見出し画像

中国人留学生とウイグルジェノサイドについて話してみた

一年くらい前から中国語の勉強をしている。

個人での座学に加え、知り合いに中国人留学生を紹介してもらい、週に1回の頻度で、テーマを適当に決め、関連する語彙や表現について30分ほど話すというのをやっている。

話すテーマは自己紹介、医療面接、正月の過ごし方、流行りの漫画や音楽などで、コロナ禍やアメリカ大統領選などの時事ネタを扱うこともある。

そこで、意を決して、ウイグルジェノサイドというテーマを提案してみた。

結果、非常に印象深い洞察を得ることができたので、ここに報告する。


・・・

以下、中国人留学生をKとする。

Kは30歳くらいの女性で、北海道の某大学の大学院に在籍中である。

中国語と英語は堪能、日本語は片言。

おそらく知能は平均以上に高く、素朴で、明るくて、優しい「いい人」である。


まず、時系列的には、2021年1月19日に、アメリカ政府が公式にウイグルのジェノサイド(集団虐殺)を認定したというニュースがあった。


そして、2月2日にBBCが報道した、ウイグルが100万人以上収容されているとされる再教育施設内での組織的な性犯罪に関する証言が、世界に衝撃を与えた。


これらのニュースを受け、2月のレッスンで、次回のテーマはウイグルのジェノサイド でいきましょう、と私から提案した。

Kの表情はこわばり、ためらう様子もみられたが、関連のニュース記事を読むというテーマで、レッスンを行うことになった。


そして当日。

Kいわく、あれは嘘だ、と。

中国のニュースサイトの記事を引用しながら、Kは中国政府の無実を主張した。

ウイグルへの人権弾圧については、アメリカと中国の対立が激しく、アメリカ側が中国のイメージダウンを狙うために流したフェイクニュースだと言った。

ウイグルの証言を紹介する清水ともみ氏の漫画(英語版、中国語版)も読んでもらったが、「あれは嘘だと思う」とのこと。


上記漫画で証言しているミフリグル・トゥルソン氏は嘘つきだと断言して報じる中国語の記事を私に見せ、K自身も証言は嘘だと思うと熱心に話した。

Kいわく、

「こんなに酷いことが本当に起きていたら、中国人だってみんなわかるはず」

「多くの人が新疆に行くけど、みんな何もないと言っている」

「まわりの中国人の友達も、ウイグルのジェノサイドのニュースは嘘だと言っている。誰も信じていない。」

「台湾の人は反中なので、弾圧のニュースを信じる人は多いと思う」

「ウイグルを虐殺するメリットなんてそもそも何もないでしょう? 利益のないことを中国がするとは思えない」

「情報のソースはBBCのニュースだけでしょう? 証言は嘘つきのミフリグルだけでしょう? あれは中国のイメージを悪くするための嘘」

「日本では、信じている人が多いの?」

これを受け、私は以下を伝えた。

日本や英語圏では中国共産党政府による組織的なウイグルへの弾圧の事実を疑う人はほとんどおらず、主にインターネットを介して、虐殺、強制不妊、臓器移植、民族浄化について知り、多くの証言や歴史的事実に加え、証拠となる画像や動画や統計数字などが指し示す事実から、人権弾圧の疑いを強める人は日々増えている。

ウイグルへの人権弾圧にとどまらず、中国船は尖閣諸島近くの領海への侵犯を繰り返していることや、チベット、モンゴル、インド、フィリピンなど様々な国で軍事的な横暴を繰り返していることもあり、日本人の多くは中国人への怒りや憎しみが頂点に達しつつある。

するとKは「やばい」と呟き、泣きそうになった。

「でも、これは嘘だから」と言って。

だが、上記のミフリグル・トゥルソンさんが昨年、新疆の強制収容施設に入って亡くなったらしいことを告げると、衝撃を受けていたようだった。

「きっと嘘」と呟いて。

そして、憔悴した様子で、

「この話は重いから、次はもっと軽いテーマがいい」

と話していた。

私は、中国人がウイグルジェノサイドについてどのように考えているか知りたかっただけ、私自身がKに対し怒りや憎しみの感情は抱いているわけではない、中国人と中国人以外の人間では情報源が異なるために世界の見え方が違うんだろう、ただし世界中の人間が中国人に強い怒りを抱いているのは間違いないからヘイトクライムに注意してほしい、と告げた。

そして、レッスンを終えた。次回の話題は中華料理を扱うことにした。


・・・

このような直接の対話を経て、私はある結論に至った。

中国共産党政府は、自国民に対してもウイグルへのジェノサイドを隠蔽している。

考えてみれば、中国政府の管理下にある新聞社、テレビ、インターネットの検索エンジンやSNS、その他の公的な場面において、中国政府の立場を危うくするジェノサイドなどの話題について言及できるはずがないのだ。

中国語が母語である中国人は、中国の外で暮らしていても、スマートフォンで中国語のニュースに触れ、中国語のSNSやアプリを使用し、中国人のコミュニティの仲間と中国語をメインで話しながら暮らしている。

結果、14億人の中国人のうち、13億人くらいは非人道的な人権弾圧が起きているのに気づけないのではないか。

私に中国語を教えてくれている、おそらく一般的な中国人であり、知識層だと思われる留学生のKでさえも、ウイグルへのジェノサイドについて認識できず、中国政府の管理された情報下で、無邪気に日々を送っている。

彼女の中で、自国がジェノサイドを行っていると指摘された際に生じたのは、強い否認の感情だ。

残虐な事実を国家により隠蔽され、知らないうちに加担している事実は、直視するにはあまりにも重たい現実なんだろう。

非道な中国人が14億人いるのではなく、中国共産党政府の管理のもと、非道を行う数百万から数千万人程度の自国民の蛮行に、13億人以上の普通の人間は気づけない。

そんな現実を思い知らされる、自分の認識を変える体験だった。


・・・

だから、この記事を読んでいる人に伝えたい。

ウイグルの人権弾圧について、一人でも多くの日本人に伝えるのは必須だ。

しかし、それだけではなく、ウイグルのジェノサイドや、それ以外の中国による蛮行を止めるためには、「大多数の普通の中国人の洗脳を解く」というプロセスが必要になることを、理解してほしい。

個人個人の中国人には、真っ当な人も、心ある人も、たくさんいる。

真の敵は、残虐で、冷徹で、狡猾で、人を騙し、利用しながら、奪い、滅ぼし、食い尽くす、中国共産党の指導部である。

中国人とひとくくりにして、憎しみの感情を抱いて、相手構わず攻撃しても、なんの解決にもならないだろう。

そのために何をすべきか、を考える必要がある。

多くの人が救われるために、自分にできることを考えていきたいと思う。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?