哲学者の主張：トマス・ホッブズ

トマス・ホッブズは17世紀のイギリスの哲学者で、政治哲学、倫理学、自然哲学において重要な貢献をしました。彼の最も有名な作品『リヴァイアサン』では、人間の自然状態、社会契約、主権者の必要性についての彼の理論が展開されています。

1. 自然状態と人間の本性:
   ホッブズによると、自然状態では、人間は「万人の万人に対する闘争」の状態にあります。これは、資源の限られた世界において、人間の欲望が無限であるため、人々は本質的に他者と競争関係にあるという考えに基づいています。この状態では、生命、自由、財産を保持することは不安定であり、恒常的な恐怖と争いが支配的です。

2. 社会契約:
   ホッブズは、人間が自然状態から抜け出し、平和と秩序のある社会を実現するためには、互いに契約を結び、自己の権利の一部を放棄して、それを主権者（リヴァイアサン）に譲渡する必要があると主張しました。この社会契約により、人々は安全と平和を得ることができますが、代わりに主権者に絶対的な権力を与えることになります。

3. 主権者の役割:
   社会契約を通じて成立した主権者（リヴァイアサン）は、社会の平和と秩序を保持するために必要な権力を持つとホッブズは述べています。主権者の権力は制限されず、法の制定、平和の維持、防衛など、社会の安定を保証するために必要なあらゆる手段を行使することができます。

4. 自然法と倫理:
   ホッブズは自然法の概念も提唱しました。これは、人間が合理的な判断に基づいて遵守すべき普遍的な原則であり、生き延びるために他者との平和を求めることなどが含まれます。自然法は社会契約を結ぶ動機となり、社会契約によって形成された社会においても重要な倫理的指針を提供します。

ホッブズの哲学は、政治哲学における社会契約論の発展に大きな影響を与え、後の啓蒙思想や近代政治理論の基礎を築きました。彼の主張する絶対的な主権者の必要性と、自然状態の暗黒の描写は論争を呼ぶ一方で、政治秩序と個人の安全保障の問題について深く考えるきっかけを提供しています。