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失われた日本の美〜日本画聖地巡礼@山種美術館

山種美術館

住所:東京都渋谷区広尾3-12-36
https://www.yamatane-museum.jp/

タイトル画像は美術館のサイトより転載
会場にもパネルがあるが撮影禁止
(なのに昨日撮っている不届き者を見てしまった。)

2週連続で、山種美術館に行ってきた。

JR恵比寿駅から徒歩10分。
途中から、ゆるい上り坂を上った先にある。

途中にある恵比寿プライムスクエア
山種美術館

恵比寿駅周辺は賑わいがあるが、この辺りは人があまりいない。

駐車場はないので、歩きたくない人は恵比寿駅か渋谷駅からバスで行く方法がある。

山種美術館は2014年に50周年を迎えた美術館で、創立者は山崎種ニ氏(現在のSMBC日興証券創業者)。

『山種美術館の基本理念』
山種美術館は「美術を通じた社会貢献」という創立者の理念を継承し、
日本の自然や風土の中で磨かれてきた日本画の魅力を未来に引き継ぎ、
人々に感動や発見、喜びや安らぎをもたらすことができる美術館を目指します。

https://www.yamatane-museum.jp/

日本画好きには外せない美術館。

入った正面
『千羽鶴』加山又造 1977年

この前にある階段を下ると地下1階に展示室がある。

階段を降りたところ
実際はもう少し薄暗い
『山種美術館』安田靫彦書

エレベーターはこの場所の左手にある。壁面のボタンが美術館らしく普通のボタンと異なってオシャレな感じで初めて行った時は一瞬とまどった。
(写真を撮らなかったが、よくある正方形の中に三角があるタイプでない。)

『山種美術館』の書は、安田靫彦のもので、以下動画の2分23秒前後にある『飛鳥の春の額田王』は見たことがある方も多いと思う。

日本画聖地巡礼

今回の『日本画聖地巡礼』。
サブタイトルは
〜東山魁夷の京都、奥村土牛の鳴門〜となっている。

会期は、2023年9月30日(土)〜11月26日(日)まで。

絵画における聖地巡礼は、作品の題材となった地や画家と縁が深い場所に赴くこと。

名だたる日本画家たちが実際に訪れ、描いた場所を『聖地』とし、美術館に居ながらにして『聖地巡礼』を味わっていただける展覧会を開催します。
(中略)
本店では、鳴門海峡の渦潮を前に写生を繰り返した奥村土牛の《鳴門》、定宿から見える京都の町屋の光景を描いた東山魁夷の《年暮る》、樹齢1000年以上といわれる福島県・三春町の『三春滝桜』を画材とした橋本明治《朝陽桜》をはじめ、北海道から沖縄まで、日本各地を主題とした日本画の優品を一堂に展示します。

展覧会リーフレットより一部抜粋
本展の見どころ
リーフレットより転載

出品作リストはリンク先にアップされているのでご参考に。

東山魁夷《年暮る》に思う

今回の展覧会では、《京洛四季》の作品が展示されていた。

春夏秋冬の作品の中で私が大好きなのが冬を描いた《年暮る》。

この作品と詩文が大好きで、何回もこの絵を見に行っている。

この方のブログにとても共感した。

そもそも東山魁夷がこのシリーズを描くことにしたのは、作家川端康成氏の進言による。

「京都は、今描いていただかないと、なくなります。
京都のあるうちに、描いておいてください」

川端康成氏の言葉

同じく作家の池波正太郎氏もそのエッセイの中で近代化に伴い、銀座や京都やなどの自身の愛した場所の風情が失われてゆくことを憂いている。
若い頃からそれを読むたびになんとかできないものかと思っていたが、どうにもならず昭和までかろうじて残っていた日本らしきものは、失われて久しいと感じている。

このホテルオークラから東山方面を臨んだ風景は聖地巡礼をしたら、残念に思うだろうし、東山魁夷氏が見たら、『あの時描いておいてよかった』と思うだろう。

この《年暮る》は1968年。
昭和43年の作品である。

そこからまだ50数年で日本の美は失われてしまった。

今回、美術館でこの本を見た。

悩んで買わなかったが、帰宅したらnoteのサポートで少しだけAmazonギフト券のコードが届いていた。
せっかくなので一部使わせていただき買うことにした。
サポートしてくださった方ありがとうございます。
美術館関係に使わせていただきます。

