夏の日の白昼夢

暑いのは苦手。
汗でベタベタになるし、頭がうまく動かなくなる。
でも夏は嫌いじゃない。
夏はこう…なんかわくわくする。眩しくて、輝いてる。
だから辛かったことも、夏だったら思い出として笑える気がする。

たとえ、夏の日差しに倒れたとしても。


「今日の最高気温何度だっけ…」
「35℃超えるって聞きましたけど…」
「…いかれてんだろ」
「…」
「透ちゃん大丈夫?」
「…あー、あい」

あつい…
何?35℃?
へっ、アタシの体温には負けるね…
…何言ってんだろ

「この道日陰無いのが痛いですね…」
「さすがのつくちゃんもしんどいか」
「さすがに…そうですねぇ…」
「お前にもダメなことあるんだな…」
「なんですか…人は弱点の1つや2つあったほうが魅力があるんですよ…」
(それは個人的な弱点じゃなくて生物種的な弱点では…)
「はぁ…はぁ…」

頭がうまく動かない…
3人が何か話してる…

…この感覚、覚えてる
前にも あった

フッ

「…ん?」
「ぅぁ…」
「おい!?透!?」
「どうしたn…透ちゃん!」
「え!?大丈夫ですか!?」
「気持ち悪い…」
「おい!しっかりしろ!」
「ダメ!揺らさないで!」
「これ…熱中症ですか?いやこの場合は日射病?」
「この先に公園あったよね!?運ぶよ!」ガッ
「お、おう…」
「しっかり!私のことわかりますか!?」
「ぁー…つくちゃん…」
「そうですよ!皆さんいるから大丈夫ですよ!」

「よし…ベンチに寝かせて、あとは足の下にバッグを置いて…」
「私はどうすれば?」
「つくちゃんは救急車呼んで、きーちゃん!」
「あぁ…」
「しっかりして!きーちゃんの助けが必要なの!」
「悪い、何すればいいんだ…」
「近くにコンビニあったはずだからそこでスポドリを3本ぐらい買ってきて!あと氷!」
「わ、わかった」
「ぁぅ…」
「しっかり、絶対助けるからね」
「はい救急です、友人が吐き気と体温の上昇、あと意識も若干薄れてます、場所は…

「ハッ、ハッ」タッタッタッ
ウイーン
「らっしゃっs」
ダダダダ
「スポドリ3本…あと氷、よし」
「なんすかあの子…うお」
「ハァッ…ハァッ…早くしてくれ!」
「え、あ、はい」
ピッピッ
「658円d
「釣りはいい!」ダンッ
「あー…ありあっしたー」
ダダダダ
「…?」
「なに、どうしたの?すごい声聞こえてきたけど」
「さぁ…お釣り一応置いとくか…」

「救急車、すぐ来てくれるそうです」
「わかった…」
「ハァッ…ハァッ…買ってきたぞ…」
「ありがとう、2本を脇の下に…氷はタオルにくるんで太ももに挟んで」
「あぁ…」
「透ちゃんどう、飲み物飲める?」
「ぅー…なんとか…」
「じゃあほら、少しづつね」
「コクッコクッ…ふぅ…」
「しばらく寝てて、すぐ来るから」
「ん…グスッ…」
「大丈夫、ここにいるから」
「…それにしても純さん手慣れてますね」
「うん…透ちゃん、昔から暑さに弱くて何回か今日みたいになったことあるから…」
「そうでしたか…」
「まぁ…そうだね、もう慣れたもんだね」
「…」
「きーちゃんもありがとね」
「…別に」
「大丈夫?一本開けて飲んでもいいよ」
「いやいい…冷やすのに使うだろ」
「きーちゃんも暑い中走ってきたんだから、飲んで」
「…ん」

遠くで3人の声が聞こえる
ずっと遠くに
まるでアタシ1人、置いてかれたように
追いかけようとしても体が酷く重い
立ち上がろうとしても足がもつれてすぐ転んでしまう
どうにもできなくて涙が出そうになる
3人がそんなことするような人じゃないとわかっているからこそ、この幻が酷く悲しく、酷く辛いものに見えた
そう 幻
これが白昼夢というやつなのかな
よく知らないけど、何でもいいから早く覚めてほしかった
本当に、この感覚だけは慣れないなぁ

「あ、来ましたね」
「透ちゃん、もう大丈夫だよ」
「ん…」
「患者さんはそちらの方ですか?」
「はいこの子です」
「ではストレッチャー乗せますね、1,2,3」
「私も一緒に付き添って大丈夫ですか?」
「わかりました、では一緒に乗って下さい」
「牛鬼さんどうします?」
「…行くとこあるからいい」
「じゃあ私もここで、純さんお願いしますね」
「うん、ありがとね」

ピーポーピーポー

「…で、行くとこというのは?」
「さっき行ったコンビニ、というかお前は別に来なくていいぞ」
「いえ、ついでに何か買おうかと」
「…あっそ」

「らっしゃっ…あ」
「…さっきはすいませんでした」
「いえ…なんかあったんすか」
「…友人が倒れて」
「え、大丈夫なんすか」
「さっき救急車で運んでもらいました」
「それは…良かったっす、あ、これ」
「え?」
「お釣り、342円、あとレシート」
「…ありがとうございます」
「いーえー」
「…」
「フフッ」
「?」
「あーすんません、いえね、その子いい友人持ったなって」
「な…///」
「いらんことですけど、友人は大事にした方がいいっすよ、折角の縁なんすから」
「…はい」

「話終わりました?」ニュッ
「うぉっ」
「お願いしまーす」
「はーいー」ピッピッ
「お前ずいぶん買ってんな…」
「そりゃ牛鬼さんの分もありますし」
「は?」
「アイス、食べましょ」
「…あとで半分出す」
「別に良いですよ~今日ぐらいは奢りますよ、一番走りましたから」
「…うるせえ」

「ありあっしたー」
「あれさっきの子?」
「そっすね」
「何があったの?」
「…救出劇の一幕っすかね」
「え?」


「うーん…」
「あ、起きた」
「…救急車の中?」
「そうだよ」
「うえぇ…まだちょっと気持ち悪い…」
「着くまで目瞑ってな」
「ん…お姉ちゃん」
「ん?」
「…ありがと」
「ん」

その後、病院に着いて検査してもらって特に異常は無いとの事、でも念の為一日様子見で入院することになった。
そして駆けつけたお母さんにめたくそ心配された。
前も同じようなことがあった時に同じように心配されたけど…
やっぱ親ってそんなもんなのかね。
つくちゃんときーちゃんにも連絡した。
つくちゃんは声の感じはあまり変わらなかったけど、でも安心したような様子だった。
きーちゃんも…多分本人は隠してるつもりだったんだろうけど、何回か鼻すする音が聞こえた。素直に言えば良いのに。

何回か今日みたいに暑さにやられて倒れたことあるけど、いつもお姉ちゃんが助けてくれた。
初めての時も慌ててはいたけどちゃんと対処してくれてたし、ほんとにすごいなぁって思う。
アタシが助ける立場になった時に同じように冷静に動けるかって言うと…自信がない。そのまま取り返しの付かない事になるかと思うと…
だからお姉ちゃんはすごくかっこいい、自慢の姉だ。
普段はおっとりしてて優しい印象だけど、こういう時にかっこいいの本当にずるいなぁ…これだからお姉ちゃん好きなんだよなぁ。

「んふふ」
「何、どしたの」
「いや~、お姉ちゃんかっこいいなぁって」
「な、何いってんのもー…」
「へへっ」

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