あなたが生まれたその日の日 7/18

たまに「なぜ自分が生まれたか」というのを考える。
例えば、何かを為すため、何かに出会うため、そして
誰かを愛するため。
しかし私にそんな運命があるとも思えない、そんな大層な運命を持つやつは生まれから違うものだ。ずっとそう思ってた。
ただ、大層な運命は無いにしても、私の人生には一つ決まってた事があるらしい。

人生が大きく変わる「アイツ」との出会い。

「ねーきーちゃんって誕生日いつなの?」
「何だよ急に」
いつもの様に透が話しかけてくる、いつもと変わらぬ放課後
「いーじゃん、祝ってあげるからさー」
「別にいいよ…大して喜ぶもんでも無いだろ」
「え、嬉しいでしょ誕生日は…祝って貰えなかったの?」
「…さあな」
「何その反応、いーからおーしーえーろーよー」
うるさい…こいつは粘った所で面倒なのはわかってるのにどうにも癪に障る
…まあいいか、面倒だし
「7/18」
「7/18?今週末じゃん、もーもうちょっと早く教えてよね」
「聞いてきたの今さっきだろ無理言うな」
「しょうがないな、2人と相談するか」
そういってアイツはどっかに行った、あの2人のところに行ったんだろう
「…帰るか」
誕生日ね…ただ生まれた日ってだけでそんな嬉しいものなのかね
…7/18って休日だったよな

「さてお二人、きーちゃんの誕生日が7/18、つまり今週末だと判明したわけだけど…何プレゼントしようね」
「そもそも7/18って休みでしょ?前日にあげる?」
「そーなんよね、まあそれは後にでも考えよう」
「牛鬼さんって何あげたら喜ぶんでしょうね」
「んー…んー?」
「私は本にしましょうかね、たまに読んでますし」
「そういえばあんまり気にしてなかったけど何読んでるんだろ」
「それも聞かないとですね~」
「アタシはお菓子詰め合わせとかにしようかな」
「デパートに入ってるお高い?」
「高校生にはキツいなぁ…」
「…」
「お姉ちゃんさっきから何見てるの?」
「ん?内緒」
「え?」
「良いもの見つけたかもしれない」
「えー何よう、教えてよう」
「内緒ー」
「いっそ当日まで私達も内緒にします?」
「いーよー」
「まぁいいけど、お姉ちゃんにもか…」

「ねーきーちゃんって味の好みってどうなの」
「は?今度は何だよ」
「いーから」
「特にはねーけど…甘すぎるのは合わない」
「甘いのダメなんだ」
「ダメ…ではねーけど、好きでもない」
「ふーん、なるほどね」
「…なんだよ」
「べっつにー」

「…」(読書中)
「…」ソーッ
「…おい」
「あ、気づきました?」
「気づかれるような動きしてるからだろ」
「そんなつもりじゃなかったんですけどね~」
(どーせ本気出したら完全に気配消せるだろお前…)
「それでですね、前から気になってたんですけど何読んでるんです?」
「最初っからそう言えばいいだろ」
「だって素直に教えてくれないじゃないですかどうせー」
「…小説、古いの」
「太宰治とかとか夏目漱石とか?」
「まぁ…」
「海外ものとかはどうです?」
「あんまり読んだこと無い」
「ところでそれ図書室のですか?」
「図書館の」
「ははーなるほど」
「…もういいだろ」
「はい、ありがとうございます」

そんな感じで変なこと聞かれたりしたが…
あいつら何しようとしてんだ
そういえば純の方は何も聞いてきてないな

「さてアタシはとりあえず用意できたけどお二人は?」
「私も用意しましたよー」
「私もー」
「…お姉ちゃん、きーちゃんに何か聞いた?」
「ん?何も」
「んー…?何にしたのかますますわからん…」
「というかいつ渡します?」
「どうしよーねー」
「休日にどっかに集まって渡す?」
「そうしよっか、つくちゃんどう?」
「大丈夫ですよー」
「じゃあそんな感じで」
「「はーい」」

