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Blackmagic Creator's Close Up #5 - 矢野 数馬



矢野数馬「曖昧さに存在する本質」

本連載は、映像業界の最先端で活躍するクリエイターの歩んできたストーリーや思考にフォーカスしインタビューする企画です。

第5回目の今回は、優れた先進映像コンテンツを表彰する米ルミエール・アワード 2023の最優秀8K作品賞を受賞した関西テレビ・矢野数馬氏にお話を伺いました。

矢野数馬 -Kazuma Yano

関西テレビ放送株式会社 
技術推進本部 制作技術統括局 制作技術センター 専門部長

主な監督作品

・「つくるということ」(8K・蒼井優)
  - ニューヨークフェスティバル 金賞
・「Three Trees」(8K・白石聖)
  - アジアン・アカデミー・クリエイティブ・アワード 最優秀賞
・「さくらノート」(8K・柿原りんか)
  - ニューヨークフェスティバル 銅賞・技術チーム
・「moments」(12K・声 鳴海唯)
  - 米ルミエール・アワード 最優秀8K作品賞
・「ポルトレ」(8K・鳴海唯)
  - ルミエール・ジャパン・アワード 特別賞

主な編集作品

・「アバランチ」(藤井道人監督)
  - JPPA AWARDS 優秀賞・オフライン編集 テレビ/映画
・「インフォーマ」(藤井道人監督)
  - JPPA AWARDS 優秀賞・オフライン編集 テレビ/映画
・「時をかけるな、恋人たち」(山岸聖太監督)
他テレビ連続ドラマの編集を30シリーズ近く担当

ー簡単な自己紹介をお願いします

1996年関西テレビに入社、現在は制作技術センター所属です。ドラマのオフライン編集を中心に、様々な作品に関わっています。超高精細映像制作チーム「UHD-works」では、演出・脚本・編集・カラーグレーディング・グラフィックデザイン・プロデュースを担当しています。

米ルミエール・アワード 最優秀8K作品賞「moments」

ーUHD-worksで制作された米ルミエール・アワード 最優秀8K作品賞「moments」制作のきっかけについてお聞かせください。

自然豊かな淡路島で多くの作品を制作してきました。某作品のリサーチ時に、島在住の陶芸家・西村さん、そして小さなお店を営まれている奥様をご紹介いただきました。お二人は、暮らしの中で見つけた種を丁寧に蒔き、大切な想いを未来に託されていました。かねてより最新映像音響技術で普遍的なテーマを描きたいと思っておりましたので、「moments」制作に際し、西村さまご家族に撮影のお願いをいたしました。

ー「moments」では、Blackmagic Design製品が使用されました。この製品でなければできなかった点や魅力などありましたか?

撮影はBlackmagic URSA Mini Pro 12K、編集とカラーグレーディングはDaVinci Resolve Studioを使用しました。12Kという異次元の解像度でしたが、Blackmagic RAWがとても扱いやすく、スムーズな編集フローとなりました。先にB/W環境でカラーグレーディングを行いモノクロ版を仕上げ、それをベースにカラー版を制作しましたが、URSA Mini Pro 12Kの豊かな描写力を実感することになりました。深みのある光と影が、本作のテーマを支える重要な要素です。

「moments」モノクロ版
「moments」カラー版

ーこの仕事のやりがい・魅力について教えてください

自分自身が経験した感動や美しい時間を、多くの方に届けられることです。ご覧になった皆さんの解釈が私と一致しないこともありますが、どのような感想もとても嬉しいです。作品をきっかけに生まれる多様な感情を大切にしたいです。


ー映像作品を作る上でどこからインスピレーションを受けていますか?

映像だけでなく、あらゆることからインスピレーションを得ていますが、特に影響を受けているのは音楽だと思います。「UHD-works」では、劇伴(映画やドラマ、アニメなどの映像作品に合わせて流される音楽のこと)を制作して、撮影現場で流すことがあります。既存の楽曲から着想を得て脚本を書き、制作したこともありました。日常で目にする光景と耳に届く音楽が映画の1シーンのように重なって、次作の世界観が潜在的に構築されているのかもしれませんね。

ー映像制作をする上で、影響を受けた人や作品、出来事はありますか?

マイク・ミルズ監督、デヴィット・フィンチャー監督、デイミアン・チャゼル監督の作品は、常にチェックしていますね。
マイク・ミルズ監督は、映画だけでなくグラフィックなど様々な分野で活躍されています。ジャンルの境界線を越えて、独自の表現を追求するミルズ監督の姿勢に、勇気をいただいています。「カモン カモン」は最も好きな映画の一つです。

デヴィット・フィンチャー監督の美意識にも、感銘を受けています。「ザ・キラー」「Mank/マンク」などで見られる緊張感のある美には、揺るぎない意思を感じます。研ぎ澄まされたショットの連続は唯一無二です。緻密な編集も本当に素晴らしいです。

デイミアン・チャゼル監督も、インスピレーションの源です。先にも述べましたが、音楽は私にとって重要な要素です。「バビロン」「ラ・ラ・ランド」「セッション」における、映像と音楽の完璧な調和は奇跡的です。授賞式でチャゼル監督とお話しした記憶が、大きな心の支えとなっています。

アメリカ本部が主催する「ルミエール・アワード2023」授賞式での
デイミアン・チャゼル氏(左)、矢野数馬氏(右)

ーこれまでの映像制作の経験の中で、挫折を感じたことはありますか?

劇場で映画を観るたびに挫折しています。映像表現は今この瞬間も目まぐるしく進化しています。どれだけ走っても追いつけない感覚がありますが、それこそがモチベーションになっているのかもしれません。

ー映像制作において、大切にしていることはありますか?

「映像」には意味がありすぎるので、そこに甘えてはいけないと思っています。例えばモノローグに組み合わせる映像は、その選択次第で説明的になるケースがあります。曖昧さに存在する本質を大切に、明白な答えを提示しないよう心掛けています。

ー映像制作に関して、今後の目標を教えてください

「UHD-works」では、従来のドラマ編集とは少し異なる視点で映像に向き合い、演出しています。言葉にするのは難しいですが、隣にいる一人を笑顔にするために手の届く距離でつくる、ということでしょうか。
メインストリームの中に、私たちの映像世界観を持ち込むには努力と勇気が必要ですが、想いを変えることなく進み続けたいです。


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