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冬の行軍-後編:真っ白な悪夢-

1.俺は一体なぜこんなことをしているんだろう


 意識が飛びそうになった話はこっちにしよう。さて、これは俺が自衛官として参加した最後の冬季演習での出来事だった。凍り付く食い物、みそ汁、低温下で故障する機材その他に慣れて、普通科はこんなもんだと思っていた。


2.最後の敵は、やはり冬山だったか


 夏季の演習では中隊から離れて、やたら重武装を施された“変な集成班”に配属されたりして何となく仕事の事が解った気がしていた。そう、解った気がしていたのだ。だが、最後の敵は人間じゃなく雪山だった。


3.やめる決断は味噌汁だった。by陸士長


 いつも通り凍ったみそ汁を食って、小隊は行動を開始した。高機動車とどこから借りて来たか覚えてないが、雪上車が居たので大丈夫だろうと思ったし、ストーブもいつも通り動いてくれて問題がない、と思っていた。

 例によって余りにも吹雪が酷かったが、状況は続く。持ってきたストーブはそれなりに新しく、欠点と言えば、調節用のスパナが無くなって、どっかのホームセンターで勝ってきたやつで代用してたくらいだった。

4.すごく疲れたな、でもパトラッシュはいない。


 先輩と2回目くらいの斥候から帰ってきた辺りで、敵らしき影を捕捉した事を報告。その時の班長から「疲れたろう、火の番はいいから少し休め」と天幕で休ませてもらった。誰かが火の番をするみたいな話があったらしく、俺は目を閉じさせてもらった。寒いと眠くて眠くてしょうがなくなるのは、よく聞く話だ。だが、すごく気持ちよく眠れる。ストーブが近いと尚更だ。俺も眠くなって目を閉じた。「眠れるときに仮眠をしておけ」と事前に指示があったのは、消耗すると本当に動けくなくなるからだ。

 そう、気持ちよく眠った。
 どれくらい眠ったか解らないが、いきなり班長にたたき起こされた。めっちゃ肩をゆすられて起こされたから、あわてて自分の手元の小銃の脚をしまった。敵襲か?そんな話あったか?

5.寝たらボーナス受け取れないし、死んじゃうぞ


 体が思い通りに動かない。このままじゃ戦えない。
 それとも何かミスったか?無反動の弾は同期が持ってたはずだし、今回は俺じゃない。
「班長、何か、ありましたか?」
「飛田(俺氏仮名)!大丈夫か!」
 エヴァとか大好きな意外と気さくな班長だ。余り怒らない人だが、間違って飯盒持って行ってしまった時は笑いながらはたかれたくらいだろう。その人が余りにも血の気が引いた顔をして俺の肩をゆすっていて、意識の回復を確認して笑っていた。一酸化炭素中毒を防ぐために換気用の窓を開けていたせいで風が吹き込んでいたらしく、変に寒いと思ったら俺が祖ストーブの横で意識を失っていたらしい。幸い俺の横にあった小銃と銃剣は凍っていなかった。

6.敵に撃破される前に山に撃破される気がする。


 自衛官としての勤務の間、敵は最初から最後まで”山だった”と思う。夏は、寒暖の差と、雨と泥で。冬は吹雪と完全な視界不良と吹雪で・・・。山は文字通り“最大の敵”だった。自衛隊に入りたいと思っている学生さんや、ミリタリーが好きな人にはあまり面白くなさそうな体験談だが、このアカウントで出てくる自衛隊は、雪か、泥か、食い物か、残念ながらこれだけだ。

7.小林源文先生なら!!


冬季訓練検閲(第6施設大隊・神町)_R

 ふと思う。
 自衛隊が出てくるアニメや映画は、こういうのを描いてもあまり受けないな、と。でもこれが現実だから仕方がない。まかり間違って自衛隊のこういう同人誌を描きたい人が居たら多分売り上げは伸びないのを覚悟した方がいいだろうな。いや、小林源文先生なら、面白い話にしてくれる筈だ。

間違いない・・・。








なお、写真は全て自衛隊公式HPより引用させていただきました。

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