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米豪興行、二兎を追う

 週の始まりが日曜日とするならば今週の日曜日(15日)。「今日は半日、いや1日ボクシングに浸る日にしよう」と、一切の情報や連絡手段をシャットアウトして、朝7時に始まる『TOPRANK PROMOTION/ESPN+』&11時30分スタートの『NO LIMIT BOXING/SHOWTIME』の二兎を追う。
 とはいえ、前者の前座試合のほうが興味をそそられる選手が多いので、メイン映像はこちらにしてしまった。PCをもう1台、もしくはタブレットがあれば、本当の両にらみをできるのだが、私にはそんな余裕はありゃしない。

 ジョバンニ・マルケス(22歳=アメリカ)は、ラウル・マルケス(元IBF世界スーパーウェルター級チャンピオン)の息子。92年バルセロナ五輪にも出場している父は正統派のサウスポーだったが、息子は適度に荒々しく攻撃的で、父よりもおもしろいボクシングだった。父が「自分にはなかった理想」を指導したパターンか?

KO勝利した息子ジョバンニを見つめる父・ラウル(右)。ジョバンニはこれで7戦全勝(5KO)
/ESPNより

 2020東京五輪スーパーヘビー級銀メダリストのリチャード・トーレスJr.(24歳=アメリカ)は、左構えからの前の手(右腕)の使い方に注目した。相手(タイレル・ハーンドン=36歳、アメリカ)の左グローブや左腕をちょんちょん叩く右ジャブと、小さく半円を描くように回す動作だ。
 右ジャブはリズムを刻むと同時に左ストレートを打ちこむタイミングを計るためのものだが、たんにそれにとどまらず、小突く位置を微妙に変えていることに意味がある。半円も、フェイントにもなっているし、フックで巻いていく予備動作にもなっている。非常に地味だが、向かい合う相手にとっては実に効果的。奥の手のストレートに自信があるからこそ、それをより生かすための“前フリ”になっている。
 トーレスJr.と同じく、東京五輪ライト級銀メダルのキーショーン・デービス(26歳=アメリカ)は、右へ右へと少しずつ位置取りを変えていくのがいつも特徴的。この日もナヒール・オルブライト(27歳=アメリカ)のやや左サイドを取りながらの右クロスで先制していったが、オルブライトがこれに対応し始めて中からの攻撃、とりわけクロスレンジの戦いを仕掛けると、デービスはこれに手を焼いた。
 このオルブライト、前戦では2016リオ五輪ライト級代表のカルロス・バルデラス(27歳=アメリカ)を僅差の2-0ながら破っている選手。ちなみにバルデラスはリオの2回戦で成松大介(自衛隊体育学校)を下した選手である。デービスはさすがに食われることはなかったが、ハッとするようなシーンを作ることもできなかった。死角から右クロスを被せることにこだわりすぎた気がするが、例えばフロイド・メイウェザーのように、返しの左フック、左アッパーを生かせれば、このクロスももっと有効になっただろうし、オルブライトを寄せつけなかったのではないか。メイウェザーの場合、左への繋ぎが恐ろしく速く、これは誰にも真似できないだろうけど。

 メインのミドル級王座統一戦は、予想以上の一方的な試合となった。WBO王者ジャニベク・アリムハヌリ(30歳=カザフスタン ※現地の読み方はやっぱりどう聞いても「ハリムハヌラ」だ。可能性としてある「アリムハヌライ」でもなかった)が得意のパターンを気持ちよく披露し続けてIBF王者ビンチェンツォ・グアルティエリ(30歳=ドイツ)を6回1分25秒TKO。
 グアルティエリの前の手(左腕)の内側に鋭く突き通す右ジャブで圧し、左ストレート、オーバーハンドの組み合わせを自在に打ちこんでいった。特に初回にボディに突き刺した左ストレートが効果的だった。
 下がり、回るグアルティエリは、局面を打開しようと何度か意を決して飛び込んでいったものの、アリムハヌリはそこへ左アッパーを合わせる。下がっても出てもやられてしまうという袋小路に追い詰められてなす術がなかった。グアルティエリが辛くも6ラウンドまで“もった”というのが正直な感想だ。

 このメインと、豪州のセミが丸被りしてしまった。サム・グッドマン(25歳=)vs.ミゲール・フローレス(31歳=アメリカ)は好勝負の予感があったが、グッドマンが2者がフルマークをつける大差判定勝利。“チラ見”だけの印象では、「打った後のステップバック」に差が見えた。グッドマンは常態化しているのに対し、フローレスはそうではなかった。それだけではもちろん語れないが、そういうちょっとした細部の差が、“開き”を生んでいくのだと思う。

 4団体王者ジャーメル・チャーロ(アメリカ)のWBO王座剥奪により、暫定から正規に昇格したティム・ヅー(28歳=オーストラリア ※こちらもやっぱり「チュー」ではなくて「ヅー」と聞こえる)と、WBC暫定王座はさておいて、ヅー挑戦という形を優先したブライアン・メンドサ(29歳=アメリカ)。スーパーウェルター級の“準統一戦”は、ヅーの鉄壁のブロック&ガード、前へ出る推進力、パワーパンチが、業師メンドサを上回った。4~6ポイント差で、判定が読み上げられた瞬間、メンドサも拍手を贈る試合だったが、序盤4ラウンドまでは、メンドサの技巧が目立っていた。多彩なフェイント、コンビネーションがゆったりとしたリズムで繰り出され、ヅーに攻めの糸口をなかなか見つけさせなかった。ヅーの焦りもちらちらと窺えた。
 しかし、元WBA・IBF統一王者ジェイソン・ロサリオ(28歳=ドミニカ共和国)をストップし、WBC暫定王者セバスチャン・フンドラ(25歳=アメリカ)を衝撃的KOで下して成り上がったメンドサも、ヅーの壁のように迫る圧力に押され続けた。「メンドサ推し」の私としては、序盤のリラックス・コンボで押し進めるのでなく、ヅーより先に強い攻撃を仕掛けたら、また違った展開になった気がしていた。が、きっと、それをさせなかったヅーの防御力が、イスマエル・サラス氏率いる陣営にも予想外だったのだろう。

判定結果を待ち受けるヅー(右)とメンドサ USA SHOWTIMEより

 サラス門下生らしい独特のリズムとテンポ&コンビネーションを持つメンドサ。ヅーの強さも際立っていたが、やっぱり自分はメンドサの渋いボクシングが好みなのである。そのことを再確認しつつ、でも都合7時間の集中視聴に、終わった瞬間から半日は案の定、グッタリしてしまった。

 

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