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【ボクシング】11・4後楽園ホールの5+1試合評

 1年5ヵ月ぶりの試合となった富岡樹(26歳=角海老宝石)は、実力差のあるタイ人選手との対戦だった。が、まずは本番のリング上で自分の動きを披露する、これが最も重要だったと思う。

☆スーパーバンタム級8回戦
○池側  純(25歳=角海老宝石)日本5位
●岸根 知也(30歳=ミツキ)
TKO6回1分2秒
 池側が、例によって空間の中に“左右高低”と“奥行き”を創出し、立体的な素晴らしいボクシングを描き出した。これまでと若干違ったのは、より近い間合いでそれを実現し、防御意識を失うことなく攻撃を強めたこと。将来を見据えた試みだったに違いない。岸根の攻撃も届く場所で、「縦・横・高さ」の多面を築き上げ、高いパフォーマンスを披露できたことは大いに自信になったはずだ。
 彼はどんなことを考えて練習し、試合を戦っているのか。実際に目で見て話しを聴いてみたいと強く思う。石原雄太トレーナーはきっと、教えていて楽しいはず。池側自身も今、「ボクシングがおもしろくてしかたがない」のではなかろうか。
 敗れた岸根は、相手が悪かったとしか言いようがない。入り際のタイミングずらしなど、工夫は多く見られ、なんとかこじ開けようとする姿は胸を打った。池側と向かい合った経験は貴重。何かを吸収してほしい。

☆131ポンド契約8回戦
○波田 大和(26歳=帝拳)日本スーパーフェザー級2位
●リュウ・ビャオ(24歳=中国)
TKO5回40秒
 まずは打たせない。そういう丁寧さを感じさせるスタートを切った波田は、強く打っても打ちこみすぎない意識も働いていたようで、反省を踏まえた真摯さを感じさせた。対戦相手のリュウは、キャリアが少ないながら将来性を感じさせる好選手で、サウスポーからの右フックは特に脅威だった。
 まったく被弾しなかったわけでない波田だったが、貰ってもムキになって打ち返すことをせず、冷静さを保ったことに成長を感じさせる。静から動に一瞬にして転じて決めた左カウンターは見事だった。

☆日本ライト級最強挑戦者決定戦8回戦
○三代 大訓(28歳=横浜光)1位
●浦川 大将(26歳=帝拳)2位
判定3-0(78対74、78対74、79対73)
 前出の池側同様に、三代も近い距離でのやり取りに、今後の活路を求めているのだろう。自ら危険地帯に身を置いて、相手を圧倒する。そういうボクシングへの移行を試しているように感じた。
 ただし、解説のセレス小林さんも指摘したとおり、右に威力ある浦川の攻撃を、“中=右側”に避けようとする癖は改善すべきだ。浦川からすれば右を打ち下ろしながら三代の動きを追いかけることができる。三代には危ない間合いが何度もあって、実際に打たれてもいた。自信の右側に相手の右を流すヘッドスリップやポジショニングが今後の課題だろう。それができれば、“ワン”のタイミングで、避けながら自身の攻撃にもつなげられる。高等技術だが、三代なら可能だろう。
 キャリアで大きく劣る浦川だが、強烈な右を存分に披露した。それをもっと生かすための伏線や、被弾を極力抑える意識が必要となってくる。三代とフルラウンド戦ったことを自信にしつつ、敗れて得られるものをしっかりとつかんでほしい。

☆日本ウェルター級最強挑戦者決定戦8回戦
○豊嶋 亮太(27歳=帝拳)1位
●石脇 麻生(24歳=石田)2位
判定2-0(76対76、77対75、78対74)
 元々、技術の高さをちらつかせていた石脇が、惜敗したとはいえ、これほど急角度での成長を見せたのが驚きだった。アメリカ合宿で大きなきっかけを得たのかもしれない。豊嶋のプレスに煽られても、決して慌てることなくボディワークでほんのわずかズラし、ポジションを変え、リターン攻撃にシフトする。豊嶋の連打に晒されながら崩れなかったのは、確固たるものを築きつつあるからだ。石脇もボクシングの奥深さとおもしろさをわかり始めているのかもしれない。
 豊嶋は、フィジカル勝負ではない何かを示したかったのか。石脇の移動にはぐらかされたのか。それとも、極度の減量による影響なのか。原因はひとつかもしれないし、複数かもしれないが、いつもよりフィジカルのアドバンテージを生かすことができていなかった。石脇のテンポとリズムに狂わされたというのも大きいだろう。
 それでもポイントはしっかりと押さえていった。一撃の強さでなく、連打型に変えたのも好判断だった。ただし、いつも以上に打たれるシーンが多く、ボディの効き方から類推される減量等、懸念事項がいくつかある。

☆日本フライ級タイトルマッチ10回戦
○飯村樹輝弥(25歳=角海老宝石)チャンピオン
●村上 勝也(29歳=名古屋大橋)12位
判定3-0(99対91、99対91、99対91)
 初回いきなりの先制攻撃を仕掛けた飯村が、その後もやりたいボクシングをほぼ貫いて完勝を果たした。村上は、いきなり後手に回らされて、当てられず打たれるを繰り返した。フルラウンド戦い抜けたことが貴重だ。
 村上のほうこそ、いきなり大胆な攻撃を仕掛けたかったのかもしれない。が、先手を打って制した飯村の、若さに似合わない老獪さが光る。
 ボクサータイプの村上がファイターになる。村上主動でそれを実現できていれば違ったのかもしれないが、早々に主導権をつかんだ飯村が、村上にそれを強いた形となった。同じスタイルを選択するにしても、「どちらがそれを引き出したか」、これが重要となる。「やらされてする」受動より、「自らやる」能動。同じ行為をするにしても、主客によって効果も結果も変わってくる。私たちの日常の行動といっしょである。
 打って動くを徹底した飯村のテクニシャンぶりは、大いに発揮された。けれども、打つ前に「打った後に動く意識」が働きすぎて、踏み込みや打ち抜きが充分でなかったことは、飯村自身も当然わかっているはずだ。それがヒット数の多さに反し、村上にダメージを与えられなかった要因。村上も、飯村の攻撃に恐怖を感じるまでには至らずに、中盤から終盤まで、プレスをかけ続けられたのだろう。
 飯村は、一撃を強く打ちこむハードパンチャーよりも、連打で仕留める型を目指しているのだろう。強弱やテンポを工夫することで、効果はてきめんになるはずだ。時間はまだまだたっぷりある。

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