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「通りすがりの人」

昨日友だちに君の話をしたんだ
君のために捨てられるものを話した
狂ってるよ、とからかわれたけど
僕は笑わなかったよ
誰にも理解されないだろう
理解されようとも思わない
君以外には

あと2m、1m、50センチ
君の髪の香りが感じられるくらいの距離
だけど君が怖がるといけないから
近づけない 声をかけられない
僕は通りすがりの人間を演じるだけ

君を知ってから 日記を書き始めた
言葉で君を閉じ込めることはできないけど
せめて君の残像を見失わないように
青い文字で君を探すよ

あと2m、1m、50センチ
君の髪を耳にかけてあげられるくらいの距離
だけど君は僕を必要としていないから
僕より背の高い彼を必要としているから
僕は通りすがりの人間を演じるだけ

今日君と目が合った気がしたんだ
それだけで 不思議だね
みんなみたいに笑う方法がわかった
それはとても簡単だった
君の世界にも僕が存在していると思えれば

本を読んでいる君はきれいだ
風の匂いを感じている横顔も
でも嫉妬するほど惹かれるのは
彼の冗談で顔をあげて笑う君だった

去年読んだ小説みたいに 重ならない愛
だけどその小説みたいな結末にはしない
そこまで僕は狂っていない
ただ心を病んだのと同じだよ

イアフォンの色を変えたのも
前髪を切るのに失敗したのも
スカートの丈を短くしたのも
すべて知っているはずなのに
君の髪や肌の感触はわからないんだ

もし生まれ変わったらと
何度も慰めるように願った
もし生まれ変わったら
湖の下みたいに静かな場所で
君に出会いたい
彼みたいにうまい冗談は言えないけど
精一杯話すから
君を笑わすために話すから
それを願って僕はようやく眠れるんだ
君のいない夜を乗り越えられるんだ

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