あなたが生まれたその日の日 2/20

我ら、ツク様から授かりし眼にて
この國の光当たらぬ時、所を見定め
悠久をかけて護る者
誰も知らぬ深き森 ただ静かに 静かに

なんて、親戚の集まりで酔っ払った大人達が口にするもんですからすっかり覚えてしまいましたよ
恐らくそんな言葉が伝わるぐらいには私の家系の人達は謙虚な方が多かったんでしょう、そもそも警官や自衛官が多いのでそういう気質なのでしょうか
そんな血を受け継いだ私も…自分で言うのは何ですが謙虚に生きるようにしています、そう育てられたのもありますが
だからと言いますか、表舞台に立つようなタイプの人間では無いので誕生日とか祝われるのは…少しこそばゆいと言いますか…

「そういえば昴ちゃんそろそろ誕生日ね」
「そうですね~」
「今年はケーキ何にする?」
「いつものでいいですよ~」
「あらそう?」
「むしろ母さんの好きな物でもいいんじゃないですか?誕生日に一番苦労したでしょうし」
「そんな事言わないの、私にとっては昴が元気な事が一番のプレゼントなの」
「そういうものですか?」
「そういうものなの、昴も子供ができればわかるわよ」
「さていつになるでしょうねぇ」
「孫の顔が早くみたいわ~」
「それは兄さん達に先に言ってあげてくださいな」
「それもそうね」
(すいません兄さん…)
「まぁ何か思いついたら言ってちょうだい」
「はーい」


「うーん…」
「つくちゃんが悩んでるの珍しいね」
「あぁ純さん」
「どうかしたの?」
「いえ悩みという程では無いのですけどね…」
「んー?」
「その…私のー…ですねぇ…」
「うん」
「誕生日とー…言いますかー…?」
「あれ?つくちゃん早生まれなの?」
「そうなりますね~…今月の20日ですね…」
「おー、じゃあプレゼント用意しなきゃ」
「あぅ」
「?」
「いえそんな大丈夫ですよ…」
「えー?気にしなくていいのにー」
「んん…」
「…早生まれとか気にしてたりする?」
「いえ!そんなことはないですけど…」
「…」
「…その、祝われたりするのが苦手…いえ嫌ではないんですけど…」
「あー、ちょっとわかる」
「わかります?」
「何かこう、むず痒い感じ」
「そうなんですよね、慣れないものです」
「でも意外かも、つくちゃんそういうのは人のも自分のも好きそうなイメージだった」
「人のは好きですけどね、私はどちらかと言うと舞台裏で演出するほうが性に合ってるので」
「あー」
「なのでこの事は内緒に…」
「やだ」
「え!?」
「んまぁどうしても嫌なら流石に控えるけど」
「…それは一種の策でしょうか」
「策?」
「なんと言いますか…いえなんでも…」
「何にしようかな」
双子でも純さんはこう…強情と言いますか…突然真正面から突っ込んでくるような…
透さんがいかに素直かわかりますね…
いやこれは語弊が
「祝っていいのは!祝われる覚悟のあるやつだけだ!」
「…何ですかそれ?」
「何か撃っていい人らしい」
「撃っ…え?」
「でもつくちゃん私達の時絶対祝ってくるじゃん?」
「それはまぁ」
「でも私達はダメって言うんでしょ?」
「いえダメとは…」
「じゃあいいですね?」
「…はい」
「じゃあ透ちゃん達とも相談するねー」
「はい」
つよい
何でしょう、これが姉としての威厳でしょうか
…でも双子なんですね?

