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透析患者監視装置/コンソールの仕組み(ニプロ)

血液透析を担当する臨床工学技士はコンソールのメーカー主催の保守点検研修に参加し、装置の仕組み、構成、点検・修理法を学びます。装置の全体像を理解し、装置の急なトラブルにも対応できるようになり仕事のやりがいが格段に上がりました。ニプロの装置研修で学んだことをまとめます。ニプロのコンソールはNUC-8からNCV-3、NCV-3AQと更新されていますが、基本的なフローは同じなはず。フロー図は概略です。

NCU-8のフロー図

 F フィルタ

F フィルタ

供給された透析液はまずコンソール外部に設置されたフィルタを通ります。200μのポリプロピレンフィルタにより比較的大きなごみを除去し透析装置内部への侵入、電磁弁のリークを防ぐ。目詰まりは給水不足、リンスポート接続不良警報の原因となるため定期的に清掃を行います。

PS プレッシャスイッチ

PS プレッシャスイッチ

装置内部に入ります。プレッシャスイッチはセントラルからの給液圧を感知し給液の有無を検知します。感度が適切でないとラインの折れによる誤作動や洗浄が入らないなどの原因となる。プレッシャスイッチ上部の調整ねじは締め込み方向で感応圧力が上昇する。

PR 減圧弁

PR 減圧弁

常時オープンの状態で減圧の制御は流れの一方向にのみ行われ、セントラルからの給液圧をコンソール規定の締切圧まで減圧するとともに急激な圧変動を防止しています。個人用コンソールは直接RO装置から強い給液圧を受けるので内部保護のためフィルタの前に置かれることもあります。充填完了圧が高すぎると密閉回路内の圧力に影響をあたえ引きのこしの原因となる。

P1 送液ポンプ

P1 送液ポンプ

チャンバの新鮮透析液室に透析液を充填させるためのポンプ。充填完了圧をつくる。チャンバへの新鮮透析液の充填は25秒、充填圧が密閉回路内圧に影響を与えぬよう5秒間のチャンバ待機時間をおき、チャンバからダイアライザへの送液は30秒間のサイクルで行われる。ポンプヘッドは保守交換部品であり2年毎の交換、または5000時間毎の交換が推奨されている。セントラルに透析液脱気装置が取り付けられていない場合、P1は透析液から溶存空気を脱気するためマグネットギアポンプを用いる。アウト側ににAO1、脱気槽を設置する。

H ヒーター

H ヒーター

透析液を設定温度まで上昇させるための加温器。炭酸塩の析出を防ぐため加温部が直接透析液に触れない間接型ヒーターが使用されている。ヒーター下部にリミットスイッチをもち60度以上でヒータ電源を遮断し、ヒーター空焚きのメッセージが表示される。厚生省透析型人工腎臓装置承認基準には「透析液温を少なくとも36度から40度の範囲で調整できる機構でなければならない」「透析液温が41度を超えたとき、警報音を発し、表示灯を点灯し、加温用発熱体の電源を遮断する機構でなければならない。」「空焚きを防止する機構でなければならない。」と定められている。

T1 ヒーター出口温度センサー

白金抵抗を材料とした温度センサでT1はヒータの電力供給を制御している。ボディ、パッキン、波座金、センサで構成されており、ボディ、パッキンは2年毎の交換が推奨されている。新しい機種ではボディに劣化に強い飴茶色のPES材が使われている。

T2 ダイアライザ入口温度センサー

T2 ダイアライザ入口温度センサー

ダイアライザ直前に置かれ装置画面で表示されるモニタリング用の温度センサー。透析液温異常警報が出る場合、T1とT2を入れ替え、センサーの劣化によるものか基盤の異常によるものかをチェックする。

OL5 オリフィス 

ドーナツ形状でライン内に挿入されている。抵抗となり充填流量の粗調整としてはたらく。送液ポンプの出力の違いから東日本50Hz地域では1つ西日本60Hz地域では2つのオリフィスが使用される。

PC2 ピンチコック2

PC2 ピンチコック2

充填流量の微調整をおこなう。透析液流量によって調整値は異なるが透析液流量が500ml/minで使用するとき充填流量は625~675ml/min、充填時間は22~24秒になるように調整する。準備工程でメンテモードの動作状態で透析液がチャンバ内に充填されるタイミングにおいて廃液ラインに流量計を取り付けるか廃液中の時間をはかることで調整する。

V1 2方電磁弁(NC型)


