「会社が“忙し貧乏”に陥っている」#マーケの落とし穴 01

多くの企業が、「仕事が忙しいのに、儲からない」という、経営者が辛いだけでなく、社員の給料も上げようがない、シビアに言えば事業に関わる全員が将来に希望を持ちにくい事業構造にはまりこんでいます。

収益性が低い儲からない事業は、将来に向けた投資もできないので、経営として選択肢が狭まり、良いことはなにひとつありません。別に「儲からない事業に価値がない」とか、「関わる人は全員不幸」だと見下したいわけではありません。ただ、儲かったほうが、もっと事業の価値や関わる人の幸福度を上げる投資ができます。

創業時は、巨額の資金調達をするような一部のスタートアップのような会社でない限り、大半の会社は投資のリソースが少なく、限られています。

そのリソースを噛み砕くと、
・人(施策実行を担う人の絶対数が劣ったり)
・モノ(製造設備、顧客分析~CRMの高度で高額なソフトがなかったり)
・金(そもそも広告をうつお金はなかったり)
・販路(自社以外で販売してくれるチャネルがなかったり)
etc.

とにかく色々と無い無い尽くしで競合企業に劣るなかで、自社を選んでもらうというウルトラCを繰り出さないといけないのが事業をゼロから創業する難しさです。

その限られたリソースのなかで、創業間もなく、既存の競合や大手にくらべて知名度や信頼が劣る会社が市場で選ばれるには、乱暴に分ければ
・「価格の安さで勝つ」
・「上位ブランドとは異なる方向の顧客価値を感じてもらう(差別化)」

の2つしかありません。

事業は、この戦い方を定め、セオリーに沿った戦いかたを積み上げていかないと、忙し貧乏な事業になってしまいます。当たり前すぎる話に聞こえると思いますが、儲からない企業の大半はここでつまずいているのです。

「価格の安さで勝つ」のに儲かる事業の条件

多くの企業が創業時に選びがちな「価格の安さで勝つ」には、大きな落とし穴があります。それは、「構造的に安く提供できる仕組みがないと、売れたところで儲からない貧乏暇なしに陥ってしまうこと」です。

しかも、その構造がない安売りは収益性が低いため、既存の大手や競合企業が低価格攻勢で攻めてくると、売れなくなってあっさりと事業は潰れてしまいます。

では「構造的に安く提供できる仕組み」とはなにか?それは大きく3つの仕組みがあります。

【調達の優位性】
「牧場直営の焼き肉屋」みたいに、仕入れ調達において、良い商品を他よりも持続的に安く買える仕組みを持つことで、安く提供できる仕組み

【技術革新による原価低減】
楽天モバイルの”携帯電話ネットワークにおけるソフトとハードを分離する仮想化技術”のように、先行する大手携帯電話キャリアよりもコストダウンして提供する技術革新を持ち込むことで安く提供できる仕組み

【事業規模拡大後に、後からコストダウンできる】
ラクスルみたいに「ワンコイン500円の安値名刺印刷」でシェアを伸ばし、あとで事業がスケール拡大したら、規模の経済でコストダウンすることで収益を得る見立てからの逆算で安く提供できる仕組み(但し、大規模な資金調達をしないとキャッシュフローは成り立たず、また、事業規模拡大がコストダウンにつながる事業構造であることが必須)

価格の安さで勝負する企業の大半は、これらの仕組みを持たないのに安値で売って、社員の給料と会社の収益が削られていき、疲弊しています。

安値で成立の仕組みがないなら、差別化した価値を創るしかない

安値実現の仕組みを持たないなら企業ならば、「上位ブランドとは異なる顧客価値を実現する(差別化)」を志向し、安売りをせずに買ってもらう戦い方をしなければ収益が得られません。ちなみに差別化というのは、競合と違う商品・サービスを提供すれば良いという話ではなく、その違いが「顧客視点からみて意味がある、価値のある違い」であることが大切です。(西口一希さんは、これをミスリードしないように「独自化」とおっしゃっていて、まさに)

顧客視点から差別化の程度が大きく、その違いが魅力的であるほど、価格が高くても買ってもらえるため、創業から間もない企業でも、しっかりと収益が出るようになります。利益が出るようになれば、更に価値を高める投資ができる好循環が生まれますし、社員の給料を高めることもできます。

差別化の切り口は色々あり、それこそがクリエイティビティそのものですが、大別すれば3つの考え方があります。この3つは排他的ではなく重複もありえます。

差別化の代表的なアプローチ

1:ターゲット層~市場を絞り込み、そこに最適化した価値をつくりこむ

2:商品・サービスの提案~販売~提供~アフターサービスなどのプロセスで、他社ではやれない(もしくは、やっていない)ことを埋め込む

3:既存競合が自らやってきた商品・サービスの自己否定につながってしまうような価値観の商品・サービスを提供する

1であれば、例えば、顧客企業を大手ではなく中小企業に絞り込む、業種を絞り込む、地域を絞り込むなどして、その絞り込まれた固有のニーズに誰よりも深く応えることで選ばれるというものです。

