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お笑い芸人の言語学: テレビから読み解く「ことば」の空間 単行本 – 2017/4/30

著者はテレビ局のプロデューサーとして数々のお笑い番組に関わってきた方です。なので必然的にお笑い芸人が使うコトバに注目して書いているのですが、“お笑い”が趣旨の本ではなく、あくまで著者による言語論です。言いたいことは「生活で使われているそのままのコトバが強い」ということ。これは、お笑いに限らず、ビジネスの場に照らせばプレゼンテーションだったり、会議ファシリテーションの技法だったりに直結します。また、日常のちょっとした人とのコミュニケーションにおいては、魅力的な話し方に通じるものだとも直感でき、たいへん興味深く読むことができました。

今は引退してしまった島田紳助さんから引く例が多いので、20世紀生まれの人でないと思い出しづらいところがあるかもしれません。ただ、知っている人ならピンとくると思います。確かに紳助前と紳助後とでは漫才の語り口が変わったような気がします。1970年代までは、漫才師には漫才師らしい話し方がありましたし、テレビのバラエティー番組全般に広げて考えても、明らかにテレビの出演者ならではの話し方がもっと規定されていたと思います。そこへ「THE MANZAI」という今となっては伝説に近い番組が世の中に投げ込まれ、そこから日本人の“話ことば”が変わっていったと言ったら大げさでしょうか。

どう変化したのかを少ない文字数で表すのは無理ですが、今でも思い出されるのは、漫才コンビのダウンタウンが新人として出てきたとき、審査員席にいた横山やすしさんが「なんやお前ら、チンピラの立ち話やないか!」と罵ったとか。これはベテラン漫才師からすると我慢ならないご法度芸だったと言うこともできますが、むしろ天才芸人だからこそ察知できた危機感から声を荒げずにはいられなかったということかもしれません。

話をもう一度戻すと、この本は、お笑い芸人を題材に使っていますし、日常語≒地方方言のように読める箇所もあるのですが、私が読み取ったのはあくまで普段人々が話しているコトバのパワーの話です。「話す」というより「しゃべる」に近い印象です。なにげなく身近で使っているコトバにちょっとアンテナを立てるだけで、あなたとおしゃべりしたい相手が増える可能性がありますよ、という観点から読んでみると面白いんじゃないかと思います。

少なくとも私について言えば、この本を読む前と読んだ後とでは対人観察力に変化がありました。言い換えると、本書からの学びによって、さまざまな人たちと接する中で、相手との心理的距離を意図的に調節できるようになったと感じています。内容的にツッコミどころもなくはないのですが、仕事にせよプライベートにせよ、人間関係をより楽しむためのTipsを提供していただけたことにまずは感謝です。

(おわり)


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