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BEYOND THE RUGBY. FB/マット マッガーン

日本で広く行われているラグビーは15人制と7人制だが、オーストラリアでは13人制(ラグビーリーグ)の方が15人制(ラグビーユニオン)より人気がある。13人制と15人制の垣根を超えて、国を超えて文化を超えてラグビーを続けてきたのがマット マッガーン選手だ。ラグビーという大人数で行うスポーツだからこそ如実に見えてくる多様性も愛して、そのラグビーライフは彼の生き方そのものにも思える。少しの間、マッガーン選手と一緒にラグビーを超えて旅してみませんか。

ラグビーリーグ(13人制)とラグビーユニオン(15人制)の間で

オーストラリア生まれ。1歳の時に家族でイギリスに渡り、6ヶ月後にニュージーランドに移住。父は、ラグビーリーグ(13人制ラグビー)のプロ選手だった。

「家族もラグビーリーグが好きでした。ですから高校入学までは、僕もラグビーリーグをやっていました。でも、僕が入ったニュージーランドの高校はラグビーユニオン(15人制ラグビー)がすごく人気があって、高校の友だちもみんなユニオンをやっていたので、自然と僕もユニオンを始めるようになりました」

オーストラリアではリーグの方が人気があるが、ニュージーランドではユニオンの方が人気だ。父にユニオンを始めたいと話をすると、「ユニオンをやった方がいいよ」と励ましてくれた。

「リーグとユニオン、両方好きなんですが、やるのはユニオンの方がワクワクします。テレビとかで見る分にはリーグの方が好きです。子供の頃からリーグを見て育って来たので、多分理解しやすいんだと思います。リーグはすごくシンプルなゲームなんです。ユニオンは、リーグよりもゲームが少し複雑ですね」

高校卒業後もユニオンでプレーしたいと考えていたが、最終学年の時に、オーストラリアのラグビーリーグ・プロチームである『メルボルンストーム』からプレシーズンのトレーニング参加の招待があり、練習生として2週間のトライアルに参加。

「将来、ラグビーユニオンでのプレーに役に立つと思って参加しました」と振り返るように、ラグビーリーグのプロ選手になりたかった訳では無かった。だが、テスト期間終了後に3年間のプロ選手契約を提示された。高校ではユニオンでニュージーランドスクール代表になったが、リーグはやっていなかったので迷いはあった。それでも卒業後メルボルンストームへの入団を決めた。

「ラグビーユニオンでは、通常高校卒業後すぐにプロ選手として契約することはありませんでした。まずアカデミーに入って、それからの契約になります。僕の場合もユニオンでやるのであれば、まずはアカデミーに入らなくてはならなかったので、卒業後すぐにプロ契約をしてくれるラグビーリーグのメルボルンストームに入団を決めました」

メルボルンストームには3シーズン在籍。

成功を急ぎ過ぎないこと

「メルボルンストームは、すごく成功しているクラブチームでした。そこのコーチや選手たちが、今の自分の土台を作ってくれました。毎週の準備の仕方、ハードワークすることなど、選手として成功するために必要なことを3年間教えてくれました。その3年間が無かったら今の自分は無いと考えています」

「僕が思うには、今の若い子たちは成功をすごく急ぎ過ぎているように感じます。5年後、10年後では無く、今すぐに全てを手に入れようとし過ぎているのでは。僕にとっては、メルボルンストームでの3年間は、とても大事な見習い期間だったと思います」と、充実した三年間を振り返る。

その後、まずはノースハーバーラグビーユニオンと契約。そして、当時スーパーラグビー『ブルーズ』(ニュージーランド)のヘッドコーチを務めていた元日本代表監督のジョン・カーワン氏からトライアル参加のオファーがあり、合格してブルーズへ入団。最初のシーズンは公式戦には一試合も出場できなかったが、2シーズン目に待望の初キャップを被ることができた。

オーストラリアとニュージーランドのカルチャーの違い

「今振り返ってみると、オーストラリアは頑張った者に対しては、その見返りをくれる。でも要求されるレベルも高い。例えば『ハードワークしてないね』とか『ここを改善しなさい』と直接的に言われます」と語る。

責任の取らせ方が違うとも感じている。「オーストラリアは結構厳しく叱責されたり、大きな声で怒られたりもする」が、「ニュージーランドは『見せてあげるよ、こうだよ、こうやるんだよ。一緒にやろう』という感じ」。

両国にはカルチャーの違いを感じたが、「僕は両方好きです。なぜなら、両方必要だと思うからです。タイミングによってはこっちが必要な時があるし、あっちが必要な時もある」と、どちらのカルチャーにも理解を示す。

そして、プレーの場を日本に移す

2017年シーズンにヤマハ発動機ジュビロ(※現在の静岡ブルーレヴズ)に移籍。オファーを受けた当時、オーストラリアやニュージーランドのラグビー選手が日本に移籍する場合は、キャリアの晩年に行くことが多かったが、日本でプレーしたことのある選手から「日本での時間はすごく楽しかった」という話も聞き、「日本に行ったことが無かったので、いいチャンス」と思って移籍を決断。

実際に日本でプレーしてみると、フィジカルの面ではオーストラリアやニュージーランドに比べて劣っているがスピードがすごく速いと感じた。

リーグワン2022-23シーズン第4節、ブラックラムズ東京対静岡ブルーレヴズ戦の試合後(※試合は、マッガーン選手の活躍もあり、勝利)、マッガーン選手がヤマハ発動機在籍当時のチームメイトであり、現在静岡BRのチームスタッフとなった五郎丸歩氏と話し込む姿が見られた。

