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夏の行軍-普通科隊員の敵-

1.今考えたらとんでもない量の荷物だよね


 さて、冬の演習の話は書かせてもらったが、今度は“泥”の話をしようと思う。背嚢に担いでいる荷物と、小銃、その弾薬、状況によっては対戦車火器の弾など最低40キロくらいだった記憶がある。

 測ったことが無いので何とも言えないが、小隊長に聞いた話だと、総重量50キロを超える可能性があるみたいな話だったが、背嚢だけで50キロだと多分動けない様な気がする。多分30キロ前後とみるのが、無難だろうか。装備も含める重量50キロならそれが自然だ。

 因みに背嚢の中身だが、予備の靴下、下着、増加食もしくは支給された食糧、飲料水、外皮(ジャンパー)、雨衣など、とにかくあらゆる天候・環境に対応するための装備が積み込まれているのだが、これはニュースでもよく言われているのかもしれない。

2.「荷物って一緒に動く人によって変わらん?」「そもそも変わらねぇよ。」


 この背嚢の重量、少数行動になると飛躍的に増加する。特にレンジャーに随伴する場合、背嚢だけでも確実に40キロを超えていた記憶がある。もしかして小隊長はヘタら無いようにわざと軽く言っていたんだろうか。とにかく完全装備で”行軍”が始まる。

 夏の行軍のいいところは、雨さえ降らなければ重さと戦えば済む事だが、生憎雨の方が多かったので、そっちの話をしよう。何故かって?寧ろ雨の行軍の方がメインだからだ。”泥の恐怖”はここにある。そう、自衛官にとって夏最強の敵は雨と”泥”だと思う。

 自衛官を殺すにゃ弾など要らぬ、雨が三日も降ればよい。 こんな言葉が謳われるほど、雨は嫌われる。雨だけならいい。問題は、その雨がもたらす”人体へのダメージ”と”移動の制限”だ。自動車化部隊であれば、車両の脚を”泥”に取られる。

第17普通科連隊隊付教育(徒歩行進訓練)(山口)_R

 

3.だからこそリヤカーがある。というか機械は信用しねぇ。by陸士長


 じゃあ、”人間の足”なら何とかなるだろう、そう思う人も居るかもしれない。でもやはり”泥”はここにも襲い掛かる。ぬかるんだ土の”泥”はブーツに纏わりつき、その重量を増していく。そう、最大の負荷のかかる足にだ。“泥”の攻撃はこれだけじゃない。

 ブーツを通して足に水分が浸透してくる。対策として替えの靴下を履き、足にビニール袋を被せれば、蒸れるがまだマシだ、其れでも、足首の温度は確実に下がっていく。そして”泥”は歩けば歩くほど増えていき、ブーツは重くなる。

 雨で体温が消耗し、足回りも自由が利かない。そして背嚢の重量によって腕の先端に血が行き渡らなくなる。たまに背嚢を背負いなおして腕に血を回すと、”水が注がれる”様な感覚になる。慣れてしまえば自然とできる動作だが、慣れてない者は辛いだろう。

4.サバゲーできます!→歩けないと仕事になりません。


 歩兵の仕事は歩き抜く事だ。敵に攻撃できる範囲まで”機動”し、そしてそこから戦う動作に移らなくてはならない。ハイテク装備があろうが、泥だらけになり、”銃剣と足”で相手の戦線を押し出すのは、19世紀から変わらないのかもしれない。

 行軍距離は大体50km、75km、100kmで連隊長や中隊長の方針・或いは作戦の重要性によって変わる。教育では25kmだったと思う。配属後は上の三つはとりあえず一回りした筈だ。100km行軍は特殊メニューだとも聞いたが、何故か配属の連隊では恒常化していた。連隊の伝統によっては”自主的に特殊部隊化”しようとしている駐屯地にあるにはあるので、もし、陸上自衛隊に入ろうと考える人が居たら、そういう駐屯地もある事も覚悟しておいた方がいいだろう。楽な行軍はこの世には存在しない。

5.ちょっとした豆知識


・第94期一般幹部候補生 I 課程(前段)総合訓練DSC_9566

 そうそう忘れてた。 雨衣の防護能力にはあまり期待しない方がいい。私物のフッ素スプレーを定期的に掛けてやらないと逆に体力を奪っていく。雨衣の手入れはマメにしておいた方がいいと思う。







なお、写真は全て自衛隊公式HPより引用させていただきました。




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