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そして受け継がれてゆく──ユーリ阿久井政悟が語った“流儀”

(写真は桑原戦直後。父・一彦さんと)

 東京五輪も終わり、普段より4、5日早く校了となる『9月号』の編集作業もドタバタと終え、すっかり森のようになってしまった庭の木に巣くうセミたちより、ふた足も早く抜け殻になっていた。けたたましい鳴き声のシャワーが、まるで嘲笑うかのように耳をつんざく。鬱陶しくて、昼寝どころではない。

 耳元に置いてあったスマートフォンが、唐突に彼らの鳴き声を切り裂いた。

「今日の夕方、時間ありますけどどうですか?」

 1本のLINEが飛び込んできたのだった。

 待ちに待った連絡だったはずなのに、いざその段になると急に慌てふためいてしまった。もう忘れられてるかな、試合直後だったしな…と半ばあきらめ、ひと月経ったころに連絡してみようかな、くらいののんきな体勢だったから。同時に、彼が覚えていてくれたことがことのほか嬉しくて跳ね起きた。

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