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【ボクシング】ユーリ阿久井、“柔”でカバーし世界前哨戦クリア/俊英対決を高見亨介が見事制す

☆2月4日/東京・後楽園ホール
フライ級10回戦
○ユーリ阿久井政悟(倉敷守安)WBA1位
●ジェイソン・バイソン(フィリピン)WBCライトフライ級14位
判定3-0(100対90、100対90、100対90)

 初回から最終10回まで、阿久井はまったく危なげなく戦い続け、当然ポイントも取り続けた。バイソンの「タフネス」、「スタミナ」に粘られた、という表現がもっとも多く使われることだろう。

 たしかにバイソンは、いわゆるフィリピン人選手のイメージにある豪打の持ち主ではなく、一撃で相手をねじ伏せるようなものは感じなかった。しかしとにかくやりづらい。決して見栄えのするボディワークではないが、くねくねと体を動かしよじりながら、阿久井の攻撃をかわし、威力を半減させていく。まともにもらったのは左ボディブローくらいで、これは効いて動きを止めるシーンが再三あった。ガードも堅く、ショートコンビネーションでの攻めに切り替えた阿久井が空いたところを探そうと逡巡する場面が何度もあった。

 阿久井は頭の位置をバイソンの左に置けば右クロスやアッパーをショートで、頭を左に移動させながら左ボディブローを打ちこんでいったが、ジャストミートさせることがなかなかできなかった。

 それだけではない。バイソンは力感を抜きながらも回転を上げて止まらない連打を繰り返した。阿久井はこれをブロックやカバーリングで丁寧に止めた。なかなか止まず、リズムもつかみづらい中、要所でブローを差し込んでいったのはさすが。左腕でカバーし、すかさずその腕でボディを突くなど高等テクニックも披露してもみせた。また、「数日前に痛めていた」という左を丹念に突き、この左や右の相打ちカウンターも時折決めた。

 負傷ももちろん大きな誤算だっただろう。が、もっとも計算を狂わされたのは、必殺の右ストレートをことごとくかわされたことだろう。阿久井の最大の武器であるロング、そしてミドルのワンツーだ。

 ジャブを打ってからのもの、ジャブを打つと見せかけて肩だけ入れてから打つもの、左足を先に入れてから打つものと、阿久井は手を変え品を変え、右を決めにかかったが、バイソンは徹底的にこれをマークしていたのか、それともリング上で“殺気”を感じたのだろうか、バックステップや頭のずらしでジャストミートさせてくれなかった。すかされた阿久井の右は流れ、右足が跳ね上がって追いかける形も何度もあった。

 この右を決められないと腹を括った阿久井は、中盤からは左ボディブローに活路を見い出し、思いきって近距離での戦いにシフトした。長い右にこだわり続けていたら、リズムを崩すところだった。

 日本王座防衛戦の中で、阿久井は確実に技術の幅を広げ、場面場面で引っ込めるもの、取り出すものを変えていく術を心得た。この試合でもその安定感は抜群だった。

 ただひとつ、引っかかることは、足の粘りを欠いて見えたことだ。バイソンにすかされて流れた右足もそう。ステップバック、スウェーバックを使う意識があっての後ろ重心、踵重心は良しとして、それだけではない踵の使い方が何度もあった。両足のつま先にウェイトを乗せられない理由が何かあるのでは、と勘ぐってしまうほど。

 こちらの思い過ごしならそれでいい。が、もし思い当たる節があるのならば、原因をしっかりと精査してもらいたい。

☆2月4日/東京・後楽園ホール
110ポンド契約8回戦
○高見 亨介(帝拳)
●レイマーク・アリカバ(フィリピン)フィリピン・フライ級13位
TKO5回19秒

 高見が一級品のホープぶりをまたまた発揮した。

 アリカバは、スピードがあって、シャープでカウンタータイミングも持つという、高見と同タイプの好選手。しかもお互いのテンポもまったくかみ合って、初回からスリリングなやり取りが始まる。
 高見がクイックで放つ右をかわしざま、アリカバは右を合わせ、さらには高見が得意とする、右に被せる左フックカウンターも狙ってきた。

 しかし、高見はこれで怖気づくようなタイプではなかった。闘志をかき立てられる性質の持ち主だった。
 それがやや前面に出すぎてしまい、隙をつくってしまう攻撃もあったが、瞬間瞬間の集中力、切り替える賢さがこれを抑え込んだ。アリカバの狙いを瞬時に察知すると、ほんのわずか数センチだけ顔をちょこんと出してアリカバに手を出させ、ひょいとかわしざまに右カウンターを浴びせるなど、プロわずか3戦とは思えないハイレベルな技術、心の強さを披露した。

 そして、かつての畑山隆則ばりの切れ味鋭い右アッパーを繰り出してみせたのだが、アリカバはこれを鼻先でかわし、お返しとばかりに左アッパーを狙ってくる。戦いながら、互いが高め合うような素敵な展開だった。

 じりじりと引きながらカウンターを狙うアリカバ。それをわかりつつも少しずつ間合いを詰めていく高見。カウンター合戦から一転して切り替えて、ワンツーからの左フックでサイドボディを叩き始めると、様相が一変。アリカバははっきりと嫌がって、後退の歩に変化していった。

 4ラウンド。立ち上がりにやられた、右に被せる左フックを見舞うと、高見はするりと距離を詰めて左ボディ。これを徹底的に意識させておき、ダブルジャブ、右ストレートで顔面を襲い、ふたたび左ボディ、切り返してフックを顔面に。
 たまらずしゃがみこんだアリカバだったが、連打で襲いかかる高見に、最後まで左フックカウンターを狙う恐ろしさがあった。

 続く5ラウンド。スルスルッと距離を詰めた高見が、敢えてアリカバの両ガード上を叩く。と、ここでレフェリーは唐突に試合を止めた。当然アリカバは不満顔。高見も苦笑い。高見からすれば、詰めの攻撃をこれからお見せしようとした前段階、序曲。あまりにもタイミング、間の悪いレフェリーの処置だった。

《2月11日・CS日テレG+録画放映観賞》

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