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ロックなラグビー人生。 LO 柳川大樹

敵陣ゴールライン手前22m付近の密集からすっとギャップを突いて抜け出し、大きなストライドでしなやかに加速しトライする長身の選手に目を奪われる。LO 柳川だ。その加速やアジリティは普通のロックのそれでは無い。今では191cm、108kgのロックらしい立派な体躯だが、中学3年時、その才能を高校のラグビー部の監督に見込まれてスカウトされた時は、身長170cm程度のバスケットボール選手だった。監督は柳川のどこにラグビー選手の素質を見出し、最初からロックにしたのだろう。ロック一筋の柳川のラグビー人生を辿ってみよう。

バスケット部からの転向

徳島県で生まれ育った。小学校の時に単純に楽しそうだったからバスケットボールを始め、中学校時代も部活動で続けた。

「その頃、スラムダンクは流行っていましたけど、その程度ですね。中学校時代は徳島県大会に出て優勝したりしていましたが、僕は補欠でした」
 
今の191cmの本人を目の前にして、中学校の時はバスケをやっていたと聞くと、『ああやっぱりな』と思うかもしれないが、中学校3年生までは、身長は170cm程度しかなかったのだ。

「兄が高校の部活でラグビーをやっていて、その監督に勧誘していただいて高校にはスポーツ推薦で入りました。徳島県ではほとんどのラグビー選手が高校から始めるので、未経験者を勧誘することは珍しいことではなかったと思います」

その3歳年上の兄は身長190cmあり、高校日本代表にも選ばれ、両親も大柄だったことから、ラグビー部監督が柳川には弟がいると聞き、大樹の出場しているバスケットボールの大会を見に来たらしい。監督が想像していたより大樹はずっと小さかったが、そのしなやかな身体能力に可能性を見出した。

「高校に入った頃から背が伸び出しました。1年間で10cmぐらい伸びて、卒業する頃には190cmになっていました」

「バスケットをやっていたので、ハンドリングは自分では普通にやっているつもりでしたが、他の人より少しうまかったかもしれません」

身長が急激に伸びる共に、持ち前のハンドリング技術の高さに加えて、コンタクトにも強くなり自信もついてきた。そして3年生時には、ついに目標であった花園出場を果たした。

「ポジションは、最初からずっとロックです。コンタクトは怖かったですが、辞めようとは思いませんでした。とにかくがむしゃらにやっていました。兄も花園に出ていましたし、自分も花園を目標にやっていました。自分が3年生で花園に出場した時の部員数は22名でした。リザーブメンバーを含めた試合登録人数ピッタリしかいませんでした。怪我人が出たりすると、他の運動部から助っ人に来てもらって試合をしていましたね」

全国レベルの大学に入学し、年代別日本代表に

大学は、監督から「行けば絶対に伸びる」と勧められた言葉を信じて、監督の母校でもある大阪体育大学に入学。

「大阪体育大学ラグビー部には、全国の強豪高校から選手が集まっていたので、最初はレベルが高いと感じましたがすぐに慣れました」

その言葉通り、柳川は1年生時から試合メンバー入りを果たし、2年生時にはU-20日本代表候補に選出されるなど、選りすぐりのメンバーの中で揉まれながらもラグビー選手として成長していった。

「社会人になってもラグビーを続けようと思っていたので、就職活動をすることもありませんでした」

大学3年の夏、合宿地の菅平に当時のリコーブラックラムズヘッドコーチ(HC)のトッド・ローデンが見にきており、加入を打診された。そして柳川は、迷わずリコーに入社することを決めた。

3.11東日本大震災の年にリコー入社

「僕がリコーに入社したのは、2011年の春でちょうど3.11東日本大震災があった年でした。3月28日に上京して、4月1日が入社式でした。その頃のリコーラグビー部は、日本人選手のほとんどは社員選手だったのですが、仕事を終えて夜7時ごろから9時ごろまで練習を行なっていました。震災後しばらくは、節電のため、みんな昼までで業務を切り上げるようになりましたが、新人は早朝に練習してその後に研修に出ていました。当時、外国人選手はみんなプロ契約でしたが、日本人選手に関しては、トップのカテゴリーであっても、今よりも仕事とラグビーを両立させるのが普通の時代でしたね」

リコーの社業としては、柳川は省庁関係をクライアントにした営業を担当している。今はリモートワークが中心となったが、当時は日中はオフィスで業務を行ったりクライアントを訪問したりして、夕方から砧グラウンドで練習を行なっていた。

「クライアントは体育会系なので、けっこう声を掛けられたりします。今はオフィスには週明けのミーティングに行ける時に参加したりしています。上司にはラグビー優先にしてもらって、応援してもらっています」

今いろいろな選手に尋ねても「ファミリー」と言う言葉がキーワードとして出てくるブラックラムズのチームカルチャーだが、入部当時は、どんなチームの雰囲気だったんだろうか。