「五郎丸さんは、当時外国人選手の面倒を結構見てくれていました。それで一緒に過ごした頃の話をしたりして笑い合っていました。彼はいいゴールキッカーでしたよね。僕がキックを蹴って勝った試合だったので、『五郎丸、僕にキックを教えてくれてありがとうねー!』みたいな話をしていました(笑)。『静岡BRに勝つ方法を教えてくれたのはあなただよー』ってね」。

ヤマハ発→スーパーラグビー経由→リコー着

2019年はラグビーワールドカップイヤーだったので、次のシーズンが始まるのが遅かった。そのため、日本に残ってプレシーズンを過ごすのか、それともニュージーランドに帰ってもう一度スーパーラグビーでやるのかという葛藤が芽生えた。

そのタイミングでスーパーラグビーのレッズからオファーがあり、入団。1シーズンを過ごした後、ノースハーバーでプレーしていたところ、リコーからオファーがあり、再度日本でプレーすることになった。

「まず、ホームグラウンドのある世田谷は素晴らしいエリアでした。そしてクラブにいる人たちがすごくラブリーで、一体感がとても良かったです。ただ、もっとハードワークできるんじゃないかと思いました。その頃のリコーは、ハードワークの習慣は薄かったように思えます。だけど、ファミリー的な一体感をすごく感じられるクラブでした」

「今は全く違うチームになったと言ってもいいかもしれません。初めて来た時には、外国人も日本人も休みの日に練習している選手は誰もいませんでした。今は休みの日であっても、フィールドにも、ジムにも、ロッカールームにも選手たちが何人もいて練習しています。昔とは全く違いますね。

たぶん、成功するために何が必要かという理解度が上がって来たんじゃないかなと思います。ラグビーだけでは無くて、どんなプロでもそうだと思うのですが、やっぱりやればやるほど戻ってくると僕は思っています」

ヒューワットHCになって、チームのDNAを確立

ヒューワットHCが来る前は、チームの『DNA』というコトバも意識も無かった。『ブラックラムズのDNA』ができているかということを、今練習でも試合でもチーム全員が常に拠り所にしているし、それがチームカルチャーにも繋がっている。例えば、泥臭いプレーができているか。最後まで諦めないプレーをしているか、等。

「チームカルチャーはユニークでなければいけないと思うし、カルチャーは生き物と同じで勝手に形を変えて行くものだと僕は思っています。そして選手がそれを形作っていくもの。ヒューワットHCは、『選手たちに期待するのはこういう事です、あなたたちが持たなければいけないスタンダードはこうです』と明確に伝えてくれます。今シーズン、大きな前進をしたと思っていることは、選手たちがお互いがやるべきことをちゃんとやっていくというカルチャーができてきたことです。それにファミリーの感覚もあって、だからこそユニークさがあるんじゃないかなと思います」

「これからチームがトップ4に入るために、足りていないことは何も無いと思います。必要なのは時間だけだと思います。時間はすごく大きなもので、このチームはまだ若い。僅差の試合だったりクロスゲームのきつい試合の経験とか、いくつかのシーズンを疲れた状態でやるとか、疲れた状態でもまた試合に行かなければいけないとか、痛いところがあっても試合をやり通すこととか、やっぱり成功するためにはそれらを経験する時間が必要だと思います。さっきも言ったように、若い人は早く結果を出したいと急ぎ過ぎている感じがしています。成功するためには、ミスをすることによって学ぶことも必要だと思います。時間をかけて徐々に成長していくこと。時間が必要なんだと思います。今のチームに足りないものがあるとすれば、時間だと思います」

「昨シーズンは怪我人が多く、なかなか思ったように上手く進まなかったのですが、今年はすごく大きな前進をしています。昨シーズンはトップ4のチームと戦って勝てそうだった試合は無かったと思いますが、今シーズンはトップ4常連のチームと対戦しても、勝ってもおかしくなかった試合が何試合かあります。2年でここまで来ました。あと2年後を考えてみたら、調子の波を無くして一貫性も身につけていけるんじゃないかと思います」

ラグビーの魅力とサポーターの存在

「ラグビーの魅力は、一体感というか、50人以上の人たちが同じ目標に向かって進んでいくところです。みんながきつい時期を一緒に過ごして、試合に勝った後の嬉しい時間も一緒に過ごして、いいパフォーマンスをしたらみんなで喜んで、みんなで一台のローラーコースターに一緒に乗っているような感じです。席の隣にはずっとみんながいるんです。それが、僕がラグビーの一番好きなところです」

「サポーター無しで僕たちがやっていくことはできません。ファンの皆さんが僕たちのラグビーをチケットを買ってまでして観に来てくれたり、チームをサポートするためにグッズを買ってくれたりとか、そういうことによって、選手たちも試合に出てプレーしたいという気持ちにつながるわけです。ものすごく皆さんのサポートには感謝しています。勝っても負けても関係無くいつも試合を観に来てくれるサポーターの方々がいて、結果が出ていない時でもSNSなどでも応援してもらって、それってすごく日本独特の特別なものなんじゃないかなと思います。勝っても負けても、いい時じゃ無くてもしっかり後ろにいてサポートしてくれる日本のファンの皆さんはすごく特別な存在だと思います。

さっき言った、みんなで乗っているローラーコースターには僕たちチームの選手やスタッフばかりでは無くサポーターの皆さんも一緒に乗っているんだと思っています」

ファンの皆さん、どうぞマッガーン選手と一緒のローラーコースターに乗ってラグビーを楽しんでください。


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