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棚の本:不器用で

ニシダ※、初の小説集です。

くまとら便り

紙の本と電子版のどちらも購入することを、自分の中で「豪遊」と呼んでいます。
『不器用で』は結果的に豪遊しました。

人待ちの短い時間に、ふと思い立って、最初にスマホで電子版特典のあとがきを読みました。
ニシダが締切について書いたもので、途中からは、編集担当の女性(吉田さん)を労いたい気分というか、半ば尊敬に近いような気持ちになりました。

あとがきからの流れで、『不器用で』の5篇は、後ろから順に読みました。
新幹線の中で「濡れ鼠」と「テトロドトキシン」を、実家※※で「焼け石」、「アクアリウム」、「遺影」を。
主人公の年齢が、だんだん若くなっていきました。
ですので、最初の「遺影」から普通に読み進めると、逆に主人公の年齢は高くなっていきます。
中学生、高校生〜大学生、大学3年生、社会人(20代後半)、社会人(30代後半)の、それぞれの内側の物語です。

「濡れ鼠」
主人公は37歳。一回り歳下の恋人との関係性が描かれています。
終盤の男性の濡れ鼠ぶりは、コントのようです。
蟬が「傾斜に沿って滑り落ちていく」坂など、「えっ、読み間違いかな」と思うような表現が所々あり、面白く読みました。
45歳差婚を一回り以上継続している、加藤綾菜さんのことを、唐突に思いました。

「テトロドトキシン」
虫歯を放っておく27歳の男性の話です。
棚主は、最近左奥の詰め物が取れて、歯医者に通っているので、「歯は思っている以上に大事だよ」と心の中で呟きつつ読みました。完全な老婆心です。
今の歯医者は、私が思う以上に私の歯を気にかけてくれるので、主人公にもそういう出会いがあるといいな。

「焼け石」
主人公の女性は、サウナでアルバイトをする大学三年生。
樺沢という社員の謎配慮により、主人公が男性サウナ室の清掃を担当することから物語が展開します。
主人公は、周りが見えていて、根が健康的で、面倒そうな人間関係も就活やアルバイトもこなせる人です。滝くんという、同じアルバイトの男子大学生も、不器用ながら人を気にかけることができます。
2人とも若くしっかりしてて、偉いなと思って読んでいました。
不器用な何かが新しく生まれそうな気配もしますが、どうなんでしょう。

「アクアリウム」
生物部の男子高校生が、主人公の話です。寂しさを抱えています。
校舎間を移動する時の上履きやスニーカー、スリッパの履き替え、学校の階段を降りる描写で、学生の頃のことを思い出しました。※※※
主人公は部活動で、シラス干しをあさっているのですが、そういえば20年程前のリンガーハットのちゃんぽんには、麺に紛れて極小のタコが、時々当たりくじみたいに入っていました。
妙なものを引き当てると、それはそれで、大事な思い出になります。

「遺影」
いじめに加担してしまうことになった、男子中学生の話です。
小学校や中学校だと、学校以外に逃げ場がなかったりするし、自分が標的にならないために、似た誰かを代わりに差し出すようなことも、起きがちなのかなと、思います。スケープゴート。
2学期の始業式の彼のことが、気になりながら、読書を終えました。

今回は、棚のテーマである「ニシダ」の小説集『不器用で』をご紹介しました。
ラランドや純文学系が好きな方に、読んでいただけたら。

それでは、また。

※お笑いコンビ、ラランドのメンバーでツッコミを担当。株式会社レモンジャムの社員。変幻自在の鋭いボケが魅力の相方サーヤさんが同社社長を務める。

※※今のところ、ニシダは、実家には帰らないのだそうです。

※※※思い出したのは、高校の卒業式。体育館から退場した時、どういう訳か履き替えを忘れてしまい、一人教室から体育館へ引き返したのでした。二度と帰れないと思った場所も、忘れ物のせいで、また戻ることになりました。

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