こちらの本は持っていて今自宅にあり手元にないが、また読み返したくなった。
東山魁夷氏のエッセイは読むと心が落ち着いて好きだ。


国をつくる人に芸術を関心を寄せてほしい


もし1970年代当時、国をつくる人たちに少しでも芸術に関心を寄せる人がいたら、この東山魁夷の作品や文化人たちのエッセイを受けて、

近代化と美しさの共存

を模索してくれたかもしれない。

ヨーロッパや他の国でも美しさを維持しながら近代化を進めてきた国はいくらでもある。

山種美術館の周りは、渋谷区でもまだ古い住宅もちらほら残って静けさを保っているところもあるが、
一つ大きな通りに出たら、もはやごちゃごちゃの都会の街並み。

美術館で古き良き日本を見た後に一瞬にして現実に引き戻される。

どんなにお金があっても、長い時間と歴史を積み重ねてできてきた古い街並みを作ることはできない。
また同じだけの時間が必要だ。

東山魁夷氏の《年暮る》や日本画を通して昔を見るたびに残念でならない。

多くの外国人が訪れる京都。
昔はもっと日本の美があったのですよ。

日本をつくる人たちに、芸術に関心を寄せて、美しい日本を守る美意識を持ってもらいたいものだ。

奥村土牛《鳴門》

こちらの作品は、奥村土牛氏が鳴門海峡の渦潮を描いた作品。

船の上でのスケッチが大変で、
後ろから奥様に海に落ちないように帯を掴んでもらって必死にスケッチをしたエピソードが面白かった。
(本人は命懸けだと思うからごめんなさい。)

聖地巡礼なので、横には現地の写真が飾ってあるが、鳴門の渦潮の上に明石海峡大橋がどーん!と写っていて、絵画の雰囲気はこれまた皆無だった。

この《鳴門》は、今回の展覧会の一番最初に目につく場所に飾られている。


速水御舟《名樹散椿》

数ある作品の中で、東山魁夷氏の《年暮る》と同じくらい大好きな作品。

以前もここでこの作品を見ていいなぁと思った。

こちらは昭和期の美術品で初めて重要文化財に指定された絵画である。

金色の背景に、白、ピンク、赤、そして斑入りの椿が大きくゆったりと描かれている。

蕾や葉の一枚一枚、花びらも美しくずっと眺めていられる作品。

この椿の聖地は、昆陽山地蔵院、通称「椿寺」。
ここに咲く五色八重散椿を描いた作品。

聖地の紹介は2枚の写真で、1枚目は白黒。
2枚目はカラー。
理由は、1枚目はこの椿の初代。
寿命がきて枯れてしまったので今咲いているのは、その初代のDNAを受け継いだ2代目の椿。
その2代目の写真がカラーなのだ。

写真と作品は全く異なり、作品の方が花の数や椿の茂り方が抑えられている。

今、聖地巡礼をしても速水御舟が見た初代椿はない(残念)。


吉田善彦《草原の朝》

速水御舟と師弟関係にあったこの画家の尾瀬を描いた作品も良かった。


この師弟関係の展覧会が2021年に山種美術館であったのだが、当時薩摩国にいた私は行けなかったのだ。

こちらにいたら絶対行ったのに。

尾瀬三趣シリーズのこの作品もとても良くて何度も見てしまった。

この方がブログで紹介しており、今回展示があったのは、一番右の作品。

以下リンク先より転載

尾瀬ヶ原が大好きで、ニッコウキスゲが咲く頃も行ったけれど、もちろん現実世界はこんな柔らかい雰囲気ではなく、ニッコウキスゲの黄色は葉の緑と共に鮮やかだ。

それがこの吉田善彦氏の作品になるとこんな曖昧な世界になるのかと、人の感性の複雑さに驚く。

人の数だけ見える風景があるのだろうな。

最後に

山種美術館は、その展示数も程よくて好きである。

じっくり作品と向き合うのにあまり多すぎても疲れてしまう。

ワンフロアに収まるだけの展示。
展示室が2つあり、途中にミュージアムショップがあるから、鑑賞したり買い物したりができるのもいい。

1階のカフェでは作品をイメージした和菓子が食べられる。

先週と今週では展覧会が変わったから和菓子も変わっていた。
先週は時間がなくて食べなかったが、今週はその後フレンチを食べにいくのに気になり食べてみた。

本当は『散椿』か『除夜』を食べたかった
が、青色の見た目がそそられず。
『散椿』とかなり迷い、
次を考えあっさりそうなこちらに
『渓流の秋』
これは秋が深まると和菓子の色も
変わるとのこと

甘いものが好きな人には物足りないと思うので他のがおすすめ。

ちなみに次の展覧会は、『ゆるかわ』がテーマ。
かたいのはちょっと、という方も楽しめるかもしれません。

山種美術館、ぜひ行ってみてください。

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