見出し画像

冬の行軍-前編:地獄の始まり-


 Twitterでもそこそこ評価をいただいた面白自衛隊エピソードを披露できれば、結構伸びるのかもしれないが、生憎普通に勤務していたので、フォロワー数を伸ばしているアカウントの皆さん程面白いエピソードはない。 まぁ、雪山で意識を失いかけた事と、温食である筈のみそ汁に氷が張っていたくらいだろうか。

1.絶望の食事


 どんな時でも一番大事なのは食事だ。演習中でも変わらない。先輩の話だと、献立が少なすぎて精神をやられて退官した人も居るくらいだから馬鹿に出来ない。

 でだ、氷の張ったみそ汁に話を戻そう。いわゆるバッカン(断熱作用のあるボックスみたいなもん)に入ったみそ汁は、その性能的限界を超えた温度によって表面が凍り付いてしまったらしい。純粋な水じゃないから完全凍結はしないと言われた。

 デカい氷が張っていて、“デザートだ”と言いながら氷をかじっていた先輩もいたが、凍ったみそ汁が精神的にきついという人も居た。俺は後者だ。 小隊長は富士教だかにいたらしく、富士の演習場と比較してどうですか、と聞いたら恐ろしい答えが返ってきた。

三尉「この演習場の方がひでぇ。主に冬の環境。」 

2.山「お前らの生死など知った事か」


 山の条件の類とかだったら向こうの方が厳しいらしいが、俺の連隊がお世話になっていた演習場は、冬場になるとその富士よりもひどかったらしい。凍傷になった人も確かに多かった記憶がある。

 吹雪で前が全く見えない中、併進していた隣の小隊が連絡不能になった事もあったし、最後に参加した演習だと中隊本部の所在が一時不明になった事もあった。真っ白な闇、道を逸れたらどうなるか、答えは明白だ。

3.冷凍マグロの気持ちがわかった気がするby陸士長


 当然携行している増加食も凍り付く。断熱パックに入れた筈の握り飯、ウィダーインゼリー、飲料など口に入れるものは使い物にならなくなった。 持っていた機関銃のスライドも凍り付く、スライドの方は無理矢理引いて発砲したが、状況によってはキックするケースもあるらしい。

 着込んでいた白色偽装もパリパリと音がする。表面が凍り付いているのが動くたびに剥がれる音だ。文字通り人間も凍り付いている。鼻の中で何かがくっ付く感触があればそれは鼻毛だ。大体-15°から‐20で鼻毛が凍り付き始める。

 同期の一人も完全防備の筈が低体温症で後送されたり、と、接敵前に雪山に“撃破”されるんじゃないかと思った。 そんな時でもチョコレートは重宝出来た。かさばらないし、凍り付いても食べられる。そう、糖分が多めの奴がいいかもしれない。

4.ちょっとした豆知識


 そうそう、忘れてた。凍ると言えばジュースなんだが、アレは雪山にもっていかない方がいい。凍ることによって水分と、内容成分が完全に分離してやたらと味の濃いジュースだった何かが出来上がる。そして、容器内の水分=氷は解けないから重いだけだ。

 意識を失った話は次回にしておこう。

78式雪上車

地獄は続く





なお、写真は全て自衛隊公式HPより引用させていただきました。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?