連鎖の源

迷ったが、何も書かずにはいられない。

-----------------------------------------------------------------------

類まれな優秀さと絆の強さ、自分たちが神に選ばれたとする選民思想により、畏れられていた人々がいた。

その歴史は苦難の連続で、数千年前に自分たちの国を滅ぼされてからは全世界を流浪しなければならなかった。

優秀さゆえに、移住した国々では酷い差別を受けながらも次第に富を蓄え、商業や学術、芸術などの様々な分野で成功を収めるようになった。

それが嫉妬をよび、さらに差別と憎悪の対象となった。

何度か民族の苦難を経験したが、ある時、最大の苦難が訪れた。

「魔王」が現れ、この人々を世界から抹殺しようとしたのである。

「魔王」は世界中の人々の力で何とか倒されたが、その間に彼らの半分近くの人々が殺されていた。何百万人も。

戦いの後、史上類を見ない悲劇として、世界中の同情が彼らに集まった。

そこで、大国の指導者たちは彼らの願いを叶えることにした。

「故郷に自分たちの国を作りたい」という願いを。

＊　　＊　　＊　

あなたの街に突然、彼らが増えだした。

古文書には確かに彼らの国があったとは書いてある。

その子孫も少数住んではいた。しかし数千年前のことだ。

おじいちゃんも、そのまたおじいちゃんも、その前も──私たちは先祖代々この土地に住んできた。

彼らは「故郷に国を作る」と言って、世界中から移住して来た。私たちの国は外国の支配を受けており、その外国が移住を許しているので止める手段がない。

街の空き地には次々と彼らの家が建った。そして、街のシンボルの神社を彼らは「聖なる神殿」と呼び、周囲の土地を買いあさっていた。このままじゃ、故郷が奪われてしまう。

＊　　＊　　＊　

彼らが増えてから街の雰囲気は一変した。私たちと彼らは様々なことで諍いになり、騒乱が絶えなくなった。私たちの平和な街はなくなってしまった。

街の血の気の多い男たちが彼らを力づくで追い出そうと、武器を手に取り出した。このままだと戦いになりそうだ。

私たちを支配していた外国は匙を投げ、逃げ出す準備をしていた。

私たちと彼らの対立の問題について、世界の国の指導者たちが集まり話し合った結果、彼らが買い集めた土地に国を作ることを認めたらしい。

私たちの街が勝手に分割されてしまった。しかし街の人たちはそんなものは認めないと息巻いた。

近隣の街々の仲間たちも私たちを応援してくれている。戦いになったらきっと手を貸してくれるだろう。

彼らはとうとう街の一部に国を作り「建国宣言」をした。怒り狂った街の男たちが彼らの「国」に攻め込んだ。

彼らはものすごく増えたが、まだ私たちの方が数が多かった。それに周囲の人たちも私たちに力を貸してくれる。多勢に無勢。負けるはずがない。

＊　　＊　　＊　

財力のある彼らは世界中から武器を買い集め、しかも驚くほど戦いに長けていて、統制が取れていた。

人数でははるかに勝った私たちだったが、超大国が彼らを支援したせいもあり、負けてしまった。

彼らは勝利のどさくさに紛れて、街のほとんどを支配して、私たちを追い出した。

私たちは家を追われ、土地を奪われ、街の郊外に残った小さな土地に押し込められるか、隣町の難民となった。街のシンボルの神社も大半が彼らの手に渡った。

優秀な彼らは、世界に大きな影響力がある。彼らは様々な分野で成功を収めていて、世界的な大企業の経営者、世界経済を動かす投資家、著名な科学者などの多くが彼らだった。

彼らは世界中の仲間からの多大な支援を受けて、自分たちの国を強大なものにしていった。私たちの牧歌的な街が、短期間で強力な軍事国家に生まれ変わってしまった。

私たちはその後、3回戦ったが、そのたびに土地を失い、とうとう2つの小さな居住区に押し込められた。

＊　　＊　　＊

世界の国々の指導者が話し合い、残された居住区は守ると私たちに約束してくれたのだが、彼らは守らなかった。勝手に私たちの居住区に入り込み、私たちの家を壊して街を作っている。しかし、なぜか彼らは罰せされない。

彼らは新たな製造が禁止されているはずの破壊兵器を作ったのに罰せられない。他の国は罰せられるのに、なぜか彼らは罰せられない。

世界を牛耳る超大国が彼らの味方だから。

世界有数の富と頭脳を持つ彼らの影響力を、世界の国の指導者は恐れている。そして、彼らの富と頭脳を独占したい超大国は、何があっても彼らの味方をする。

一方、私たちはずっと無視されたまま、貧しい居住区に閉じ込められている。外に出る自由はほとんどない。未来もない。隣町の人たちも口できれいごとを言うだけで助けてくれなくなった。

世界は不公平だ。

※フィクションです。