とある全盲の新入社員の働き方 ~テレワーク編~
こんにちは。アクセシビリティ・エンジニアのSUGIです。
私は全盲のエンジニアとして、2020年4月からサイボウズのデザイン&リサーチでお仕事をしています。
この記事はとある全盲社員の働き方の連載の最終記事です。
これまでツール編・自己表現編・協働編を連載してきました。
最後は、テレワーク編と題して、フルリモートワークという働き方についての話をします。
私は昨年10月からサイボウズでアルバイトしていて、コロナウイルスが発生する2月までは出社していました。
しかしそれ以降ずっと自宅でフルリモートワークをしています。
会社に出社したことは一度だけ、それもフルリモートの環境を向上させるためという名目で行きました。
この記事では、私がフルリモートワークをしていて感じたメリット、デメリット、工夫しているところについて紹介します。
私の仕事の紹介
毎度のことながら最初に軽く仕事内容を紹介します。
【仕事内容】
サイボウズ デザイン&リサーチには、アクセシビリティに特化したポカリ(Poca11y)チームがあります。
私はポカリチームで、kintone/Garoon/サイボウズ Officeといったサイボウズが手掛けるプロダクトのアクセシビリティ向上活動と、アクセシビリティの社内外への啓発活動を行っています。
定期的に開催している勉強会はテレビ会議システムを使ってオンラインで行います。
オンラインだからこそオフィスの拠点の制約を受けず、気軽に全国各地から参加可能というメリットがあります。
【作業環境】
スクリーンリーダーはオープンソースのNVDAをメインで利用しています。そのほかアクセシビリティ検証用にPC-Talkerをインストールしています。
NVDAにはいくつかアドオンを入れていますが、その中でも読み上げ履歴を100件までたどってクリップボードにコピーできるSpeech Historyが必須です。
フルリモートワークの背景
サイボウズは2010年ころから在宅勤務制度を開始しています。
そのためもともとフルリモートで働く社員はいましたし、週に数回在宅という人はたくさんいました。
そんな中、2020年2月から、コロナウイルスの影響で全社員原則フルリモートワークになりました。
前々から制度・ツール・風土を整備してきたために大きな混乱はなく進められているように感じます。
私は20卒として入社して以来ずっとフルリモートですが、特質して不便は感じていない現状です。
9月になって出社制限は緩和されているものの、出社率が1割程度、通常時は100人以上いるはずの開発部屋に10人程度しかいないなど、驚くべきほど少ないので、であるならば引き続き在宅でいいなと思っています。
もし今後出社率が右肩上がりに伸びてくるのであれば、出社するか再度考えようかなというぐあいです。
なお、サイボウズのテレワークの歴史やノウハウについては特設サイトで紹介されています。
フルリモートのメリット
まず、フルリモートワークのメリットについて私なりに感じたことを紹介します。
前提として私たちのチームはほぼずっとZoomでつないで一緒に仕事しています。
もしほぼ個人作業だったとしたらフルリモートへのモチベーションはだいぶ変わっていたでしょう。
1.通勤時間を有効活用できる
なによりこれです。通勤が不要なので、通勤にかかっていた時間を有効活用できます。
片道45分かかっていたとしたら往復で1時間半もの時間と体力を別のことに使えるんです。
インターンやサイボウズのアルバイトの時、片道1時間半かけて通勤していました。
当時は必要なことと割り切っていましたが、今考えるとよく頑張ったなと思います。
電車で揺られている間って、やれることが制限されてしまうんです。
イヤホンつけて学習したり音楽聞いたりしようにも電車の轟音で聞こえにくく、集中できません。
本を読もうにももし立っていたらそれも難しいです。(片手で白状、もう片方でつり革をつかむため両手がふさがってしまうからです)
通勤時間は割と目的地に着くまでの我慢大会のようでした。
フルリモートワークは、そんな通勤が一切不要です。
とても素晴らしいなと思いました。
