見出し画像

【ボクシング】1・27アメリカ・フェニックスの1+ダブル世界戦試合批評&感想


ライダーを4度倒したムンギア。しかし圧勝とはいえず


1月27日(日本時間28日)/アメリカ・アリゾナ州フェニックス・フットプリントセンター
☆WBCシルバー・スーパーミドル級タイトルマッチ12回戦
○ハイメ・ムンギア(27歳、メキシコ=76.1kg)WBC2位
●ジョン・ライダー(35歳、イギリス=76.1kg)WBC8位
◇使用グローブ ムンギア=GRANT銀・緑赤、ライダー=RIVAL黒
TKO9回1分25秒

 2ラウンドに右ストレート、4ラウンドに左ジャブ、9ラウンドに右オーバーハンドと右からの左ボディで2度の計4度のダウンを奪ったムンギアの圧勝……と言いたいところだが、ライダーの渋い技巧に遭って攻めあぐねも見せた。

 ひたすらに待つ。待ってカウンターや隙を突いて合わせることを狙う。ライダーは、どんな相手に対しても常にそういうボクシングをする。だから前戦でもカネロ・アルバレス(メキシコ)に良いシーンも見せながら、“その先”へと突き抜けられない。この日もムンギアを困らせる場面が多々あったが、一呼吸置いてリセットしてしまうため、相手を落ち着かせてしまう。自分から攻めることはほぼ皆無と言ってよく、唯一出た4ラウンド、ムンギアにジャブを合わされて倒されたことで、先手を打った総攻撃を控えてしまった。

 ムンギアも、前戦でセルゲイ・デレビャンチェンコ(ウクライナ)と猛烈な打ち合いを演じて苦しんだことで、丁寧に戦おうという意思は見えた。新たに師事するフレディ・ローチ・トレーナーの指示もあったのだろう。これまでのように強引な攻撃は極力手控えて、ストレート系ブローを中心に力まずスムーズさを心がけていた。

 ライダーは、ダウンを喫したラウンドでもショートの右アッパー、左アッパーからの右フックと、出てくるムンギアの一瞬の隙を突いて差し込んでいた。だが、一定レベル以上のパワーを持つ選手相手に止めたり効かせたりすることができない。それらを受けた相手が取り乱すのを狙うものの、ムンギアも経験を積んで、そういう脆さを見せなくなった。

 この日のライダーといい、デレビャンチェンコといい、ムンギアのパンチが強烈というよりも、ふたりのそれまでの蓄積ダメージに思いを馳せる。特に今日のライダー。ジャブで倒れたシーンなどはその象徴だったように思う。
 そういった意味で、ムンギア、そしてゴールデンボーイ・プロモーションは絶妙なマッチメイクをしていると思う。カネロとの対戦を熱望しているが、ビッグマネーを稼げるということもそうだろうが、カネロが全盛を過ぎたという見立てのほうが大きいのかもしれない。年齢が近いデビッド・ベナビデス(アメリカ)とデビッド・モレル(キューバ)、ふたりのデビッドをライバル視するほうが気概を感じるのだが。

ムンギア=43戦43勝34KO
ライダー=39戦32勝18KO7敗

強引さ目立ち被弾も目立ったコヤソ。重岡兄弟が“上”の印象


☆WBO世界ミニマム級タイトルマッチ12回戦
○オスカル・コヤソ(27歳、プエルトリコ=47.6kg)チャンピオン
●レイネリス・グティエレス(28歳、ニカラグア=47.5kg)10位
◇使用グローブ コヤソ=EVERLAST赤、グティエレス=REYES黒
TKO3回2分37秒

