Geranium

その色は、傭兵だった。
幼少の頃に親を亡くした少女は親戚中をたらい回しにされ、最終的にPMCを経営する男の元で暮らすことになった。
男は厳しかったが決して道理は外さなかった。
そして男は少女に様々な言語と戦う術を教えた。いつしか必ず役に立つと言って。
少女は恩を返そうと必死に努力した。英語、フランス語、ドイツ語、スペイン語、中国語。クラヴマガ、システマ、MAC、自衛隊格闘術。
幸運にも練習相手はいくらでもいた。PMCの社員が暇潰しにと少女の相手をしてくれた。ある者は文法を、ある者は組み手の相手を、ある者は国ごとの空気を。
少女はそんな彼らにも大きな恩を感じていた、だから少女が男のPMCに入社させて欲しいと言い出すのは必然だった。
それを喜ぶものはいなかった。だが否定するものもいなかった。
少女はいつしか片言ではあるが複数の言語を操り、同じ年頃の子に比べ強靭に育った少女に勝てる者は数える程となっていた。
誰もが優秀な社員になると確信していた。

そうして少女は入社した。

事前に一通り銃の扱い方を教える中で少女にはマークスマンとしての才があると男は感じていた。
数日後、男は少女にライフルとハンドガン、そしてナイフを贈った。この3つがあればお前はそう簡単には死なないと。少女は少し気後れしながらもありがたく貰った。また恩が出来てしまったと思いながら。

3つの贈り物を携え少女は初めての任務に向かった。
それほど難しい任務では無かった。
正確な情報があれば。

内容は敵基地までの進行ルートの確保であった。
警戒が薄い箇所を狙って道を切り開いていき、正規軍が安全に基地まで進めるようにする。ただそれだけだった。
前衛5人、後衛3人、少女は後衛についた。勾配がきつい地帯だったので高い位置からの支援がやりやすかった。それに前衛の5人は仲間のうちでも選りすぐりが揃っている、自分は援護に集中すればいい、そうした一種の安心感を感じていた。

だが事態は数百m進んだところで急変した。

敵と遭遇する事もあったが回避か排除で事なきを得た、今のところは問題ない。そう思った矢先、前衛の一人の頭が吹っ飛んだ。続いて二人、三人と倒れていった。
なぜ、いや違う、どこから、備えろ、構えろ、任務を遂行しろ。
頭は冷静だった、体も的確に反応していた。だが相手があまりにも多かった。
次々に仲間が倒れていく。
退避しつつ本部に連絡を入れる、作戦は失敗、と。
そして敵の銃弾が脚、脇腹、首に当たった。
急速に失われる意識の中で思う
彼のために何も出来なかった
私は何と 不孝者だろう と

「生きたいか」

不意に聞こえる声。耳を経由しない、脳に直接伝えられているような声。
いつの間にか目の前には帽子を被ったブロンドの女性が立っていた。

「生きる力を授けよう。だがこれからは純粋に人としては生きられない。それでも生きたいなら、手を貸そう。」

少女は答えた。まだ、何もなし得ていないのだ。生きて、彼に返さなければいけないのだ。だから答えた。


兵士達は8人の死亡を確認した、そして全員に撤退指示が出された。だが、突然立ち上がった少女がライフルで十数人を二秒足らずで殺した。兵士達は応戦したが銃弾は少女を掠めるだけで当たらなかった。
避けていたのだ。まるで見えているかのように。
そしてハンドガンで更に十人程を殺した。弾が無くなり、次にナイフで兵士達をなぎ倒していった。
至近距離ではさすがに避けきれなかったのか、弾が少女に当たった。だがそこから血は出なかった。まるで鉄板に当たったかのように多少凹んだだけだった。
そうしてそこに屍の山を作った少女は任務を続けた。数時間後、本部には敵基地を壊滅させたと少女から連絡が入った。

そして少女は消息を絶った。

俯きながら歩く少女は一人の女性と会った。

「君は生きる道を選んだ、もう人としては生きられない。だから私と共に生きてもらう。
私はスカーレット、君には新しい名を持ってもらう。
そうだな、君の名は ーーー




「マイン、仕事に使うものは…アー領収書下さい。リオン、そのthin bookナオして下さい。…エ?ホーゲン?カタズケル?…いいから早く! …はぁ、fatigué…今日はBier飲みましょうかね…」

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