金曜に急に日時と場所してされて来いと言われたが…
暑い…くそっ、何だってこんな暑い日に…
休日だぞ…
「あら早いですね」
「おせーよ」
「まだ10分前ですけど…」
「私だってついさっきだ」
「律儀ですこと」
「遅いと文句言われるよりはましだろ」
「それもそうですね」

「あれ二人共来てんじゃん」
「遅くなってごめんね」
「もーお姉ちゃん休日だからって寝過ぎだよ」
「眠気には…勝てない…」
「2人も来ましたし、行きましょうか」
「どこに」
「公園、日陰なら大丈夫でしょ」
「はぁ…」

「と、いうわけで」
「「誕生日おめでとー」」「誕生日おめでとうございます」
「…はぁ」
「もうちょっと喜んでもいいんじゃない?」
「そういうもんなのか」
「えぇ…」
「じゃあ喜ぶもの渡しましょうか」
「お、渡す?」
「なんだよ」
「そりゃあれよ、誕生日プレゼント」
「…あぁそれで」
「じゃあ私からはこれを」
「…「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」か」
「どうです?」
「…正直気になってた作品だから驚いた」
「フフーン!」
「それがなけりゃ100点だったんだがな」
「120-20での100点ってところでしょう」
「…まあいいや、ありがたく受け取っておく」
「じゃあ次アタシー、アタシはこれ」
「なんだこれ」
「シガールっての、前に食べたことあっておいしかったから」
「ふーん…」
「まぁまぁ一本」
「…」サクサク
「…ん」
「どう?」
「…悪くない」
「おいしいって素直に言えばいいのにー」
「お前らなぜ自ら減点されるようなこと言うんだ」
「きーちゃんが素直にならんからでしょ」
「うるせえ」
「じゃあ最後私ー」
「…なんだこれ」
「花…の、髪留めですか?」
「そう、7/18の誕生花が月下美人らしくて、それでネットで調べたらこれが見つかって」
「すご、というかでか」
「これを私に付けろと…?」
「今日だけでも…ね?」
「…」
「お願い!絶対似合うと思うから!」
「…いや…似合うわけねえだろ」
「そう…」シュン
「…気が向いたら付けてやる」
「わーい」
(ちょろい)(ちょろいですね)
「お前ら言いたいことあるなら言え」
「「別にー」」

そんなどうでもいいことを話しながら菓子を食べて、その後は少し歩きながらまた喋った。
誕生日を祝うとかなんとか言っていたが、結局はなんてことはない休日になった。別に特別な扱いが苦手だったからそれで良かったが。

「じゃあちょっと飲み物買ってくるー」
「ほーい」
純と木菟森が飲み物を買いに行った。
…私だけが貰うのもあれだしな。
「なぁ」
「おん?」
「これ、お前も似合うと思ってんのか」
「月下美人の?似合うと思うよ、髪色と合いそう」
「…」パチッ
「…おー」
「…」
「いーじゃん似合うじゃん!これあれだね、ドレスとかちゃんとコーディネートしたらすごいことになるよこれ」
「…もういいだろ」パチッ
「あちょっと、写真撮らせてよ」
「…絶対に断る!!」
「ちぇー、2人にも見せたかったしせめてお姉ちゃんには見せてあげてよ…」
「ふん…」
「戻りましたよー」
「どしたの?」
「遅いよーせっかくきーちゃんgあでっ!」
「やめろ」
「どんだけ見られたくないのよ…」
「「?」」

歳を重ねるのは悲しむことではない、生き抜いた証なのだ。
そんな言葉を聞いたことがある。
私はこれで16年を生き抜いたことになる。
決して平穏無事な16年だったとは言えないが、それでも今この時間のためだったと思えば…いや、もう過ぎたことだ。
16になる少し前、私はあの2人とアイツに出会った。
穏便な出会いでは無かったが、それでも今思えば大事な出会いだったと思う。アイツとの出会いは間違いなく私の人生の大きな風だった。
生き抜いた褒美として神が出会わせてくれたというのなら、
何とおせっかいで
何と綺麗な贈り物なんだろう。

今日は菓子を食べながら本を読んで、

…髪留めに慣れる練習でもしようか。

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