「という情報を仕入れました」
「どこからの情報?」
「関係筋からの情報です」
(本人だろ)
「よーし星をあげるぞー!」
「応!」
「帰るぞ」
「あー待って待って、プレゼント一緒に考えてー」
「知らねえよ、あいつの欲しい物なんか」
「そーなんだよねー、つくちゃんってあんまり欲あるように見えないし」
「謙虚だよねー」
「ohブッダ」
「ブフッ」
「小説とか好きかな」
「おい」
「そういえばさぁ、木菟森の木菟ってミミズクの事なんでしょ?ミミズク好きなのかな」
「名字なだけで好きかはまた別じゃない?」
「そうだけどー、でもあのハネっ毛あって嫌いだと逆に驚き感も無きにしもあるような無いような」
「まぁ気持ちはわかる」
「聞くかー」
「聞こっかー」
「…」

しかし欲しい物を改めて考えてみるとなかなか思いつかないですね
貰えるものは何でも嬉しいものですし
こういう時は好きなものをまず思い浮かべましょう
好きなもの…
「つくちゃんってミミズク好き?」
「え?ミミズク?」
「あの、フクロウっぽいの」
「生物学的には同じ生き物ですけどね」
「そうなの?」
「そうみたいです」
「はえー」
「で、ミミズクでしたっけ?好きですよー」
「やっぱり」
「やっぱり?」
「こっちの話、他に何か好きなのある?」
「他…他…」グググ
「あ゛ーお客様!首は回さないでください!怖いから!」
「え?あぁすいません…こう改まって聞かれると何でしょうって感じで」
「難しく考えなくてもいいのよ、例えば食べ物とか」
「基本何でも食べますし好きなので…」
「じゃあ本とか」
「読みますけど今は新しく欲しいのは無い…ですかね」
「…音楽!」
「普段そんなに聞かないので…」
「グギギ…」
「スイマセン…」
「ごめん何か悩ませちゃって」
「いえその、お気持ちだけでも嬉しいんですよ?本当に」
「でもどうせならさーという気持ち」
ここらへんは双子ですね…
「…作戦会議を開く!」
「はい」
…うん
あれはあれで楽しんでいると考えましょう
楽しみを取ってはいけませんよね

…双子、姉妹
そういえば兄さんたちは元気にしてるんでしょうか
久しぶりに会いたいですね

「何の成果も!得r(ry」
「そっかぁ…」
「もう何でもいいだろ何でも喜ぶだろあいつ」
(あげる気はあるのかわいい)
「正直そんな気も…いやいや諦めんぞ」
「ここは無難にミミズクグッズで攻めるべきでは?」
「でも皆同じってのもなんかぁって感じ」
「でもこの間のマリーの誕生日、皆からサングラス貰ったって言ってたよ?」
「まぁ…マリーだし…」
「シンプルにストレート勝負も時には大事なのよ」
「そー…するかぁ」
「ところできーちゃん決まってるの?」
「…あぁ」
「え、ウソ決まってんの?というかあげるの?」
「おい」
「何あげるの?」
「本」
「んー?でも欲しいのないって…」
「…貰ったからな」
「あー、小説貰ったんだっけ?」
「タイトルは?」
「お前に言う必要は無い」
「は~?どういう意味じゃコラ」
「お前にやるわけじゃないからな」
「それは そう」
「じゃあミミズクグッズ探しますかー」
「ミミズクグッズって…何?」
「さぁ…」

そういえば兄さん達、弟が欲しかったりしたんでしょうか
同性の方がやっぱり気が合うんでしょうかね
「姉さん」
「え!?アタシ?!」
「…いや透さんはやっぱり妹ですね」
「ん、うーん?そう?」
「可愛がりたくなるんですよ~むにむに~」
「んひー」
「透ちゃんは妹感あるよね」
「ですよねー」
「なんでいこん中じゃ一番早い生まれじゃい!」
「それはお姉ちゃんもです」
「逃れられぬ妹運命…」
「生まれた時はどっちが先だったんです?」
「あー前に聞いたことあるんだけどさー」
「『生まれた時からおんなじ顔してんだからどっちがどっちだかわかんないよ』って笑われた」
(流石に冗談では…?)
「というか何~?つくちゃん姉妹欲しいの?」
「それは内緒です」
「お兄ちゃんいるんだっけ?兄弟ってどんな感じ?」
「うーん…歳離れているので兄がどうこうっていうより単純に末っ子として可愛がられていると言いますか」
「おうつくちゃんが一番妹属性じゃけんのう」
「何そのキャラ」
「姉を敬え~」
「じゃあたまには勉強教えてもらって尊敬させてほしいですね~」
「…頭良いだけが姉の威厳じゃないし」
「姉にするなら割と牛鬼さんとかいいかもしれないですね」
「え~?そう?」
「意外としっかり見ててくれそうじゃないですか?」
「それわか」
「えあ~、それは何となく分かる」
(それは透さんだから、とは言わないでおきましょう)
「それで、プレゼントは決まったんですか?」
「お、ついにその気になってくれた?」
「楽しんでいるところを邪魔するのは無粋ですからね」
「うーんそうだけどそうじゃないんよ」
「楽しみにしてますよ~」
「しててね~」


