お金の本 日本の古典から

■日本最初の経済小説家、井原西鶴
 今回は、お金に関する本をご紹介。
実用一辺倒ではおもしろくないので、ちょっと趣向を変えて、時代を思い切ってさかのぼってみました。江戸時代前期、日本で初めて経済を文学の題材にしたといわれる井原西鶴にスポットを当てます。

 西鶴は、1642年大阪生まれ。もとは松尾芭蕉と同門の俳諧師であり、互いにライバル意識を持っていたようですね。西鶴というと『好色一代男』とか『好色五人女』といった「好色もの」が有名ですが「町人もの3部作」と呼ばれる『日本永代蔵』『世間胸算用』『西鶴織留』には、お金にまつわる町人たちの喜怒哀楽がいきいきと描かれています。

■お金は「命の親」
 なかでも、『 日本永代蔵 』は、徹底的な節約で金持ちなった話や、新しいアイデアで人気の店を作った話、詳しい情報収集で儲ける話、また、逆に金の亡者になってあわれな末路を辿る男の話などが語られ、読み応えも充分です。
 まず、西鶴が勧めるのが「始末」= 節約。
《士農工商のほか出家神職に限らず、始末大明神のご託宣にまかせ、金銀を溜むべし。これ、二親の外に命の親なり》(巻1-1)
ともかく身分に関係なく、誰でも節約してお金を貯めなさいといっているわけですね。しかもお金は「命の親」であるとさえ言っています。

■西鶴はなぜお金を貯めるように勧めているのか?
 江戸時代、この本の読者はほとんどが町人です。武士や農民と違い、町人には武力も権力もなく、農地という生産力もありません。つまり、町人にとっては自分が手にしたお金だけが唯一のよりどころなのですね。それはもはや政府や会社をあてにできなくなった現在の私たちにも通じるところがあるのではないでしょうか。

 その他にも
《銀(かね)さへあれば、何事もなる事ぞかし》(巻3-2)
お金さえあればどうにでもなる。とか、
《世に銭ほど面白き物はなし》(巻4-3)
世の中にお金ほどおもしろいものはない。など、ほとんど「お金がすべて」といっているようにも思えますが、当然の事ながらそんな一方的な主張ばかりでは、古典文学として現代まで読み継がれるような作品にはなりえません。

 《世の中に、借銀の利息ほど、おそろしき物はなし》(巻1-1)
「人類最大の発明は複利である」といったのはアインシュタイン博士ですが、西鶴も当然のことながら複利の力、特に借金の利子の恐ろしさについてはちゃんと心得ています。

 また、ちょっとしたきっかけから遊興にはまり、家を潰してしまった話や、帳簿もきちんと合わせないようなずさんな経営で家業が傾いてしまった話、金儲けに走るあまり、粗悪品を客に売りつけ、最終的にはみじめな境遇に陥ってしまう話など、「お金」というものが持つ負の側面にも、きちんと踏み込んで、読者に注意を促しています。
 もちろん失敗例だけではなく、ビジネスの成功例も豊富に紹介されています。有名なのは、現在のデパート(三越)の前身となった三井九郎右衛門の話(巻1-4)。今では当たり前の現金取引や商品ごとのスペシャリストの育成、急ぎの注文にも即応するなど、以前とはまったく異なったマーケティング戦略で成功し、1日あたり約150両も儲けたとあります。

 『日本永代蔵』という書名は、日本中の商人たちの成功事例や失敗事例を調べ、後の人のために永久に保存して、必要な時にいつでも取り出して見ることができるように、との思いからつけられたものです。
 ですから、その内容は現代にも通じることが多く、お金に関心のある人なら一度は目を通しておいても損はないでしょう。

 実際、読み始めると、けっこうおもしろいですよ。

幸せを呼び込むポイント
・井原西鶴は、日本で初めて経済を題材にした人気作家
・本業を大切に、節約でお金を貯めていくというのが基本
・アイデア勝負の事例も豊富、マーケティングの参考にもなります


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