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餘部橋梁物語 第13話 総裁との面談

皆様こんばんは、本日もしばしおつきあいくださいませ。

さて、秘書に案内されて十河総裁と会うこととなった兵庫県知事その後はどうなったのでしょうか。

> それでは、十河も待っておりますので、総裁室の方にどうぞ。
> 知事は、ついにここまで来たかと言う感動と、緊張でゆっくりと総裁室に入っていくのでした。

総裁室は、知事室よりも少し広い感じがしましたが、所々に品のいい調度品がちりばめられていた他歴代の総裁の写真が飾られていました。

知事が入室した時は、総裁は席を外していましたが、しばらくすると先ほどの伊藤秘書に先導される形で総裁室に入ってきたのです。

総裁の姿を見かけた知事は、すくっと立ち上がり、総裁に名刺を差し出すのでした。

「初めまして、兵庫県知事 坂本です。」

総裁は、うむと軽く頷きながら、

「日本国有鉄道 総裁 十河信二です。」

そういって、名刺を差し出すのでした。

知事にしてみれば、今最も緊張の瞬間でした。

最初は、雑談でも交えながらと思っていたのですが、総裁秘書の伊藤氏から、

「総裁は、多忙につき用件は手早くお願いいたします。」

当然とはいえ、厳しく咎められてしまいました。

そこで、知事は総裁に早速ですがと断った上、単刀直入に話を切り出したのでした。

「先日、陳情の手紙を送らせていただいたのですが、ご覧になっていただけましたでしょうか。」

 「一応は見ているが、陳情だけで多数有るからそのうち検討課題に挙がるであろう。」

総裁の対応は明らかに面倒なものを持ってきてと取れそうな口調でした。

 「国鉄は、現在第一次5ヵ年計画というのを実施していて、これは老朽施設や輸送力増強のための車両増備などを中心に行なっているのだが、実際は輸送量に対して輸送力が慢性的に不足している状況であり、新しい駅を作るなどというのは、よほど需要が見込まれない限り難しいのですよ。」

さらに、それを受けて、伊藤秘書が第一次5ヵ年計画の進捗状況などの資料を示しながら、

 「国鉄は、政府組織の一員として、国民生活の安定と福祉の向上を目指しています、もちろん今回陳情にあがられた、新駅の設置も国民の福祉の向上につながることでしょうが、それよりも輸送力が逼迫している東海道線などの複々線化などに予算を使うほうがより効率が高いのです。
ご存知のとおり、国鉄は独立採算制を取っており、工事などの予算も自ずと決まってしまうのです。」

 「そのあたりの事情も充分配慮していただきたいと思います。」

あくまでも、陳情に対しては冷たい態度を貫く総裁と、その秘書でありました。しかし、そこで、「はい、そうですか。」と帰ってきては、知事の値打ちがありません。

知事も、その反対は折込済みとばかりに、

「そうですね、仰るとおりです。しかし、ローカル線の小さな駅だからと言いますが、小さい駅だからこそ光を当てていただく必要もあるのではないでしょうか。」

兵庫県知事と十河総裁の議論が今切って落とされようとしていました。

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