「昔から仲の良いチームで、僕はこの雰囲気が好きですね。ノヌー(※マア・ノヌー選手。元オールブラックスで不動のセンター)と同じ年に入部したのですが、ノヌーが食堂で一緒にご飯食べているのを見た時にはやっぱりびっくりしましたね(笑)」

最初は外国人選手のフィジカルの強さに苦戦していた柳川だが、入社1年目の5月にはセブンズ日本代表合宿メンバーに選出され、9月に行われたHSBCアジアセブンズシリーズ2011「ボルネオセブンズ」の日本選抜メンバーに名を連ね、日本の優勝に貢献した。

そして、セブンズの経験からボールキープのスキルを伸ばし当たりにも負けないようになって自信も付いてきた。1年目のシーズン開幕戦からスタメンに抜擢され、リーグ戦全13試合中11試合に出場し、チームのクラブ年間アワードで新人賞に輝いた。

当時の自分自身の実感とチーム状況の変遷を次のように語る。

「もちろん外国人のインパクトプレーヤーは強いんですけど、レベルの違いは、正直そんなに感じなかったです。別にそこで日和ってしまうというようなことは無かったです。昔から勢いに乗れば強いチームでした。逆に言えば、勢いが無くなるとすごく弱くなっちゃうんですけど。調子が悪い時にあたふたしてしまって、対応力が全然無かったですね。今ヒューワットHCは、その波を無くすためにプロセスを大事にしてやってますね。それでどんどん改善されてきて、調子の波が少なくなってきたと思います」

ベテランプレーヤーの役割

さて時は流れて今、ベテランと呼ばれる年齢になった柳川は、チームに対してどういうことを心掛けているのだろうか。

「試合に出ていない選手は、結構気に掛けています。出ていない選手も僕は大事だと思うので、「腐るなよ」とか声を掛けるようにはしています。自分自身、2、3年前はなかなかメンバーに選ばれない時期もありましたし。今まで何回か怪我をしていますが、一番大きな怪我は肩で1年ぐらい休んでいます。そういう時は自分自身だんだん不安になっていきましたね。だから試合に出ていない選手の気持ちもわかりますので」

今シーズン、序盤戦では今ひとつ波に乗れなかったが、第9節から3連勝。ブラックラムズのDNAを見せることのできた試合が増えた。

「今チームの状況がよくなってきているのは、ディフェンスが改善されていることもありますが、システムとか戦術のせいでは無くマインドセットの部分が大きいと思います。自信がついて来たっていうか。トップ4の強いチームにも僅差で戦うことができるようになって自信がついて、連勝に繋がったと思います。次に変な負け方をしてしまうとまた悪い方に変わってしまうかもしれませんが」
 
「信じることができるようになると、負けないようになりますね。ヒューワットHCもよく言っていますが、一ついい試合ができるとチームはガラッと変わりますね。ここ何試合かはセットピースが安定してきたので、得点も獲れるようになってきました」

セットピースの見方と見どころ

ここで、スタンドで観戦しているファンからはわかりづらいセットピースの見方や見どころについて教えてもらおう。

「スクラムでは、最初のヒットでどちらが前に出ているかというところで勝ち負けはほとんど決まります。そこに注目して欲しいです。そこで前に出るために何をするかなんです。スクラムは、試合前にビデオを見て相手の組み方を研究します。相手が突然組み方を変えてくることはあまりありません」
 
「ラインアウトでは、自分はコーラー(※サインをコールする選手)をやっていますが、獲得を優先しています。一番簡単なところで獲ることを最優先しています。相手チームのメインジャンパーのところは絶対避けます。あと、ラインアウトが多めでモールばっかり組んでいる時は、10番と話をして展開するように伝えたりもします。その場その場で状況判断して、やっていますね。事前の分析で相手がどこに張ってくるかは大体見えてきます。大体どこのチームも後ろ(遠目)は取らせたく無いですよね。後ろからの方がアタックしやすいんで。だから基本後ろは空いていたら狙いますけど、リスクがあります」
 
「モールは、低くて固まっているチームは強いです。何人入るかとかどこに入るかは事前に決まっています。昨シーズンに比べれば、モールは強くなっていると思います」
 
「セットピースが強く無いと全然ダメですね」

ロックの矜持

最後に、ラグビーを始めて以来ロック一筋にプレーしてきた柳川に、ロックというポジションについて訊いてみた。

「ラグビーを始めてからその時のチーム状況でフランカーやNo8をやることもありましたが、基本的にはロックです。ロックは、面白く無いです(笑)。ただ、ロックはフォワードの中心じゃないですか。モール、ラインアウトとかのセットプレー全部でロックが核になるので、そこの醍醐味はありますね。でも、キツイです(笑)」

そして、ブラックラムズ東京ファンの皆さまへ。

「抜かれてもみんなで追いかけて全員で止めに行く、ブラックラムズらしい泥臭いプレーを見に来てください。見ている人が、そういうところに何か感じてもらえればと思います」


 


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