仮に中小企業のITリテラシーが非常に低い層を狙うとしたら、低リテラシーでも理解しやすい言語表現やユーザーインターフェースなどで商品・サービスの設計をつくりこみ、導入しやすい料金体系や、初心者向けサポートを展開するというようなものです。

仮に競合が大手企業に最適化したやり方をしていれば、一定の支持をされるでしょう。(競合が将来、大手企業を獲得しつくしたら、中小企業向けにも事業展開してくるリスクは残りますが)

2であれば、プロダクトであれば、大手企業の調達規模や製造プロセスでは実現できない~しにくい価値~品質の追求にあたります。例えば、規模が大きすぎる企業では規格化~工業化されていて大ロットでしか受け付けないような工程を、自社では手作業で柔軟に対応し、小ロットでも受注して細かなカスタムニーズに応えるというようなものです。他社からすると効率が悪いので手を出さないが、自社の立場にとっては収益になるやり方を発見するようなイメージです。こだわりの小規模なコーヒー屋さんが、スターバックスの規模では量がまかなえずに使えないような高品質な特別なランクのコーヒー豆を原料に使うというのも、これに近いといえます。

商品ハードそのもので差別化できないビジネスだと、その提案プロセスや、導入カスタマイズや、導入後の支援サポートの手厚さで差別化することもあります。高度な商品知識や高いホスピタリティで鍛え上げた少数精鋭サービススタッフがいる(スタッフ数が少ないからこそ集中的に育成がしやすい)というような属人性の高い差別化のやり方もあります。

ただ、注意すべきは、差別化している方法自体が、事業拡大しにくいボトルネックになってしまうことです。例えば、少数だからできる高いレベルの人材や職人技での差別化は、拡大のボトルネックになる典型例です。

3であれば、顧客企業ごとにメインフレームのコンピュータ・サーバーを納品し、個別のカスタマイズしたソフトウェアを稼働させて運用支援していたようなシステム構築会社(Sier)に対して、顧客企業にはサーバーなどハードウェアを設置~納品せず、クラウドでソフトウェアサービスを提供するようなSaaSと呼ばれる企業の差別化です。前者に最適化した既存企業は、後者の方法を頭では理解しても、安易に転換できないような価値観とビジネスモデルの大きな違いがあり、既存プレイヤーの弱みをついた差別化となります。

リソースの投下量で勝つことができない、リソースの少ない創業フェーズでの戦い方のパターンは、持続的に低価格での提供でも儲かる仕組みがないのであれば、このような差別化を志向することが必須です。

尚且、その差別化した価値が一部の顧客にしか支持されないニッチで留まることなく、徐々にその価値を支持する顧客が多数派になっていくように、市場を啓蒙できたら、持続的な成長が期待できます。

付け加えると、このような価値の市場からの受容度を測定する定量調査は、創業時で市場シェアが小さいうちは、あまりやらなくても良いと思います。下手にメジャーなニーズとの乖離を気にしても仕方がなく、それよりもコアなターゲット層の定性的なインタビュー調査を細やかにやるほうが役にたちます。創業時は、最初はニッチでも良いので、特定の層にとって深く刺さる商品・サービスへと磨き上げる(最近ではPMF、プロダクトマーケットフィットと呼ばれます)のが大切です。

落とし穴を避けるポイント-------

「価格の安さで勝つ」ならば持続的に安く提供できる仕組みが必須、それがなければ「上位ブランドとは異なる方向の顧客価値を感じてもらう(差別化)」を目指す

ちなみに本記事の内容は専門用語では競争戦略とも言います。この投稿内容はマイケル・ポーター氏著作「マイケル・ポーターの競争戦略」を独自に改変しつつわかりやすく端折ったもの+独自の考えを付加したものです。

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こんな感じで、『1トピック完結で、マーケとその周辺領域の経営に関わる「落とし穴」』をテーマに、なるべく専門用語をつかわずに平易に定期的に書いてnoteを再開していこうと思います。

「落とし穴」に着目したのは、「事業を伸ばした話」は、後付け解釈の色が濃く、各社の固有の強み、事業モデル、市場環境との適性もあるため汎用性が低く、派手で目を引くものの読んだ方に役立つ可能性は低いから、です。

勝ちパターンに比べると、事業の「負けパターン」は汎用性が高く、「知っていれば避けられること」が多く、活用が容易なため。

そのほうが結果的に多くの方に即効性が高く、活きるかな、と。

マーケに限らず、事業戦略~経営まわりを幅広く書いていき、実際に事業経営とマーケを担う人に、プラクティカルに役に立ったと思っていただけるようなものを書きたいと思っています。

別に世の中に真新しい概念の戦略論を提示するのではなく、すでに大御所の方が提唱済みだけど、あまり事業現場で咀嚼~活用されていないことを、私なりの経験から現場感あるエピソード交えて翻訳する。そんな感覚できりとっていきます。

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