棚の本:哲学の女王たち
新しい視点を提供してくれる、哲学史・思想史の本です。
くまとら便り
飲茶さんの「史上最強の哲学入門」は、おすすめの哲学入門書なのですが、31人の哲学者は全員男性です。
「哲学の女王たち」の帯には、次のように書かれています。
「うーん、ボーヴォワールは、名前だけは聞いたことがあるけれど・・・」、という方、割と多いのではないかと思います。
棚主がそうでした。
本書は、哲学史・思想史からこぼれ落ち、見落とされていた20名の女性哲学者・思想家・活動家を紹介する、新しい書籍です。
イギリスの女性哲学者2人が発起人となり、クラウドファンディングで作られた本で、執筆者は女性の研究者です。
事細かに思想内容を説明する本ではありません。
古代ギリシャから現代までの女性の先人たちが、その思想を生み出すまでの過程、つまり、彼女たち一人ひとりの人生に焦点が当てられた本だといっていいと思います。
本書で紹介される20名の女性ー哲学者だと見なされてこなかった女性も含んでいますーは、もれなく激動の人生を送っています。
ヒュパティア(350年ごろ~)は、数学者、天文学者、哲学者であり、その哲学講義は人気を呼んでいましたが、言い寄ってくる弟子をあきらめさせるために苦労し、(学者としての)権力者への影響力が強まってくると、修道士の集団に襲われ、群衆に服を脱がされ、殺されてしまいます。
エディート・シュタイン(1891年~1942年)は、初稿を執筆しないフッサールに代わり、助手として、さまざまな種類の文章から初稿を完成させますが、大学教員資格の取得申請を彼に拒絶され、ナチスの迫害を受けて、アウシュヴィッツで亡くなります。
ハンナ・アーレント(1906年~1975年)は、ナチスの迫害による亡命や、無国籍者としての経験を経て、全体主義を鋭く論じた政治哲学者・思想家として知られるようになりましたが、激しい批判を浴び続けました。また、ハイデッガーとの関係も耳目を集めました。
彼女たちがどのように生きたか、という視点で読み進めると、特に女性にとっては、共感できるポイントが非常に多い本です。
哲学史・思想史としても、異なる視点から別の歴史が語られる、という意味で刺激に富んだ本だと思います。
ー 棚主はといえば、女性の人生ドラマとして読んでしまい、哲学思想に詳しくないことが大いに影響し、フッサールと、後任教授のハイデッガーの印象がどうしても・・・な印象になってしまっています。現代思想の本を読めば、印象も変わるとは思いつつ、そんな日は一体いつになるやら。
メアリ・ウルストンクラフトの『北欧旅行記』、ララの詩集『I, Lalla: The Poems of Lal Ded』など、本書で紹介されている著作・詩作に気になるものがありました。
ある本から別の本に広がるのも、楽しいですよね。
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