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「ボイスコミック」は視覚障害者が楽しめるマンガコンテンツ

わくい犬は、視覚に障害があるスタッフがいっぱいいる合同会社ブラインドライターズという会社を経営しています。
と同時に、フリーランスで「少女マンガ研究家」という名前でお仕事もしています。
ところがこのブラインドライターズと、少女マンガ研究家が、バッツリ分断されてしまっていて交わることがありません。

視覚障害者はほとんどマンガを読めない

「視覚障害者は点字を使う」というイメージが根強くありますが、視覚障害者のうち、点字が読めるのは1〜2割と言われています。ほとんどのかたは点字が読めないのです。その代わり、スマホやパソコンを使いこなしています。
文字の本は、電子になっていれば「自動読み上げ」という機能を使って音声化できます。パソコンの画面なども自動読み上げさせて使えます。
でもマンガは、データ上で一枚絵になってしまっているので、電子化されても読むことができないのです。

マンガは、音声図書化か、点訳されたもので読むことができます。しかしその総数は600冊ほど。全巻揃っているものも少なく、「読める」というレベルにはほど遠いです。

アニメ化されたりドラマ化や映画化されたりするマンガはありますが、ごく一部ですし、公開まで時間もかかります。
マンガは今や日本を代表する一大文化。今やマンガ作品が取り扱うテーマは多岐にわたり、ビジネスものから文芸作品のように高尚なメッセージがあるものまでさまざまです。

わくい犬はマンガにたくさんのことを教わりました。その恩恵は計り知れません。しかし視覚に障害があるというだけで、この文化にごっそり触れることができないのです。

視覚障害スタッフに教えてもらった「ボイスコミック」

ここ近年、「ボイスコミック」が人気だとか。
マンガ動画、ボイスマンガなどとも呼ばれますが、マンガに音声をつけた動画です。
マンガを画面に出しつつ、セリフやモノローグ、効果音などを音声化しています。

これが、視覚に障害のある方たちがマンガを楽しめるコンテンツになっているのです。
実際、わくい犬は弊社スタッフから「初めてマンガを読んだ」と言って教えてもらいました。

現在、さまざまな出版社・編集部がボイスコミックを制作しています。
今回は、Youtubeにコミックエッセイ劇場を開設している株式会社KADOKAWAのコミックエッセイ編集部 編集長、山崎旬さんにお話を伺いました。

声優ファンが原作ファンになる、いい流れ

「一番最初にボイスコミックを作ったきっかけは、2016年くらいに、ボイスコミックを専門に作っていた会社から『原作を提供してほしい』と声がかかったことです。その会社は出版社からマンガの版権を借りて自分たちでボイスコミックを制作し、公開していました。声優さんの卵にセリフを読んで応募してもらい、オーディションをして採用。効果音を入れて、マンガを元に動画を作り、アニメほど手間や費用をかけずにコンテンツ制作していたんです。何話かを無料で、そのあとは有料で見せるという形でした」(山崎さん)

そのサービスは終わってしまいましたが、KADOKAWA社内で動画編集部ができ、プロモーションを兼ねてボイスコミックを作ることになったそうです。

「原作マンガの売り上げにつながるような施策として作っていこうということになりました。ボイスコミック化する作品は大きく分けて2種類です。ひとつは、離婚やセックスレス、人間関係などがテーマで、寝る前に『続きが気になる』とつい見てしまうような作品です。もうひとつは、『ほむら先生はたぶんモテない』のように、キャラクターが立っていて、ストーリーよりもキャラクターそのものにファンがつく作品です。こちらは声優さんとの相性がいいので、第一線で活躍されているかたに声をかけています。ほむら先生役は『呪術廻戦』の榎木淳弥さんに当ててもらっているのですが、この作品はラブコメなので、ほむら先生がよくかっこいいことを言うんです。『榎木さんがこんなセリフを……!』とファンはたまらないようです。宣伝効果は抜群で、榎木さんファンのかたが原作を知って買ってくださったり、新しい読者を獲得しています」(山崎さん)

ボイスコミックに向くタイトルと、今後の展望

ボイスコミックの動画は10分前後と短いものが多いのですが、何話かをまとめて長時間にした「まとめ動画」が人気だとか。動画を熱心に見入るというよりは、何かをしながらラジオのように聞き流している人が多いようです。これ、まさに視覚障害者と同じ使い方ですね。

「ボイスコミックはアニメと違って脚本はなく、マンガのセリフやナレーションをそのまま読みます。画面の説明はほぼ行わないので、セリフの掛け合いだったり、主人公が感情を吐露していくタイプの作品が制作しやすいです。『ほむら先生……』は、続編を引き続き制作しています。描き下ろし以外はすべてボイスコミックで見られますよ」(山崎さん)

作品は描き下ろしを加えてコミックスにしているそうなので、宣伝のために制作しているとはいえ、1冊まるまるほぼボイスコミックで見られるようです。これは嬉しいですね!

しかもコミックエッセイや主人公の感情をメインに描く作品は映像化されにくいので、視覚障害者が触れられるマンガ作品が格段に増えたことになりそうです。

「読者を増やす目的もあるのですが、アニメ化も見据えています。主役級の声優さんに声をかけているので、アニメ制作者の目に止まらないかなという気持ちもあります。その際には声優さん続行でアニメ化を検討できるでしょう」(山崎さん)

制作の敷居が低く、宣伝効果も高い。ファンには好きな声優さんのボイスが楽しめ、新しい作品との出会いにもなる。その上、わくい犬の懸案事項だった「視覚障害者はマンガが読めない」問題を少しだけ解決できるのだから、ボイスコミックは夢しかありません。

制作者の方々には、ボイスコミックが、視覚に障害がある人、文字を認識できないディスレクシアの人、外国人など聴き取りはできるけど文字を読むのが得意ではない人、四肢に障害があるなどでページをめくる動作が大変な人などが楽しめる媒体であることも知ってもらえたらと思います。

お勧めボイスコミック

わくい犬の好きな作品をざっとご紹介しますね。お好みの作品が見つかると嬉しいです!

『離婚してもいいですか? 祥子の場合』野原広子

『ほむら先生はたぶんモテない』せかねこ

『ホタルの嫁入り』橘オレコ作

『末期ガンでも元気です 38歳エロ漫画家、大腸ガンになる』ひるなま


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