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【ボクシング】チャンピオンカーニバル全4試合がKO決着


☆4月26日/東京・後楽園ホール
日本ミニマム級王座決定戦10回戦
○高田 勇仁(ライオンズ)1位
●長谷部守里(三迫)2位
TKO6回2分59秒

 距離を取る、そして縮める。常に高田が主導権を握り、試合を進めていた。過度な力みを完全に削ぎ落とし、リラックスした状態のまま左を使って戦いをコントロール。たとえ長谷部がプレスを強めようとも、高田にはかつての悪癖だった“焦り打ち”がなかった。ここ数戦のツボを心得た戦いぶりが、そんな落ち着きを生んでいたのだろう。

 高田の左や右の打ち終わりに右を狙う長谷部を先読みし、その右を外して左フック、あるいは右ショートをヒット。長谷部もタイミングを変え、単発に終わらずに連打を集めてもみせ、高田がヒットを奪われる場面もあった。だが、高田にはその全体像を見据える“目”があった。長谷部の狙いを察知して、右は3ラウンドに1度合わされた以外、深く強引に打っていなかった。そして長谷部が攻めを強めてきたときも、あるライン以上の危険な間合いを切る巧みさがあった。

 左フックの相打ち、右の相打ちと、ドキリとさせられる瞬間が何度もあったが、そのほとんどすべてを高田が支配していた。高田が合わせにいっていたからである。

 左フック、アッパーと決め手となるパンチを強引に打たず、ジャブを使い、右ストレートを上下に送る。また時折放つ左ボディブローも利いていた。テンポの上げ下げも上手く、最後は心身ともに前がかりとなった長谷部を見事に突いて、ウィービングから左フックを合わせた。

☆4月26日/東京・後楽園ホール
日本ウェルター級王座決定戦10回戦
○坂井 祥紀(横浜光)2位
●重田 裕紀(ワタナベ)1位
TKO2回2分

 初回は強弱をうまく使って左ストレート、アッパー。左を軽く3発見せておいての右フックを決めるなど、重田が一方的なラウンドを形成した。両腕をガッチリと掲げ、また前傾姿勢でボディも防いでいた坂井は、重田の左アッパーに対して1度だけ右を合わせたものの、ほとんど手数を出さなかったと言っていい。

 しかし2ラウンド、なおも攻める重田の呼吸を読んで、するりと右ショートを合わせる。打ち終わりでも同時でもなく、“パンチの出し際”“引き際”に。これは坂井独特のタイミングで、効かせたりヒヤリとさせたりするものでなく、頭を混乱させるもの。もっとわかりやすく表せば「集中力を奪うもの」。そのように感じた。

 頭の中に「?」が浮かぶ状態の重田の打ち終わり、ガラ空きの顔面へ右のオーバーハンド、メキシコ流に言えば「ボラード」が打ちこまれると、重田の体が大きく揺らぐ。間合いや展開の作り方に妙技を持つ坂井だが、これまでは詰めの甘さが難点だった。けれどもこの日は一気に勝負にいった。重田のダメージも強かったが、左右へとボディブローを散らし、ふたたび右のオーバーハンドを決めたのは、トレーニングの賜物だろう。

 振り返ってみれば、初回、重田に攻めさせて、強く前がかりにさせたのも作戦だったのだろう。見事な駆け引きで、早い勝負を決してみせた。

☆4月26日/東京・後楽園ホール
日本スーパーライト級王座決定戦10回戦
○藤田 炎村(三迫)2位
●アオキ クリスチャーノ(角海老宝石)1位
KO2回3分8秒

 1ラウンドを見る限り、左ジャブを適度に使い、ボディへの右ストレートから返しの左フックを合わせ、柔軟に戦っていたのはクリスチャーノだった。藤田の大振りの右を誘い出し、スウェーバックしながら左フックを狙うなど、ボクシングの多様性も披露していた。しかし、クリスチャーノの攻撃を、ブロックし、かつ固まらない藤田の動きも気に留まっていた。

 2ラウンドに入っても、クリスチャーノが気持ちよさげに攻撃を仕掛けていた。しかし、ここに落とし穴があった。いや、藤田がそれを張っていたのだ。
 密着した状態からクリスチャーノが離れた瞬間、藤田が右フックを打ち抜いた。クリスチャーノが遠目から右フックを打つ、その内側からだ。これを実現させたのは、右足を前に出した状態、つまりサウスポースタンスだった。
 オーソドックスから打つクリスチャーノの右フックよりも、距離も近く、速く打つことのできる左構えからの右フック。藤田は自身がスイッチヒッターであることを利用した、まさに狙いすました右フックだったはずだ。
 クリスチャーノが右を打つ際に、左ガードが落ちることも計算済みで、この瞬間をきっと思い描いて取り組んだ一撃だったのだろう。
 理数脳を活かした、素晴らしいKOブローだった。

☆4月26日/東京・後楽園ホール
日本ライト級タイトルマッチ10回戦
○仲里 周磨(ボクシングラブオキナワ)1位
●宇津木 秀(ワタナベ)チャンピオン
KO3回1分40秒

 中・長距離の戦いでは仲里の左フック、右ストレートが生きる。宇津木はおそらくそう読み取ったのだろう。距離を縮めて左右アッパーをうまくねじ込んでいたのだが、この日の仲里は左右のショートフックも冴えていた。早々に右でダメージを被った宇津木は、速いテンポを刻むのでなく、自らを落ち着かせようと敢えてテンポを抑えていたように見えた。が、それが仲里にとってもピタリとハマったように見えた。

 仕掛けてくる仲里を、クリンチで切り、頭の位置を巧みに変えて嫌がらせる。そうして自分のペースに巻き込む。ペースを手繰り寄せる。内心は多少焦っていたかもしれないが、それを覆い隠そうと決して無理打ちをせずに淡々とリズムを刻み、体を運ぶ。そうして立て直す。そう考えていたのかもしれない。

 初回の大チャンスに攻めきれなかった仲里は、決して攻め急がずに、かといって受け身にはならなかった。宇津木のテンポにピタリと合わせつつ、攻防技術でも決して遅れを取らず、左フックを顔面に打ち、それを意識させておいてボディにも打ち込んでいた。

 この試合も、セミ同様に離れ際が勝敗を決した。今度はオーソドックス同士の右相打ち。だが、右側へ小さく回り込みながら放とうとした宇津木の右は遠回りし、その場で体を回転させながら打った仲里のそれは、より最短距離でコンパクトに。その場にストンと落下した宇津木は立ち上がったもののよろめいて10カウントを数えられた。

 自分のテンポ。相手のテンポ。相手に合わせないテンポ。相手に敢えて合わせるテンポ。相手に敢えて合わせておいてサッと切り替えるもの。相手を置き去りにするもの。
 ひと言で「テンポ」と言ってもその内実は多種多様で、どれが正解かは、各々の戦いの中でしか見い出せない。
 この戦いで見えたのは、互いのテンポが合致したということ。そして、テンポを目まぐるしく変化させるのに長けた宇津木が、それをできなかったことだ。
 宇津木はそれをしなかったのか、仲里がそれをさせなかったのか。どちらとも言えるだろう。

 繰り返しになるが、両者にとって心地よいテンポが合わさった。いわゆる“噛み合った”試合。そこにも明と暗がくっきりと表れる。それが勝負の世界だ。

《Leminoライブ配信視聴》

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