住野よる最新作『腹を割ったら血が出るだけさ』

はじめに

 この記事は、本作を全て読んだ上で書いています。内容自体について何かしらを書くだけのスキルも意欲もないので、内容のネタバレは含まれないつもりで書きますが、この記事を読んだ上で本作を読むのとまっさらな状態で本作を読むのでは、感じるものは大きく変わってしまうと思います。

 回りくどい言い方をしましたが、要するに、ネタバレが含まれる可能性があります!ということです。個人的には、今のところ人生で最も好きな作家の久しぶりの最新作なので、少しでも多くの人にまっさらな状態で読んでほしいなというのが本音です。非常に大きなネームバリューを持つ作家なので、こんなことを言わなくてもたくさんの人が読むことになるのでしょうが。

 僕が一番好きな住野よる作品は『よるのばけもの』です。断トツです。矢野さん、可愛いよね。

 あと、久しぶりに小説を読んだので、私の頭に栄養が戻ってきた感じがします。小説を読むと普段の会話で自分が発する言葉に潤いが生まれる気がするのですが、私だけでしょうか。

 はい、余計なことを書いてる間にネタバレが嫌な方は帰宅されたでしょうか。流石に大丈夫ですかね。

『腹を割ったら血が出るだけさ』

 完全新作は実に2年ぶり。前作『この気持ちもいつか忘れる』の発売以降、『青くて痛くて脆い』の実写映画化、三歩シリーズの2巻発売などのトピックはありましたが、だからといって新作を待ちわびる気持ちが薄れることはありません。「待ちに待った」1冊です。

 後の話にも関係するのですが、この2年というスパンを私は率直に「長い」と思っています。2年あれば人は様々な意味で変わります。もし同じ作家が同じ感性で2年のスパンを経て2作の小説を書き、同じタイミングで同じ人が読めば同じように面白いと感じることができても、同じ人が発売日にそれぞれ2作を読んで同じように面白いと感じる可能性は低いでしょう。私も前作を読んだ2年前の夏から、感じるものや信念はそこそこ変わっています。2作に感じた「面白さ」には幸いなことにさほど大きな差はないのですが。

 だから、前回読んでくれた人に次も読んでもらいたいと思うのであれば、2年は空けすぎなように思います。作家としての信念が絡む問題である上、「売れる」「売れない」を気にする次元に住野よるという作家がいないことも承知していますので、彼にとっては気に留めるほどの期間ではないのかもしれません。私は一ファンとして率直に住野よるの作品はいくらでも読みたいので、早さ重視で雑に書くとかそういうことが起きないのであればもっとたくさん書いてくれたらもちろん嬉しいです。

 シンプルに女の子が主人公の小説を住野よるが書くのは初めて、と言えるかもしれません。過去に女の子が完全に主人公であった2作は、年齢や主人公自体の性質、小説としての性質的に今作とは形が違うと思います。本質に触れる部分なのかもしれませんが、今作も女の子が主人公と言い切ることは作者である彼の思惑とはズレるのかもしれません。「かもしれません」が多すぎますね。

 書きたいことを書いてるんだな、とは、住野よる作品を読むたびに感じます。テーマも内容も、扱う題材も。その中でも「音楽」が彼の中で非常に大きな役割を担っているのだな、とは今作でも考えました。

 題材的な部分で私が最も強調したいのは、女性アイドルグループが登場、それもその中のメンバーの一人が小説で中心的な役割であったことです。私は櫻坂46をはじめ女性アイドルグループは好きなので、人数や規模は坂道グループとは大きく異なるとはいえ興味深く読んでいました。

 そのアイドルグループに所属する、「客の方ばかり見ている」メンバーが登場しましたが、この表現は好きです。ファンやアンチといった「客」がアイドルとしての自分や他のメンバー、グループ全体をどのように見ているかを常に意識し、必要に応じて本心を隠したり大袈裟な振る舞い方をしたりして「ストーリー」を作ろうとするメンバーを評した言葉ですが、私がアイドルを見ていて言語化できなかった部分を言語化してくれたので、今後私が現実のアイドルについて書く時にもこの表現を使うことになるかもしれません。「あ、こいつあの小説読んだんだな」と思っていただければ。

 住野よるが過去に経験したことにまつわる話(だと私は感じた話)も出てきました。小説の映画化、というのが簡単な概要ですが、おそらく彼のデビュー作、『君の膵臓をたべたい』のことを指しているのだと思います。この映画化を彼自身がどう感じているのかを断定することはできなかったのですが、私は私でこの映画化について考えている部分があるので、別の機会でそれについても書きたいなと思います。

 そして私がこの作品について最も語りたいのは、作家として、人間としての住野よるの信念だったり思いだったりがめちゃくちゃに込められた1冊だな、という感想です。

 人がどう生きるのか、何を大切にするのか、何気ない生活の中でどんなことを考えているのか。住野よるの本質的な部分に迫った価値観や考え方が強く文章に反映されているように感じます。

 だから、個人的には「長い」と感じるほど十分なスパンを空けて新作が発表されるのか、言い方を変えれば2年かけないと作ることができないのか、と今作を読んで思いました。人生観的なものがここまで入った文章を年に何作も作ることなんてできるわけありません。

 この「思い」が強い小説だからこそ、住野よるの作品には毎度圧倒されますし、「重み」を感じさせられるのではないか。「面白さ」とはまた別の文脈における魅力はこの「思い」に起因するのでしょう。

終わりに

 ネタバレを避けたので、結局「ぜひ読んでみてください!」としか言えません。住野よるの信念を受け取ることができると思います。が、思いが大きい分読むのはかなり疲れるのでお気をつけて。少なくとも半日、出来れば1日時間を取って、一気に読んでしまうのがおすすめです。良い疲労感と充実感を得られ、色んなことを考えさせられると思います。

 ついでに『よるのばけもの』もぜひ!

 

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