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僕と母と小鳥とピアノ 3 たけし

「おい、たけし!」
「わかってるよ。ほうちゃんには俺がちゃんと説明するから。」

 清美おばさんの葬儀は、ごく近しい親戚だけで行うこととなり、兄弟衆の3家族が火葬場でおばさんの一人息子の方治が来るのを待っていた。


「こういうことは、息子の方治が喪主になるのが筋ってもんだ。それを本人に知らせずにいるなんて。」
親父がぶつぶつと愚痴ていると、
「虫の知らせってあるものね。ほうちゃんのところにきよちゃんがあいさつにいったのね。」と叔母たちが感傷にふけってる。

 俺は、なにかあっても方治には知らせるなと清美おばさんに言われていたのだ。俺が開発している試作品のトイボットの調整をしに行くたびに、方治の活躍を清美おばさんから聞かされていた。今回のコンクールも清美おばさんは楽しみにしていたのだ。

 方治が来るまでの間、俺はコンクールの一次予選のアーカイブを見ていた。

「なんだよこれ、スタンディングオベーションじゃねえか。」

 携帯で見る動画では、音声がうまく聞き取れなかったが、2曲目の演奏は音量が愕然と大きくなり、ざわめいていた観客が演奏にくぎ付けになるのがわかった。そして、演奏後の盛大な拍手の渦。一体、会場でなにが起きていたのだろうか。方治が笑顔で一礼する姿を見て、目頭が熱くなる。

 いま、ここに向かっている方治はどんな思いでいるのだろうか。俺がなんとかする。辛いだろうが、必ずあのステージに戻してやる。そう、清美おばさんが背中を押してくれている気がした。


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