「昴ちゃん昴ちゃん」
「はい?」
「何か食べたいものでも思いついた?」
「あぁその話、そうですねぇ…」
「ん~?」
「…初めて食べたケーキってどんなのでしたっけね」
「初めて食べたの?そうねぇ…5歳だったかしら、ケーキ屋さんに行ったら『これ食べたい!』って言ってミルクレープ指差してね」
「なかなか渋いところいきましたね私…」
「それが最初のじゃないかしら」
「んー、じゃあそれが食べたいです」
「はーい、んふふ」
「なーんですかー」
「だって去年とか一昨年は何も欲しいもの言わないから」
「そうでしたっけ?」
「そうよ」
「そうですか」
「そうですのよ」
「ふふふ」
「ふふふ」
「…それにしてもミルクレープですか、ショートケーキとかショコラケーキとかじゃなくて」
「なんか『しましまー』って笑ってたわよ」
「しましま」
「しましま」


「じゃあ夕方には帰りますので」
「はーい、おいしいもの作って待ってるわ」
なんだかんだしてる内に当日になってしまいました
休日なのでお出かけしつつプレゼントを貰う予定だそうです
…ちょっと早く来てしまいましたかね?
「おう」
「牛鬼さんって律儀ですよね」
「…あーだこーだ言われるのが嫌なんだよ」
「そういうものですよ」
「…」
「あ、もう来てる」
「ふいぃ、間に合った…」
「寝坊しましたか?」
「…お姉ちゃん」
「いや間に合ったし…1分あるし…」
「ふふふ、大丈夫ですよ、それで今日はどこに連れて行ってくれるんですか?」
「フクロウカフェなるお店があると聞いたのでそこに行くよん」
「あらいいじゃないですか!早く行きましょう!」
「行くよ行くよー」
「あいつ急にテンション上がったな」
「好きだって言ってたじゃん」
「…あぁ」

「あ~~~~~~~~~!」
”ホッホーウ”
「ホッホーウ」
”ホー”
「ホーホー」
”…” スッ
「よしよし」ナデナデ
「…つくちゃん何してんの?」
「まぁ挨拶と言いますか」
「話せるの?」
「さぁどうでしょう」
「えぇ…」
「ほー」
”…” クルッ
「あれぇ?」
「気分じゃないんですって」
「んー…」
「…」チョイチョイ
カプッ
「いでっ」
「何してるんですか牛鬼さん…ほら見せてください」
「…魔が差した」
「…大丈夫ですよ血は出てないです、少し悪戯したかったみたいですこの子」
(こいつみたいなやつだな…)
「もうちょい…」ソ~
ズボッ
「ほあ、指めっちゃ埋まる」
”ワッ!”
「おわ!?」
「あはは!」
「びっ…くりした、あんな鳴き方するの?」
「その子も悪戯好きみたいでんふふふ」
「んもー」
(つくちゃんめっちゃテンション高いな)

