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2024年日本プロボクシング開幕。3試合を独自批評


大きく変化した右フックの使い方。“強さ”見せた保田

WBOアジアパシフィック・ライト級タイトルマッチ12回戦
○保田 克也(31歳、大橋=61.1kg)チャンピオン
●佐伯瑠壱斗(25歳、岐阜ヨコゼキ=60.8kg)11位
TKO9回1分23秒
 はっきりと「KO勝ち」を意識した保田が、ようやく潜在能力の一端を披露した印象。それを大きく支えたのは2回にダウンを奪ってみせた「右フック」だったと思う。

 相手をおびき寄せ、引きつけて左ボディアッパー、左ストレートをカウンタ―するのが保田のベーシックスタイル。この日も佐伯の右をかわしざまに合わせて倒した左カウンターや、強引な攻撃に対し、地味だが丹念に突き刺したボディアッパーは光った。けれども、退きながら引っかける右フックを得意としてきた保田が明らかに変化を見せたのは、距離を詰めて強く打ちこんでいく右フックだ。これは、ここまでのキャリアでは皆無だったといってよいかもしれない。

「保田は右フックがいちばん強い」と、ミットを持ったことのある八重樫東トレーナーが語っていた。それを聞いた保田は、鈴木康弘トレーナーとともに、攻めていく右フックを磨いてきたのだろう。

 左カウンターへの警戒心の強かった佐伯に、この右フックを意識させ、佐伯が左ブローを出す頻度を奪った。右1本に近い攻撃にハメ込まれてしまった佐伯は、これもかわされて苦しい展開に陥ってしまった。予測の立てづらい連打で保田に襲いかかりもしたが、キャンバスを這うようにターンする保田のステップワークの巧さに遭って、効果的な攻撃には結びつかなかった。そうなると、距離を詰めてくる保田との、近い間合いでの打ち合いに賭けるしかない。

 だが、ダウンも奪って右フックへの自信を確信に変えた保田は、それも含めた力強い連打を繰り返した。目立たないが左ボディアッパーも効果的だった。そして、“頭の位置”が絶妙だった。ヘディングではない“置き所”で、佐伯を嫌がらせるものだった。ぶつけているわけではないからレフェリーは注意できない。佐伯は保田の頭に心を揺さぶられ、露骨に表情や態度にイライラする心情を表してしまった。

 強い右フックで佐伯の左目周りを腫れさせた保田は、右ジャブでしたたかにそこを打ち、さらに左ストレートでも狙った。佐伯はその左をヘッドスリップして自分の顔の右側に流すのでなく、左にかわそうとして、左目に貰ってしまった。図らずも、自ら当たりにいってしまった形だ。
 その瞬間を見逃さなかった中村勝彦レフェリーのストップのタイミングは完璧だった。

保田=14戦13勝(8KO)1敗
佐伯=17戦10勝(3KO)6敗1分

この試合をどう受け止めるか。両選手、両陣営に期待

72.0kg契約8回戦
○京原 和輝(26歳、博多協栄=71.4kg)
●中島  玲(25歳、石田=71.7kg)
判定3-0(77対75、77対75、78対74)

 連打主体の手数で迫った京原と、左ボディブローを効かせ、一撃の印象で上回った中島。どちらを優勢とみなすかで、採点は割れるように思ったが、ジャッジ三者ともが手数を支持した形だ。

 身長で15cm上回る“ナチュラルな”ミドル級の京原は、遠い距離や懐の深さを築く意識はほとんどなく、前傾姿勢で中島の手が届くポジションをキープし続けた。中島との真っ向からの技術勝負を選択しているように見えた。踏み込みの速さ、鋭さで上回る中島は、だからその点で特段苦労をしたわけではない。
 が、京原は、のらりくらりと中島をはぐらかす距離の取り方も心得ていた。そうしてストレート主体のショートコンビネーションを返していった。踏み込むステップをともなわず飛ばすこの連打に、中島はダメージこそ受けなかったものの、やりづらさを感じていたようだ。

“強打する”ことよりも“確実に当てる”ことを優先したように見えた京原だが、ついついワンパターンのリズム連打となってしまい、そこへ中島の左ボディをカウンタ―されてダメージを負ってしまったが、そこからは腰を引いて、いっそうボディを遠ざけるスタンスをキープした。中島は、それにうまくごまかされてしまった。

 久留米櫛間ジム時代は、身体能力をより前面に出すダイナミックさが印象強かった京原。だが、移籍して3戦目のこの日は、技術向上を図っているだろう日々と、丁寧に戦おうという姿勢を強く思わせた。けれども、ヒザを伸縮させずに上体が浮き気味で、ステップを使えていなかった点が気になった。ここというところでステップを入れながら連打できていたならば、もっとはっきりと攻勢を印象づけられたように思う。
 対して中島は、あれだけボディを効かせていただけに、ダウン以上のシーンを作りたかった。本人と陣営は、ポイントはリードしていると計算していたのかもしれない(私も中島がリードしていると見ていた)が、それはあくまでも“私見”なのだ。

 勝者敗者ともに、本人はもちろんのこと、周囲がこの試合内容をどう捉えるか。それ次第で、飛躍するか停滞するか、大きく左右してしまう“きっかけ”となりうる一戦だった気がする。

京原=12戦7勝3KO2敗3分
中島=9戦6勝1KO3敗

「自分を出す」のか「相手を見る」のか。“注力”の差が明白に表れた

スーパーバンタム級8回戦
○木元紳之輔(26歳、角海老宝石=55.3㎏)
●花森 成吾(25歳、JB SPORTS=55.3kg)
KO3回2分10秒

 速い刻みから連打を繰り出していった花森だが、それがともすれば“慌て打ち”しているように感じられた。その連打をしっかりとガードで防ぎ、それだけでなく両ヒザを使って威力を逃がしつつ、続く攻撃体勢を取っていた木元とは実に対照的だった。
“連打を速く打つ”ことに囚われていた花森に、木元は右クロスや下から上へと繋ぐ左フックダブルを決める。すると花森はいっそう焦りを加速させてしまったようで、防御の意識はさらに薄れていたように思う。
 木元は右で花森にダメージを与え、試合を決めにいったところで右リターンを喰ってしまったが、危険な雰囲気を作ったのはこの場面だけだった。全体的に花森の動きをしっかりと見定めて、“行く”と“退く”のバランスをうまく取っていた。
 一方の花森。綺麗に伸びて威力ある右ストレートを持っているものの、連打を速く打つ意識が優ってしまい、一発一発が中途半端な打ち方になってしまった。そして、連打のテンポが一定で、相手からしたら読みやすくなっていた。
 3回にダウンを奪った木元の右クロスからの返しの左フックは、いずれも花森のテンプルを正確に捕らえたもの。その点を見ても、木元がいかにしっかりと花森を見ていたかがわかる。タイプは異なるが、ダニエル・ローマン(アメリカ)のように落ち着いてじわじわと相手を攻め落とすボクシングを目指してほしい。
 花森は、相手どうこう以前に「自分のすべてを全力で出す」意識が強すぎる選手に思える。けれども、ボクシングはあくまでも“対人競技”だ。ボクシングを離れた日常の中で、気持ちが舞い上がるような場面はいくらでもあるが、そんなときに自分の気持ちをコントロールすることもきっと、ボクシングに繋がると思う。

木元=14戦8勝4KO6敗
花森=12戦7勝5KO5敗

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