V1とΦ1×3チューブ

無通電状態でクロースしている(ノーマルクロース・NC)2方電磁弁。電磁弁は圧力の高いほうをIN側として取り付けるがV1は電磁弁故障時でも充填完了圧が0.1MPa以上となると自然リークするようIN-OUTが実際の流れとは逆にとりつけられている。チャンバに透析液が充填される25秒間が終了し送液されるまでの5秒間のチャンバ待機期間にV1はonとなり余分な圧を逃がす。
圧逃げラインには内径1mmのΦ1×3チューブが用いられており抵抗を高めている。ECUM時にはオープンとなり締切圧のかかった供給液を排出している。下図は2方電磁弁の構造です。

二方電磁弁NC型
二方電磁弁NO型

二方電磁弁にはコイルに通電しない状態で閉状態であるノーマルクロース型と開状態であるノーマルオープン型がある。電磁石のコイルに電流を流すとプランジャ(可動鉄心)が磁気作用によりポールピースに引き寄せられ、非通電状態ではスプリングの復元力によってプランジャが元の位置にもどる。この作用を利用して弁の開閉を行っている。プランジャがダイアフラムを押す力はダイアフラム中央部のほうが強いため圧力の高いほうをin側として使用する。ダイアフラムは押さえつけによる変形や消毒による劣化を起こしやすく、定期的な交換が必要となります。下の図は3方電磁弁の構造です。

三方電磁弁の構造

3方電磁弁は非通電状態ではスプリングによりN.C側ダイアフラムがバルブボディを押さえ閉状態となりN.O側とCOM側が開状態となる。通電されるとプランジャがポールピースにひきつけられN.O側ダイアフラムがバルブボディを押さえ閉状態となりN.C側とCOM側が開状態となる。

V5、V7 3方電磁弁

V5、V7 3方電磁弁

V5はAチャンバの新鮮透析液室側に取り付けられている。V7はBチャンバの新鮮透析液室側に取り付けられている。V5、V7は交互にオープン、クロースしてA、Bふたつの新鮮透析液室に透析液を補充し続けます。

V2  2方電磁弁(NO型)V3  2方電磁弁(NC型)

V2とV3

NO型の2方電磁弁。新鮮透析液の送液ライン上にある。NO型の2方電磁弁はNCU-8ではV2のみで使われている。上の写真でニプロの採用しているNO型バルブとNC型バルブとの形状の違いがわかります。チャンバを用いないECUM時やガスパージ時にクロースする。ECUMではビスカス室とP2液圧ポンプが作動することで除水をおこなう。V3は充填回路側と密閉回路側を隔てている電磁弁。常に閉じていてガスパージ時オープンする。

NV2 ニードルバルブ

透析液流量を調整するための弁。流量計の右横に設置されている。

FM 流量計

流量計とニードルバルブ

密閉回路内の透析液流量を測定する。流量計下部にフローセンサーがついていて流量の有無を検出する。光学式センサによりフロートの動きを感知している。センサ接触面は繊細で静電気での汚れや外光での誤警報を出しやすい。流量異常警報が出る場合、センサー交換前にセンサーの他コンソールとの入れ替え、接触面の清掃、再固定を行う。

PG1 液圧センサー

液圧センサー

密閉回路内の透析液圧を測定する。ダイアライザ前にエンドトキシンカットフィルタをつける場合、圧力損失が大きいためダイアライザ後に液圧センサを取り付けることがある。液圧センサ校正はセンサ両端のシリコンチューブを外し、大気開放時に基板上のVR2を0±2mmHg(オフセット調整)300mmHg加圧時にVR1を300±5mmHg(ゲイン調整)となるよう基板上のトリマーで校正する。液圧センサー基盤のカバーには装置ブレーカーを落としてから取り外してくださいと注意書きが書かれています。高電圧部位があるのでしょうか。このカバーを取り外し、校正し、カバーを取り付けるときにカバーと基盤の間で静電放電が起こり、装置を壊してしまったことがあります。基盤は高額でした。基盤の取り扱い時には静電放電予防リストストラップを使用するなど対策が必要です。潜在的で対応に時間とコストのかかる医療機器の故障の多くが静電放電によるものであることが知られています。実際に体験しないと気をつけようとは思わないですし、リストストラップは作業に邪魔すぎます。自覚できないレベルの静電放電でも基盤は損傷し、接触していなくても静電放電は起こります。装置内部をのぞきこんだり、基盤近くで作業するときはバンディング、帯電した電気を装置のアース部分で逃がすなど注意する必要があります。

リストストラップの特長と用途 【通販モノタロウ】 (monotaro.com)

機械室 / 透析機器・装置の仕組み
透析患者監視装置/コンソールの仕組み(ニプロ)
続く→ 透析患者監視装置/コンソールの仕組み(ニプロ)2
透析患者監視装置/コンソールの仕組み(東レ)
透析患者監視装置/コンソールの仕組み(東レ) 2


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