日々に溶ける日常

「君って彼女のどこが好きだったの?」

そう、一緒に飲んでいる友人に急に言われた。すかさず僕は、

「全部。存在自体が好きだった」

「へえ。人に興味なかった昔とは全く違うな」

そう言うと友人は追加のハイボールを注文していた。

僕が彼女と出会ったのは約3年前の大学時代のどこにでもあるような飲み会。当時はかなり尖っていた僕はこの世の中には男友達とフランクオーシャンに勝るものはいないと思っていた。そんな飲み会の場で会ったのが彼女だった。特段趣味が一緒という訳でもなければ好みも違う、ただ一緒にいるだけで自分の存在が肯定されている居心地がただただ良かった。数回二人で会っただけで彼女のことを全て知っていた気になっていたし、すぐに好きになった。二人で行った金沢への旅行、長野でのキャンプ、その当時の時間が今思い返すだけでも瞬時によみがえるほど明確に覚えている。

2年ほど付き合ったある秋の帰り道。神妙な面持ちで彼女は唐突に僕に言ってきた。

「私の事、本当に好きなの?」

「なんで?好きだよ」

そう返すと、彼女もその時は納得したのかいつもの様子に戻りそのまま自宅に帰った。

その時くらいから徐々に二人の間で些細なことでの喧嘩が増え、距離も遠くなっていった。自分のどこが悪かったのか今でも思い返すことがあるが特に見当たらない。そして、その年の冬に別れることとなった。

「もう君の事、好きになれない」

「......なるほど」

2年ほど続いた関係があっけなく終わった。そして友人という関係に戻った。その時は世界の終わりかと思うほど僕は悲しかった。だけど別れてから時間が経つにつれて「もう君の事、好きにはなれない」という言葉を思い返してしまう。

ここで思うのは付き合っている人たちは”好き”というゴールが最終地点で継続的に付き合うのか、それとも”好きで居続ける”ことを大事にしていたのか、一向に答えは分からなかった。好きになれないという言葉に気を取られすぎて未だにどこかに期待してしまっている自分がいる。

目の前でハイボールを頼む友人に。

「なに?、なんか頼む?」

君は僕との過去はもう日々に溶け切っているが、まだ僕は溶けていない。


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