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日本遺産にみる文化創造

2020年11月14日に開催された「文化観光フォーラム in 佐渡・新潟」での小山龍介講演記事です。

「文化創造

フォーラムのテーマになっている「文化創造」は言葉として非常に重要だ思っています。

文化財保護と文化振興は、別々の部局がやってきたという経緯があって、日本遺産に認定されて文化財活動をやっていこうという話になったとき、まずひとつは文化財の部局と観光の部局がなかなか連携できない、もうひとつは、文化「振興」と文化財「保護」がうまく溶け合わない、という問題が出てきます。

文化財保護は、たとえば建物を有形登録しようと思ったら50年以上歴史がないとダメ、古いものでないとダメだ、という。一方、文化振興は新しいものを作っていこう、と、時間軸の違いがあって、なかなかうまくいかないところがあります。

そういう意味でも今日、ここでテーマになっている『文化創造』を考えていくということは非常に重要なことかなと思っています。

ストーリーで認定される日本遺産

ご存知の方も多いと思いますが、日本遺産は、文化財を点ではなくて面で捉えようという着眼点で、これをストーリーで語っていくわけです。バラバラでやるんじゃなくて面で捉えていく。現在、104地域が認定され、地域型とシリアル型があり、観光、地域活性化、この2つの軸のために文化財活用するというのがテーマです。

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たとえば、新潟県十日町の認定の前にはこのふたつがありました。

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火焔型土器のストーリーでは、点であった火焔型土器の話、雪国での生活の話、山、川、海の幸の加工・保存など食の文化もあったりして、いろいろな文化をストーリーでつないでいこうとしていたものでした。北前船もそうです。

文化創造の3つのポイント

ひとつ目は、保存から活用、さらに文化創造に繋げていくこと。「活用する」というと、それを使い倒す、消費するという感じに受け取られてしまいがちなのですが、そうではないんです。

たとえば、この能楽堂をボロボロになるまで使うんだ、ということではなく、ここから新しい文化を発信していくような形で活用していく、文化をつくるためにこの能楽堂をある種の触媒にしていく、という議論です。

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会場は新潟県佐渡市 金井能楽堂

それから、地域内ではライバルというか、なかなか難しい関係があるんですよね。たとえば、この地域の中でも、佐渡の酒蔵さんがいくつかあるなかで、やっぱりお互いライバル関係でもあるわけですよね。

ふだんは競い合っているところが、いざ佐渡をPRしようとしたとき、仲間になる。この力を合わせるときに、実は日本遺産という枠組みは非常に有効です。

十日町の渡辺さん(※上の写真でお隣にいらっしゃいます)のおっしゃる通りシリアル型(複数の地域での認定)はなかなか難しいという側面もありまして、このあとご紹介したいと思います。

それから、即興劇。計画をするんではなくて、偶然、即興的に生まれてくるというそういうポイントにも触れていきたいと思っています。

事例として、住民が主人公となるような取り組みをしている『ゆずFeS』を取り上げてお話しします。

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望月先生(※望月照彦先生。フォーラムで基調講演されました。「ドラマツルギーツーリズムを楽しむ 知のワンダーランド・佐渡から「生き方(文化資本)」を学ぶだけ学び獲れ」)のお話のなかにもありました、主人公の視点になって文化を創造していくということ。これを実践している事例になります。土佐、高知県の東、室戸岬の少し手前の辺りの中芸地区で町村が連携してやっている『ゆずとりんてつ』というテーマの日本遺産での活動です。

1.保存から活用、さらに文化創造へ

まずひとつは、文化財を別の形で利用することをしています。能楽堂は能を披露する場所として昔から活用されてきましたが、今こういうふうにフォーラムをやってます。金山もそうですね、金を採掘するというもともとの目的があって、時代も変わり当初の目的が失われる。そのとき、当初の目的が失われた場所をどう活用するのか

たとえば「ゆずFes」でやっているのは廃墟探検ツアー。これは知る人ぞ知る、廃墟、朽ちていくようなところに専門家の助力もあってヘルメット被って行く。これが大人気で、こういったツアーを組んだらあっという間に特にマニアの人も含めて集まってくる。

また、隧道、トンネルですね、森林鉄道が走っていたトンネルの中でカフェをやろう、と。列車にまつわる歌を歌うなんていうイベントをやっています。

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金山のなかでカフェをやることだってできると思うんですよね。そこが金山であるから金山としてしか見ちゃいけない、と思ってしまうと、実はいきいきとした文化っていうのが生まれない。われわれ人間というのはこういうものがあったときに、ほかの用途で使えないだろうか、考えることができるんです。

そのことを建築家の青木淳さん(最近だと京都市美術館のリノベーションを手がけていらっしゃいます)は、未目的な場所ということで、『原っぱと遊園地』という言い方をしています。

