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【ボクシング】知性溢れる野獣。ジャーボンテ・デービスがライアン・ガルシアをボディブローで粉砕

☆4月22日(日本時間23日)/アメリカ・ネバダ州ラスベガス/T・モバイル・アリーナ
スーパーライト級12回戦
○ジャーボンテ・デービス(アメリカ)WBAライト級チャンピオン
●ライアン・ガルシア(アメリカ)WBA1位
KO7回1分44秒

 ガルシアの右フックがデービスの顔面を捉えたと見たが、後退し、数秒後に跪いたのはガルシアだった。鼻血を流しながら面を何度も上向けて立ち上がろうとしたガルシア。だが、その足はついにいうことを利かなかった。

 デービスは右フックで顔面をなぞられたと同時に、左フックをボディへと滑り込ませていたのだ。速すぎず、遅すぎず、まさしくドンピシャのタイミングでカウンターとなってみぞおちにめり込ませた一撃。大袈裟でなく、ゼロコンマの世界。ガルシアの五感は「食らった」と認識し、後ずさりしたのだが、体がそれを受け取るまでの数秒が、タイムラグとなって表面化した。それほどわけのわからないスピードの領域。これが「電光石火」、“光速のやり取り”というものだ。

 初回開始2分30秒まで、デービスはパンチらしいパンチを1発も出さなかった。真っ直ぐに下がり、左へ右へと動いていき、ガルシアに自分を追わせて手を出させようとする。そうしてガルシアがパンチを出すタイミングや軌道、距離をインプットしようという意図なのだ。
 もちろんガルシアもそれを充分に理解している。だから長く速い左ジャブだけでデービスを牽制した。下手に手を出していけば、デービスは瞬時にそこを狙ってくるからだ。しかしそれにしても、“ノーパンチ”でガルシアのプレスを受け取ろうとするデービスの自信には恐れ入った。ガルシアが手を出さずとも、その癖やタイミングが手に取るようにわかる。肌だけでなく毛穴ですら感じる。もう、そういう獣的な嗅覚の鋭敏ささえ感じさせられた。

 向かい合っているガルシアは、そんなデービスの底知れなさをはっきりと認識していただろう。それでも何も仕掛けないわけにはいかず、ジャブ、そして得意の左フックをショートで打ち、デービスにロープを背負わせる。ここまでだけでも神経が擦り切れるようなやり取りに満ちていたのだが、そうして右、左とショートフックを叩きつけていく。が、デービスはガードとクリンチでこれを遮断。リング中央の中間距離でのやり取りに転じると、左ストレートをボディ、顔面へと伸ばしていく戦いにシフトした。もう、サイドへ回り込んだり、動いたりは要らない。正面での戦いで対応できる。そういう宣言に見えた。

 デービスが左を打ち始めると、ガルシアは右を使わなく、いや、使えなくなる。カウンターを狙っていることを、ガルシアのセンサーが捉えたこと、そして前の手の攻防に意識を吸い取られていたからだ。デービスは決して鋭い右ジャブを打っていたわけではない。鋭いどころか、ほとんどパンチらしいパンチを打っていなかった。が、アンテナを張り巡らしたような使い方をし、まるで磁石のようにガルシアの左を吸い寄せる。ガルシアは、クリンチ際に右をねじ込む。それだけしかできない状態に追い込まれていた。

 飛び抜けた野性の感覚を持つデービスだが、そこへの依存だけが彼を支えているわけではない。本当に恐ろしいのは、突出した知性を備えている点だ。決して無闇に突っ込んでいくことをしない。危険な間合いに身を置くことですら、すべての計測が終わったからこそできる芸当で、絶対に貰わないと確信に満ちているから為せる技。知性と野性が見事に組み合わさっている。例えていうならば、マイク・タイソンとフロイド・メイウェザーが合体したようなボクサーだ。

 6ラウンド、右を出すことを封じられていたガルシアが、その鎖を引きちぎって右を打ち出した。封じられてきたことも彼の卓越したセンスがあるからこそで、それでもなお、その封印を解いて出していけたのは、彼がさらに上級のファイターだからである。しかし、さらに上を行くデービスは、2ラウンドにガルシアの左フックをかわしざまに刺した左フック(で尻もちをつかせた)同様、今度は右フックに同じブローを重ねた。その瞬間を待っていたのだろうし、おそらく待っていなくてもずば抜けた反射神経で打てた一撃なのだろう。

 デービスの凄さ、恐ろしさが際立つ試合となったが、それをいっそう輝かせたのはガルシアの溢れるセンスだ。ガルシアの底知れぬ感性が、デービスのセンサーをさらに鋭敏に引きずり出した。結果だけ見れば一方的な試合だが、超高次元の好勝負だった。

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