今まで電車で時が流れるのを待つだけだった時間を、勉強や趣味に充てて有効活用できますね。
通勤で余計な体力も消耗しないので、良いコンディションで仕事を開始することもできます。
なんて生産性向上なんでしょう。
私のように視覚障害がある場合は通勤中の思わぬ事故が心配かもしれません。
雇用側もそれは心配の種と思っているかもしれません。
事故でなくとも、道に迷う、大量の自転車を回避するのに手間取ったなどの理由で遅刻するのが心配かもしれません。
しかしフルリモートの場合はそのような心配もありません。
事故や遅刻を不安視することもないですし、私は外を安全に歩くために集中力を保って体力消耗することもないのです。
出社しなくとも、Zoomやグループウェア、チームメンバーとのコミュニケーションで成果が出せればよいではないですか。
と、思ったりします。
もしフルリモートがコロナ名物のように語られて、終息後はしぼんでいくのだとしたら、とてももったいないことです。
2.会議室の移動が一瞬でできる
会議から別の会議への移動は、Zoomのミーティングルームを変えるだけ、一瞬でできます。
ZoomのミーティングIDやURLさへ知っていれば、どんな会議にだって参加できます。
つまり、物理的な障壁がないのです。
全盲だと会議室までの生き方を覚える必要があり、広いオフィスだとそれに時間かかったり困難だったりします。
知らない会議室の場合、周りの人に聞きながらになりますが、たどり着けるか確証がないので間に合うかなというストレスを受けます。
また人に場所を聞くにしても、周囲の人が忙しそうだったら気が引けます。
こうした移動のストレスが発生しないのは良いことだなと感じました。
Zoomの場合は一瞬で確実に目的の場所(ミーティングルーム)にたどり着けます。
一方で、純粋に人から場所を教えてもらったり声をかけてもらうのはうれしいし、良い刺激になります。
Zoomだとそういったイベントは発生しようにないのでそこはデメリットといえますね。
3.家のことができる
ちょっとした休憩時間に洗濯ものを取り込んだりAmazonからの荷物を受け取ったりできるのは素晴らしいです。
スマホの通知を見るのも気兼ねなくできますね。
別に良くないことをするわけではないですが気が散ってしまうので自分のペースでスマホが見れるのはやりやすいところです。
リモートの場合、仕事と休憩との境があいまいになりがちなので、明示的に休憩の時間をとってお茶を飲んだり家のことをするのがよさそうです。
良い気晴らしになりまし、時間を有効活用できます。
出社中に不在表がポスト投函されていたから再配達を依頼する、なんてことも不要です。
ちなみに自分は出社していたアルバイト時代に比べ、お茶を飲みに行く回数が増えました。
フルリモートのデメリット
次に、フルリモートワークしていて感じたデメリットについて紹介します。
1.運動不足になる
なによりこれです。通勤もしないしオフィス内の移動もないので圧倒的運動不足になりやすいです。
家の中で座って作業していて、家の中を時々移動するのみ。
歩数計確認してませんが、100歩いっているのかどうか…
自分はフルリモート開始直後は体が痛くなりました。
日常的に同じ姿勢を取り続けることは体への悪影響を与えるようですね。
フルリモート当初は地べたに正座して仕事していましたが、長期化するならばとちゃんとした椅子と机にしたら幾分か快適になりました。
通勤は時間の無駄だと上記で酷評しましたが、良い運動にはなっていたようです。
通勤したいとは思いませんが…
2.かかわる人が固定化する
固定メンバーで日々Zoomをつないでいるので、それ以外の人たちとの交流が生まれにくいです。
ちょっとした雑談が生まれにくいし、オフィスならでわの他の人のおしゃべりやキーボードのタイプなどの作業音も聞こえないです。
私たちのチームはZoomで日々仕事をするからいいものの、個人作業主体だったりすると孤独さは深刻化するような気はします。
オフラインの時に発生していた自然なランチや雑談などのイベントをオンラインでどう取り込んでいくか。
リモートメインで今後も仕事をしていくならば、わりと考えなくてはいけないですね。
3.精神的に滅入ることがある
