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【ボクシング】PHOENIX BATTLE101 4試合評


☆6月29日/東京・後楽園ホール
大橋プロモーション
◇WBOアジアパシフィック・スーパーバンタム級タイトルマッチ12回戦
○TJ・ドヘニー(オーストラリア/アイルランド)5位
●中嶋 一輝(大橋)チャンピオン
TKO4回2分32秒

 サウスポー同士。奥の手(左)をいかに当てるかを探り合っていた両者だが、やはり前の手(右)の使い方がそれを決し、勝敗をも分けた。

 互いに前の手を出さない。いや、出していないように見えるのだが、ドヘニーはしきりに“見えない”右を出していた。出すフリをするフェイントであったり、出す“気”を発したりして、である。コンディション良好で、身体にキレも感じる中嶋は、一見していつも以上にリズミカルな動きができていると感じたが、ドヘニーが発する右の“気配”に合わせ、リズムを吸い取られているようにも見えた。だから、自身の前の手をいつも以上に出すことがかなわない。

 セコンドの指示もあったはずで、ドヘニーの入り際に右フックを引っかけるパターンに切り替え始め、それが功を奏しかけた。ドヘニーも迂闊には距離を詰められなくなっていた。が、ここで元IBF王者は“中島の右封じ”に端を発す、より有効な右への変化を加えたのだった。

 それまでにも、2ステップから深く打ちこんでいた右を、中嶋の右顔面方向へ打つ。中嶋はこれをヘッドスリップでかわそうと、体ごと左へ倒す。ドヘニーから見て右方向へ傾いた中嶋に、左を捻り込んで打つ。自分が打ちやすい方向へと相手を動かして打つ。それを想定しての前の手の使い方だ。

 距離が詰まったときは、それがもっと顕著だった。中嶋の動きを制御するための右は、敢えて当てないように見えた。やはり中嶋の顔の右側面へ流し、腕を伸ばしたまま中嶋の右肩を押さえて潰す。左へ倒し気味の中嶋は、左のリターンを打てないばかりか、右を動かすこともできない。反則ではない“ロック”された状態。ドヘニーはそこで左を打つ。つまり、打たれないポジションと同時に打ちやすいポジションを築く、ベストポジションだ。

 左一撃の威力では、明らかに中嶋が優っているように見えた。中嶋の左は、ドヘニーも恐れていたように驚異的だ。それをいかに当てるか。そこを追求していくおもしろさを、ドヘニーが示してくれたと思う。

◇日本スーパーバンタム級王座決定戦10回戦
○下町 俊貴(グリーンツダ)2位
●大湾 硫斗(志成)5位
判定3-0(97対93、97対93、98対93)

 打って当てて動く。相手の焦りや打ち気を増長させ、そこで生まれる隙にカウンターを当てる。長身サウスポーの下町は、トータルするとそれを完遂した形。ポイントをギュッと絞るとすれば、その全景は初回で象られたとみる。

「見る」「視る」「観る」「診る」。「みる」にはいくつもの漢字がある。大湾はおそらく下町のすべてを観察するための「観る」を実践したかったのだろうが、ただの傍観者の目には「魅入られた」の「魅る」にハマってしまったように思えた。それによって大いなるハンディを背負い込んでしまったように感じる。

 防御技術に優れた下町は、大湾の打つパターンを把握し、「自分がこれを出したらこう避けてこれを打つ」までを想定して攻防を成形していた。大湾も中盤以降、フェイントを多用してパターンを変えて、下町を多少混乱させていたが、下町は決して防御一辺倒にはならない。その最も明白だった形は、右フックの相打ちだ。下町は、大湾の左サイドに身を置いていた。自身のそれは最短距離で当たり、大湾のそれは遠く、一瞬遅れる間合いだ。
 後出しの形となる大湾の右フックが下町を捉える場面もあったが、先に下町の右フックがヒットしているため、ほんのわずか、体のバランスが崩されており、威力は半減させられていた。下町は、そこまでを想定して、敢えて大湾に出させていたようにも思う。そのための位置取り、大湾が右フックを出したくなる“間”を築いていた。

◇ライトフライ級8回戦
○石井 武志(大橋)日本ミニマム級6位
●ナッチャポン・ウィチャイタ(大橋)
KO2回39秒

 最軽量級らしからぬ強打の持ち主の石井は、“左”に固執した戦いに見えた。上下に迫力あるフックをぶち込んでそれは思惑どおり運んだが、時折、申し訳程度に出す右への繋ぎに“大きな間”ができていたのが気になった。元々、そういうタイプで、この“間”のズレもまた石井の武器のひとつだが、それはスムーズに繋ぐワンツーがあってこそさらに生きるはずだ。
 実況の「世界目前」という煽りも気になった。もちろん、ゆくゆくは打って出る選手だが、半年前に新人王となり、日本ランカーになったばかり。いくら世界的に層の薄い階級とはいえ、その言葉は拙速に過ぎる。

◇バンタム級8回戦
○小川 寛樹(帝拳)
●田中 湧也(大橋)
判定3-0(77対75、78対74、78対74)

 間断なく打つ小川の左ジャブが試合全体を構成した。田中を鬱陶しがらせ、過剰反応を起こさせ、大きく動かし、左一撃狙いにハメ込む。
 小川は対照的に、極力小さく動く。まるで添え物のように、右を打つ。ジャブもストレートもフックも、コンパクトに、余計な力を抜いて打つものだから、バランスも乱れず的確性も増し、かつ相手の全体を見通すことができる。フットワークもボディワークも大きい田中は、自身の動きに必死となり、小川の動きを見る意識が薄れてしまう。

 ジャブのみならず、相手を先導・誘導するという意味でのリードブロー。この重要性をあらためて思い知らされる試合だった。

《Leminoライブ配信視聴》

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