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迷いなき尊さと迷わない怖さ─堤聖也対大嶋剣心より

写真_山口裕朗
Photos by Hiroaki Yamaguchi

☆10月20日・東京・後楽園ホール
日本バンタム級タイトルマッチ10回戦
○堤 聖也(角海老宝石)チャンピオン
●大嶋剣心(帝拳)7位
TKO9回2分42秒

 アクションの少ない、静かな様相で始まった戦いは、左ボディブローを決めた大嶋が先に抜け出した。リラックスした状態を築き、サイドの死角から右をねじ込む。そうして真正面に堤をセットすると、モーションの少ないソリッドな左ジャブを突き刺していく。

 距離の遠さを肌で味わい、ジャブの嫌らしさをさっそく感じ取った堤が、低い姿勢でそれを縮めようとすると今度は右アッパーカット。同じ空間を共有する両者だが、そこは徐々に大嶋色に支配され始めており、堤には思いきった行動が必要となった。2ラウンド。堤は飛び込んで左右フックを叩きつけて打開を図った。が、右を振る刹那、大嶋に左フックを合わされてしまった。

“後の先”。堤に手を出させ、かわして後を取る。自らを中心とし、堤を動かして体力を使わせ、心をも削り取っていく。大嶋はそういう作戦を取り、堤はそこにハマり始めていた。

 初回はおろか、3ラウンドまで流れてきたものを逆流させることは、なかなかにして困難な作業である。しかもタイトルマッチともなれば実力は伯仲。だからこそ、一気にペースを変えることは容易でなく、終わってみれば大差ということも往々にして生じるのだ。

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