェンジマネジメントでもいいですし、センスメイキングでも何でもいいと思います。ただ、その中で結局文化をつくっていくもののいくつかは、やっぱり時間軸があって形のないサービスなので、サービス・ドミナント・ロジックとかサービスデザインの考え方というのは、役に立つところはありそうです。なので、やっぱりみんなサービスデザイナーになってもらいたいなという話になるんですね(笑)。

アフターコロナのサービスデザイン

小山 アフターコロナのサービスデザインですが、30年後、40年後、それこそ100年後を見たときに、コロナ以降経済、社会、文化は、どう変わるんですかね。

赤羽 いろいろ変わるとは思いますけど、すでにずっと動かなかった働き方改革が急に動き始めてる。社長が急に「なんでうちには、自宅作業用のPCがこれしかないんだ」と。「でもずっと、そんなものいらんて言ってたじゃないですか」みたいな話がけっこうあったり。あとは、この人と話したいと思ったら、Zoom飲みでもいいから繋がるし。

小山さんが、いちばんここが大きく変わりそうだなと思ってるとこはありますか。

小山 ふるさとの範囲というのが、一説によると小学校の校区なんです。現在都市ごとにコロナが流行って、東京がロックダウンするというときに、急に、境界線が引かれることになった。

今まで地産地消みたいなことを言われてきました。それが今、物流網も機能せず、中国から物が来ないみたいな話になってきたときに、境界の再定義みたいなことがおもしろいと思うんです。小学校区の中でしかサービスを提供しないサービスみたいなね。アフターコロナは、境界の再定義の中でネオ商店街的な設計が重要になるのかもしれません。

自分の町にちょっとしゃれたカフェとかあると、誇らしい。それがコロナとかあると一気に経営が大変になって閉じちゃうと、非常に残念です。そのときに支える仕組みがサブスクリプションという形であったりもするし、そこにはサービスデザインが入ってきます。サービスデザインというのは、「パン買ってます」というその瞬間だけじゃない、地域を支える強力なロジックとして使えるのかなと。

赤羽 そうですね。今のコロナの状況ぐらいにならないと動かない話かもしれないんですけど、住民主導型でサービス。日本ならではのサービスデザインの使い方とか活用の仕方みたいなものにまで発展していくと楽しい。わくわくしてますね。

小山 そうですよね。最後に紹介していただいたイノシシの事例も、ある種今の文脈のドンピシャというか、あるエリアの問題をサービスデザインの中で解決していく。

赤羽 ローカルの課題を解決することが、もうちょっと大きなエリアでの価値提供になるみたいな。確かに、そこはすでにずいぶん変わっているし、サービスデザインとしてもかなり関係のある話でしたね。

小山 地方創生がブームみたいに、「地方がおもしろい」と言われてるんだけど、何かしらの方法論をきちっと持って地方と向き合わないと、結局何も起こらないんですよね。だから、そういった意味でのサービスデザインや、新しい経済のあり方を考える。

赤羽 方法論と目的がないと、ふつうに地方に対してすごい熱い想いを持つ人の、やる気搾取みたいな話になりがちですよね。

小山 なりがちですね。

赤羽 太郎
株式会社コンセント/サービスデザイナー

国際基督教大学教養学部人文科学科卒。顧客視点での新規サービス事業開発や体験デザイン、またそれを生み出す組織やプロセスをつくるコンサルティングに従事。コンセントサービスデザインチームの大規模プロジェクトにおいて多数リードを務めている。UX/SD関連セミナー登壇や国内外でのService Design Networkの活動のほか、UX TokyoのRosenfeld MediaのUX関連書籍の翻訳チームにも参加。飛び込み営業が社会人としての原体験であるため、泥臭いプロセスもわりと得意である。HCD-Net 認定人間中心設計専門家。

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