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遊園地は乗り物の目的が決まってますよね。なので、「はい、ジェットコースター乗ります」ってなったら、そのジェットコースターという目的に合わせないといけない。

日本遺産に認定された地域、土佐の話もそうですし、佐渡っていう場所もそうなんですけれども、ある種「原っぱ」として、ここでどんなルールをつくってもいい、どんな遊びをしてもいい、いろんな遊びができる。そういう、目的を定めない場所として、いろんな人のアイデアを受け入れながらやっていく。このように地域を読み替えていくというのが、ひとつ文化創造していくときのポイントだと感じています。

2.ライバルさえ仲間になる〈場〉

中芸地区の「ゆずFes」では、3酒蔵の限定酒を味わう会というのをやりました。なんの変哲もないイベントのように見えるんですけれども、地元の人からすると「あの仲の悪い酒蔵が一緒になってイベントやるの!?」みたいな驚きをもって迎えられました。

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それまで競争していたライバル同士が、『日本遺産』という括りになった瞬間に、じゃあ力を合わせようということになったんです。

中芸地区では馬路村と北川村というゆずの生産で有名な村があります。北川村と馬路村、ここも仲が悪いんです。仲が悪い、ライバル関係である、でもそれをひとつにまとめるということに、日本遺産が非常に有効に機能しました。

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こういうふうに役者がいます。ライバル関係です。お互い切磋琢磨します。そこに観客がいる。互いの競争ではなくて、観客のために、もっとみんなで力を合わせて佐渡という舞台にしていく。ここに多様な役者を包括する〈場〉ができる。これが日本遺産の旗印の非常に大きなポイントでした。

中芸地区は日本遺産に認定されたことで、ライバル関係である彼らが力を合わせるということになります。今までは、地域のなかのお店、レストランとか居酒屋とかを「観客」として動いていたのが、日本遺産に認定されたことで、外からやって来る観光客を「観客」として意識するように、「土佐を改めて見直そう」ということになりました。

3.〈場〉で行われる即興劇

そして、「即興劇」です。これを言ったのがジェイン・ジェイコブス、都市思想家ともいわれている人です。この人は、都市が創造的になるときにどんなことがあるのか、それをひとつの都市だけじゃなくていろんな都市の関係性で解き明かしています。

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有名な話はニューヨークの非常に計画的な、イノベーション計画に反対するんですね。計画をした大規模な土地改革みたいなことは絶対失敗すると。そうではなくて草の根でその都度その都度即興的に(インプロビゼーションっていうんですけれども)つくっていく必要がある、と。

私も、今日宿根木を見てきたときに思いました。この佐渡という地域が非常に文化を蓄えたのは他の地域との関係があったからなんですね。

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ジェイン・ジェイコブスがこういう言い方をしています。「輸入置き換え」。どこかから輸入してきたものを、地元の力で置き換えていくときに、実はイノベーションが起きる。これを即興的にやる。

トヨタ自動車もそうです。自動織機から車をつくるようになったのは海外から輸入してきたものを何とか自分で作れないか、と考えた。北前船も、他から来た技術をなんとか自分たちで作れないだろうかと、この地域に文化が根づき新しいものを生み出してきた。

ただ、今の時代、技術を自前でやるよりも東京に行った方が早いということになってるんですよね。だから、結局東京に行っちゃう。そうではなくて、なんとかここでつくらないといけないというものにしないといけない。

これは一例ですが、佐賀県の窯元で在庫として積みあがった焼き物が倉庫に眠っています。この倉庫を「トレジャーハンティング」と言って、宝探しゲームに変えたんですね。1箱5000円で定額にして、冒頭にどんな焼き物に価値があるのかレクチャーを受けて探す、不良在庫を宝の山に見立てて、それをお客さんが主体的に発見をしていく、というゲームです。

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これはまさにこの場所に行かないと体験ができない、価値あるものに変えていたってことなんですね。

こういうふうな、ある種、ドラマを生み出すような、今までに地域にないものを置き換えて、違うものに変えて、そこに新しいストーリーを創造していくということが必要です。そういった意味で日本遺産も認定されたストーリーがあるんですけども、ここからはまさにストーリーを創造するってことですね。

それを即興的に生み出していく、それが東京ではできない、この佐渡でしかできないストーリーを加えていく。これらが、文化創造の重要なポイントかなと思っています。

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小山龍介 
文化庁委嘱日本遺産プロデューサー(2016年から3年間)
大分県文化財保存活用大綱策定委員(2019年)
大分県文化財保護審議会委員(2020年)




未来のイノベーションを生み出す人に向けて、世界をInspireする人やできごとを取り上げてお届けしたいと思っています。 どうぞよろしくお願いします。