たまにですが疲れることがあります。これは、コロナ引きこもりが原因です。
まだ終息していないので外には極力でないようにしていますが、そろそろ限界なのかもしれません。
人の活気を感じたり、知らない道をさまよって人に道を尋ねたり教えてもらったり。
こうしたリアルでの人とのかかわりは、オンラインとは違ったものなのでしょう。
そのため、リモートは働きやすいけれどたまには出社したり週末は外に出たりすることが精神衛生上大切なのだとこのごろ思います。
旅行いきたい~
フルリモートの工夫
最後に、フルリモートワークで仕事をしていく上での工夫を紹介します。
1.Zoomのリモートコントロール
スクリーンリーダーで操作不可能なアプリケーションに遭遇した場合は、Zoomのリモートコントロール機能でチームメンバーに遠隔操作してもらうことで解決しています。
リモートコントロールは、ZoomユーザーのPCを遠隔操作できる機能で、Zoomの標準機能です。
自分のPCと同じような感覚でマウスやキーボードを使って相手のPCを操作することができます。
この機能のおかげで、多々あるキーボードで押せないボタンやキーボードだけではたどり着けない画面などの障壁にぶち当たった時でも回避することができます。
出社していたら周囲の人に頼んで直接PCを操作してもらいますが、リモートでも遠隔操作で同じことができます。
2.ZoomのCTRL+2
Zoomミーティング中、CTRL+2(Windowsの場合)のショートカットキーを押すことで、その時に話している人の名前を読み上げてくれます。
この機能はなかなか優秀で、同時に複数人がしゃべっていた場合はすべての人の名前を律儀に報告してくれます。
これを使えば私は、会議の発言者を確実に、そしてこっそりと知ることができるのです。
この機能の存在を知った時、これを制作した人はよくわかっていると思って感動したものです。
私は声を聴き分けることで人を特定します。
声で人を特定できるまでには、何度もその人の声を聴いて特徴パターンを覚えなければならないので少し時間がかかります。
入学・入社などで環境が変わった時の最初且つ重要なミッションは、普段かかわる人の声と名前を一致させることです。
その点リモートワークになり、Zoom会議が主体となってからは、確実に名前を知る方法ができました。
会議中、適宜CTRL+2を押しては「こういう声は○○という人なんだな」と声と名前の一致を図っているわけです。
3.リモートデスクトップ
リモートデスクトップは手元のPCからネットワークで接続された他のPCを遠隔操作する手法です。
自宅用のノートPCで仕事していますが、オフィスのデスクトップPCのほうがスペックが良いので、開発業務はリモートデスクトップでオフィス環境に接続して行っています。
アクセシビリティ検証用のPC-TalkerもオフィスPCにインストールしているので、検証したいときはリモートデスクトップでつないでやっています。
リモートデスクトップの場合スクリーンリーダーの音声の遅延が気になっていましたが、0.2秒くらいなのでそれほどは支障なく使えています。
他、リモートデスクトップでの音声転送を考慮していなかったのか、スクリーンリーダーの読み上げ音声が安っぽい音になってしまうという問題もあるのですが慣れの問題です。
とはいえ、通信環境に依存するので快適なリモートワークをするためにもベストなネット環境は必須ですね。
リモートワークという選択肢を
2月から7か月間、フルリモートワークをしてきて感じたメリット・デメリット・工夫について紹介してきました。
総轄すると快適なフルリモートワーク生活を送っています。
自宅用のノートPC、Zoom、オプションでリモートデスクトップ環境さえあれば快適に仕事できます。
全盲の場合はモニター系はいりません。モニターコストはかからないです。
もしリモートワークという働き方をするかどうか悩んでいるならば、それは良い選択肢でやってみるべきだと思います。
これで全盲社員の働き方の連載は終わりです。
お読みいただきありがとうございました。
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