 数週間前に発表された、急遽決まったタイトルマッチ。元WBCインターナショナル王者と言えど、実績に乏しいグティエレス相手に、コヤソが強引にねじ伏せた印象が強い。

 ステップを使って小刻みに立ち位置を変えて波状攻撃を仕掛ける。オールラウンドプレーヤーであるコヤソの持ち味だが、そういう繊細さは微塵も感じられなかった。真正面から強引に強い攻撃を仕掛けていく。それで圧倒できる。そんな思いが溢れ出していた。そして実際にそのとおりにしてみせたのはさすがだが、被弾も多かったのは褒められない。

 グティエレスもサウスポーにスイッチするなど工夫を見せたが、コヤソの力を込めた左オーバーハンド、右フックを喰ってしまった。カウンターしてみせた右でコヤソの目の下を腫れさせたのが唯一の爪痕だった。

 3ラウンド、コヤソが右フックのカウンターからラリアット気味の左で倒すと、左ブローを狙い打ちし、ロープを背負わせて連打。レフェリーストップに持ち込んだもの。

 コヤソは重岡兄弟の筆頭ライバルだが、真正面の近い距離の戦いで、巧みなボディワークを使って被弾を許さない重岡兄弟が上手──そんな印象を強く植えつけられた試合だった。

コヤソ=9戦9勝7KO
グティエレス=12戦10勝2KO2敗

流れ握っていても、相手の状況を観察すべし


☆IBF女子世界フライ級タイトルマッチ10回戦
○ガブリエラ・フンドラ(21歳、アメリカ=50.4kg)チャンピオン
●クリスティナ・クルス(41歳、アメリカ=50.6kg)5位
◇使用グローブ フンドラ=RIVAL黒・桃、クルス=RIVAL黒・赤
TKO10回59秒

 フンドラの長いストレートが届きそうで届かない。そういう絶妙な距離をキープしつつ、右から左フックを浅くだがコツコツと合わせていったクルスが、前半5ラウンドまでを支配していた。左右へ移動していくフットワークも上手く、フンドラのプレッシャーをはぐらかし、王者のリズムを狂わせていた。

 思うように当てられない触れない。フラストレーションを溜めて、イライラしてもおかしくないフンドラだったが、決して心を乱さない。そうしてしまうと負けだという強い意思を感じた。どこかで捕まえられる、捕まえてみせるという思いが常にあったのだろう。はっきりと流れが変わったのが6ラウンドだった。

 左ストレートからの強烈な右フックを意識づけし、さらに左ストレート。ほんのわずか疲れも見せ始めていたクルスが途端にバタバタとしだす。伸びやかなストレートの威力も感じたのだろう。先に心を乱してしまったのはクルスだった。

 フンドラは、同じストレートや右フックを打つにしても、微妙にタイミングを変える。小さなフェイントも混ぜる。右から左フックのコンビネーションがパターン化していたクルスとの違いだ。そして、流れをつかんでいた戦い方を、なおも続行させることによって、フンドラに読まれてしまった。
 フンドラを呼び込んで当ててかわす。それで王者の心を乱せなかったことを把握すべきだった。自ら先手を打って仕掛け、フンドラのリターンをかわす。そんなシーンを折々で刺し挟んでいれば、また違った展開を築けたかもしれない。

 うまくいっている流れを変えることは勇気が要る。だが、相手の状況を観察し、それを踏まえて変えていくことが大事だった。最終10ラウンド、クルスの右をかわしてフンドラが左、右フックから左アッパーと決める。すると、クルスはバランスを失って、グローブで顔を覆って下を向き、背中を向ける形になってしまった。これを見たクリス・フローレス・レフェリーは戦意喪失とみなし、試合を止めた。レフェリーによっては、ブレークをかけて再開するかもしれないが、フローレス氏の判断は誤ってはいない。クルスは不服の姿勢を示したが、試合から背けたというポーズにとられかねない行動は禁物なのである。

フンドラ=13戦13勝6KO
クルス=7戦6勝1敗

《DAZNライブ配信視聴》 

ボクシングの取材活動に使わせていただきます。ご協力、よろしくお願いいたします。