「は~楽しかったですね」
「お気に召したようで何より」
「そんじゃあどっかカフェ寄ってプレゼント渡そっか」
「じゃあ行きましょ~」

「というわけで、誰から渡す?」
「じゃあアタシー、はこれ」
「ありがとうございます、これ…あ!ぬいぐるみですか?」
「あるもんだねー」
「抱えるのにちょうどいいサイズですね~かわいい~」
「こう見るとほんとにリアルサイズだね、あのお店にいたのもこんぐらいだったし」
「ワシミミズクは大きくていいんですよ…」
「じゃあ次私ー、はこれ」
「これは…マグカップですね」
「デフォルメなのが可愛かった~ちょっとつくちゃんに似てる気もした」
「そうですかね?」
「あーなんとなくわかる」
「そうですか~?ふふふ」
(笑うともっと似てる気がする)
「じゃあ最後は牛鬼さんですか?」
「…ほら」
「あら本」
「…」
「帰ったらゆっくり…」
「どしたの?」
「…この組み合わせは、事前に打ち合わせしたんですか?」
「組み合わせ?」
「打ち合わせ?」
「何の話だ」
「…いえ、なんでも」
「?」
「まぁじゃあ改めてー」
「「誕生日おめでとー!」」
「ありがとうございます」
本を読むのにちょうど良さそうな組み合わせですね
マグカップに温かいお茶を淹れて、ぬいぐるみを抱えながら本を読む
何と、幸せな時間を頂いたんでしょうね


「ただいま戻りましたー」
「お帰り~ケーキも買ってあるわよ~」
「わーい」
「あ、それと」
「?」
「お兄ちゃん3人から何か来てたわよ」
「!」
「ご飯食べたら見てみたら」
「はい!」

”昴、誕生日おめでとう。
本当は直接言いたかったけど、仕事の関係で帰れなくてごめんな。
もう16歳になるのかな、あんなに小さかった昴がしっかり成長して私はとても嬉しいです。
…と書くと親みたいだな、って上の弟に言われてしまった…
まぁそういうわけでプレゼントは3人で相談して選んだので喜んでもらえると嬉しいです。
そういえば高校に上がってからの話をあまり聞いたことないなぁと思ったけど高校生活はどうかな…

といった感じで上の兄から手紙を3枚ほどびっしり、真ん中の兄は1枚ですがかなり心配してくれているような手紙を、下の兄は一言を添えた写真をいただきました
兄さん達も元気そうで安心しました、返事を書かないとですね
それとプレゼントは、ミミズクが描かれたブックカバーでした
…すごいですね
兄三人はともかく、ここまでいい組み合わせのものを一日で貰えるなんて


「また会ったね」
「あなたは…」
「誕生日のようだね、おめでとう」
「ありがとうございます」
「気付いてるようだけど、改めて言わせてもらおう
 静かに、謙虚に生きるのは美徳だ
 ただ人の善意を潰した瞬間、それは傲慢となる
 木菟森の血を引く者として、恥じぬ生を送れることを祈っている」
「…はい」
「…長く生きると、説教臭くなってしまってダメだね」
「いえ、ありがたいお言葉です」
「すまないね、じゃあそろそろ失礼するよ」
「はい」
「…眠くなったら、ちゃんと布団に入りなさい」
「え?…

…夢を見ていたようです
手紙を読んだ後、温かいお茶を淹れて、ぬいぐるみを抱きながら、カバーを付けて本を読んでいたら眠くなったようですね…
よく覚えていないのですが…懐かしい誰かに会ったような、そんな感じの夢でした
恥ずかしいからって人が祝ってくれるのをそう無下にしてはいけないものですね、その時はお返しにうんと祝い返してあげればいいんですよね
…多分そんな事を言われたような、気がします

今年はそんな気付きを得られた誕生日になりました
来年も何かを得られるように、精進していきたいです

我ら、ツク様から授かりし眼にて
この國の光当たらぬ時、所を見定め
悠久をかけて護る者
誰も知らぬ深き森 ただ静かに 静かに

いつか
この森にも 日が出づる時を

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