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大掃除

 初心に帰る。心を入れ替える。
言葉では何とでも表現できるけど、実際に行動に移すことこそが大事。今度ばかりはこれまでのだらしない自分自身に決別だ…というわけで、まずは荒み切った家の中を片づけようと考えた。

 初日はイモリとドジョウの水槽掃除。かれこれ16年も共に暮らしているにもかかわらず、彼らはいったん移動させてあげようとするオレの手から逃げ回る。フタを開けただけで「食事を貰える」とすっかり理解している人懐っこいイモリ2匹も、である。
「こんなにちっちゃいときから世話をしてきたというのに、こいつらはいまだに私のことを狙ってるんですよ」と動物園のワニの飼育員が嘆いたという、ビートたけしのネタをその都度思い出す。

 2日目は掃除機かけ。部屋、トイレ、洗面所等、全部で10パート。

 ここまでは通常通りである。

 ここからが本題。3日目は「拭き掃除」だ。いや、本音を書いてしまうと、するつもりはなかった。普段仕事をしてる応接間のテーブルの上だけを片づけて拭くつもりだった。が、置きっぱなしになっている扇風機、送風機、これからの季節にまた活躍してもらう40年物の電気ストーブにまとわりつく埃が気になった。そこから始めたら、もう歯止めが利かなくなった。棚という棚を片っ端から拭き始めた。置いてある小物もすべて拭いた。いつも重宝しているファミリーマートのウェットティッシュは、たっぷりとあった分はすぐになくなってしまい、急いで買いに走った(最終的にこれも使い切った)。

 本題の本題は、ピアノの上に飾ってある神棚である。長らく墓参りにすら行っていない不届きな息子、そして家族を、いつも身近で守ってくれている神棚。翌日、墓参りに行くことは決めていたが、その前にこっちをきちんとしなければ意味ないやん、とはたと気づいた。ここすらも、ひどい放っておき方をしてきた罰当たりな自分を戒めた。できるかぎり丁寧に、両親を綺麗にしてあげた。6年前の3月に亡くなって以来、飾りっぱなしにしてあった母の祭壇も、これを機に片づけた。

 朝9時にスタートし、ほとんど休憩もせずに16時30分に終了。当然のこと、年末の大掃除なんて1度もしたことがない身、人生でこんなに家の掃除をしたのは初めてだった。

 不思議なもので、人生の転機となるだろうお話をいただいたのは翌日のことである。

 父が選んだ、真鶴湾を望む美しい場所に両親は眠っている。謝罪と感謝、そして大切な報告をこめて手を合わせた。空の青さと穏やかな海、頬をやんわりと打つ風が心地よかった。

 

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