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【ボクシング】焦れるか焦らすか…わずか5分のやり取りに、ボクシングの深奥を見た─渡邊海対中井龍

※写真=元A級ボクサーの父・利矢さんと抱き合って喜ぶ渡邊。古山哲夫会長と3人で、しっかりと戦略を練ったのだろう

Photos by Hiroaki Yamaguchi
@FinitoYamaguchi
@Finito22

☆12月31日・東京/大田区総合体育館
スーパーフェザー級8回戦
○渡邊  海(ライオンズ)日本フェザー級15位
●中井  龍(角海老宝石)日本スーパーフェザー級10位
TKO2回1分54秒

 サウスポー中井がどう距離を潰すのか。そして、縦横無尽に攻めまくってしまうのか。渡邊は得意の軽快なフットワークで空回りさせるのか。うまくいかないと見せかけた中井が、渡邊の打ち気を誘うのか。それとも渡邊が、遠い距離からの速い攻撃で蹂躙してしまうのか。
 様々なパターンが頭の中を巡る、“マニア”にはたまらない顔合わせ。この試合がParaviで配信されないから……と言って会場に足を運んだ人(両選手の応援団を除く)はどれだけいただろうか。そういうファンを会場に取り戻したいものである。

初回、渡邊は敢えてガードの上を叩いているように見えた

 初回、中井は無理に距離を詰めることはしなかった。いつも以上にアップライトに構えているように見える渡邊の、深い懐へジャブボディ、左ストレートボディを送る。
 対する渡邊は、若干硬さを感じさせたものの、こちらも決然と距離をキープし、より懐深く、アップライトでより高く遠く、というスタンスを守っているように感じた。そして、敢えて中井の両ガードの上を強く叩いているようにも見えた。“敢えて”というのは、中井の顔面に、意図を持ってパンチを届かせない、ということだ。強引に打ちこんでいけば、バランスは乱れる。“策士”中井はそこを狙っているはず。そうはせずとも、中井はいずれ入ってこようとする。だから、決して“境界線”を越えない。ポイントを取られようとも、主導権を握る。そういう駆け引きをすでに始めていたのだろう。

左フック一閃!

 ガードの上を叩いた渡邊の攻撃、その威力と速さを中井は感じ取ったのかもしれない。初回には踏み込むタイミングを変えてサイドへ入り、左ダブルをちょんちょんと当ててもいる。ここは一気に距離を詰めて、強い攻撃を仕掛けるべきだ。中井は瞬間的にそう考えたのかもしれない。2ラウンド、口火を切った。半ば強引に距離を詰め、高くて遠い渡邊の顔面を伸び上がるようにして狙った。
 渡邊は、この瞬間を待ち構えていた。左フック一閃。中井はドサリとキャンバスにヒザから崩れ、立ち上がったものの、足元が定まらず、吉田和敏レフェリーに抱えられた。

狙いすました一撃を決め、興奮状態の渡邊

 最初に訪れたワンチャンスを、ものの見事に捉えてみせた渡邊の集中力、勝負強さに驚かされた。そして同時に、短い時間だったものの、その駆け引きの妙に。
 絶対に焦れない。そして、相手を焦らす。心を乱した者は、体のバランスも崩れる。そういう、瞬間瞬間のやり取り、ボクシングの深奥を堪能させられた5分弱の戦いだった。

 だからこそ、ボクシングの会場内ではラウンド中の移動を禁止してほしい。これはボクシングという競技を守るための、もっとも根本の振る舞いだ。 

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