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井上達彦|今日からすぐ始められる「実践ガイド」 ゼロからつくるビジネスモデル【文末に動画あり】

こんにちは、小山龍介です。2012年の『ビジネスモデル・ジェネレーション』の翻訳をきっかけに、ビジネスモデルについてさまざまな実践をつみかさねてきました。ビジネスモデルは、直接さわることのできない構造です。ビジネスモデルをデザインするというのは、事業をモデル化して扱うという抽象思考と、実際の事業での実行という具体的実践のふたつが必要となる、複雑な営みです。これはそうかんたんにできることではない。それが、実感です。

そんな中で、アカデミックな世界での研究・教育に関わりながら、同時に極めて実践的なノウハウを持つ知恵者が、井上先生です。井上先生の授業に一度、ゲスト講師としてお呼び頂いたのですが、先生の『模倣の経営学』はじめ、抽象的な議論にとどまらない、泥臭い実践への取り組みに、大いに刺激を受けました。

その井上先生が満を持して、ビジネスモデルの本を出されました。その名も『ゼロからつくるビジネスモデル』。井上先生がいう「ゼロからつくる」は、まさに「ゼロ」から。今日からすぐ使える超実践的なノウハウは、きっと大きな武器になるはずです!

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ゼロからつくるビジネスモデル: 新しい価値を生み出す技術 井上 達彦 (著)  東洋経済新報社 (2019/11/29)
セミナー内容
ービジネスモデルの創造サイクル
ーロジカルな分析から、発想を飛躍させるためのコツ
ービジネスモデルのパターン(型)
ー模倣から始まるオリジナルのビジネスモデル

この記事では、講演の後半、小山龍介との対談をお届けします。

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理念も模倣できる

小山龍介(以下、小山) 最後に「軸」という話が出てきましたが、その「軸」はどうやって見つけたらいいんでしょう。もちろん、「模倣」は意識的にいろんなところから参考になるものを見つけて、創造活動の中で非常に重要なキーであることは実感としてあるんですけれど、一方で「軸」を見つけるということについては、他人の理念を模倣するというわけにはいかない。表面的にももちろん、本質的な理念に共感したとしても、それを取ってくることはできない。理念を模倣するってなかなかないですよね。

どうやって、自分の事業の理念を見つけていくのか、どんなふうに考えられていますか?

井上達彦(以下、井上) あるビジネスマンの方から「本当の模倣って無意識だよね」って言われたことがあるんですよ。たしかに親からの模倣って、模倣しようとしてやってないですよね。いろんな方から影響を受けてできあがるんですよね。

体系的にこれについて取り組んでいるビジネスバンクさんから聞いたのですが、理念は、ひとつが社会性(社会的使命に燃える、響く)、そして、収益性(マーケットの方を向いて「こういう事ができたら市場経済が変わる」とか「スーパーヒーローになれる、立地になれる」とか)、そして内発的なパッションに外発的な(環境問題など)影響を受けて理念が出来上がる。そんなふうに分けられますよ、と聞いたんです。

小山 実は、ぼくは理念も模倣じゃないかと思ってるんです。言葉としては「模倣」というより「継承」ですかね。ぼくらは、子どもの頃からいろんな人にいろんなことを教わってくるわけです。受け身で。それが無意識の中に溜まっていて、熱血の先生の言葉なんか、おとなになって思い出したりしますよね。無意識の中にある、自分がこれを大切にしようとか、それを大切にしている人から受けた薫陶みたいなものが、あるとき、すっと背骨になるんじゃないかと。

それはたぶん、模倣というよりは、厳密に言うと「先達がやってきたことを継承して突き詰めていこう」というところから生まれてるんじゃないかと思うんですが、いかがですか。

井上 小山さん、能楽をされてますよね。その話を聞いて、ぼくが思ったのは「守破離」です。親の背中を見ながら、育っていく。立ち居振る舞いだけじゃなくて、本当に模倣しているのは、その考え方、さらには継承しつつも高めていこうということですよね。まさに、その感覚だとぼくも思います。

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自分の内面にある他者との出会いが軸をつくる

小山 理念って、勉強してもわからなくて、自分の中で掘り下げて、掘り下げていったなかで、自分が大切にしていたものがこれだ! と見つかる。スノーピークの山井さんも、たぶん、なぜ自分がこんなにキャンプに惹かれるのか、途中で気づく。無意識が言語化されて、それがそのままビジョンになっている。本田宗一郎さんもそうですよね。いろいろ突き詰めていって、技術に対する思いをビジョンに掲げて、突き進めていった。

(自分の)内側に行くんですが、そこで出会うのは他人からもらった言葉。付け焼刃的に言うと、西田哲学の話で、自分の中に深く潜っていくほど、そこで他者と出会う。無意識は自分でコントロールできない他人のようなものですからね。自分が大切にしていること、実はそれは昔親から、あるいは先生から継承してきたものだった、と。そこで他人との接点ができて理念が生まれてくる。

自分を掘っていった先で、他者と出会って、そこに社会性が生まれる。そういう軸の作り方があるんじゃないかと思います。これは抽象とはまた違う働きですかね。

井上 具体と抽象で言うと、本田宗一郎も山井さんも、言語化しただけではなくて、プロダクトやサービスに落とした。ここが実務家のすばらしいところですよね。モノにする、そして使ってもらう。そこが具体ですね。

小山 そうですね。抽象の世界があって、内面に下っていくのは抽象化ではないですよね。内面に探っていく働きは、極めて個別具体的な、自分だけの物語に入っていくことなので、道徳的な抽象的な話じゃなくて、小学校4年の時の先生みたいな話で、掘り下げていくので、抽象ではないですよね。

ところが具体のさらに具体を掘っていく、もしかしたら抽象と具体のなかで体験した、無意識の中に感じ取っていた、言葉では表せられない、もやもやした暗黙のところに降りていくと、結果、ある種抽象化されたビジョンみたいなものが見えてくるのかなと思いました。

井上 野中郁次郎先生の暗黙知と形式知の往復運動をしながら、というところに繋がりますね。野中先生も場の哲学を……。

小山 そうですよね。野中先生も場を強調されていて、自分個人で掘り下げていくんじゃなくて、場にどう自分がいるのか、その存在を突き詰めていくところがあって。場というのは生まれ育ちとか環境とか、物理的なものだけじゃなくて、すべてのさまざまな影響関係、今回の言葉で言えば、模倣するときのさまざまな関係とも言えますよね。

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「思い」までをも模倣、継承する

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