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非営利組織の経営の本質⑥:ドラッカー『非営利組織の経営』原著を目次だけでさっと読む

非営利組織の経営に関する書籍や論文を探していますが、法律や会計などの制度、歴史や意義、みたいなものは発見できるんですが、「良い非営利組織の経営とは?」についてのものはほとんどないですね。この春に2本、私が書いたものが刊行されますが、この分野って語りにくいのかしら?

実際、ソーシャルセクターの皆様を見ていると、とても頑張っていらっしゃっていて、成功されていると傍から見られている組織でも、常に試行錯誤で努力されていらっしゃいます。ということで、あまり実践の場から「こうすれば成功するよ」というのも、言いにくいのでしょうか?

で、唯一にして、もはや古典となっているのが、ドラッカーの『非営利組織の経営』です。原著刊行が1990年ですからね。30年以上もアップデートされていなくていいのか、という疑問はありつつも、抑えないわけにもいかないので、今回は原著の目次を中心に、この本の構造を明らかにしてみます。

この本は5つのパートから成り立っており、それぞれ5章で構成されています。5章のうち最後の章は毎回、そのパートのサマリーとして、"Summary : The Action Implications"(要約:行動の影響)というタイトルでまとめられています。各パートには2本ずつ現場の方のインタビューが入っていて、とても構造化された構成になっていることがわかります。

さて、気になる中身を見ていきましょう。まずは5つのパートのタイトルですが、下記のようになっています。

  1. The Mission Comes First : and your role as a leader
    ミッションが最初:そして1リーダーとしてのあなたの役割

  2. From Mission to Performance : effective strategies for marketing, innovation, and fund development
    ミッションから成果へ:マーケティング、イノベーション、成長発見のための効果的な戦略

  3. Managing for Performance : how to define it ; how to measure it.
    成果のためのマネジメント:どのように明らかにし、測るのか

  4. People and Relationships : your staff, your board, your volunteers, your community
    人々と関係:スタッフ、理事会、ボランティア、コミュニティ

  5. Develop Yourself : as a person, as an executive, as a leader
    自己成長:人としてエグゼクティブとしてリーダーとして

とってもシンプルですw

ミッション→戦略→成果のマネジメント→人のマネジメント→自己成長

という話になっています。実はドラッカーは、この本以外にも、2冊の非営利組織に関する書籍を出していて、1冊が『経営者に贈る5つの質問』、そしてもう1冊が『非営利組織の「自己評価手法」』というもの。どちらも以下の5つの質問をベースに作られています。(どちらも元々は非営利組織のために作成されたパンフレット的なものだったようです。)

1.われわれの使命は何か?
2.われわれの顧客は誰か?
3.顧客は何を価値あるものと考えるか?
4.われわれの成果は何か?
5.われわれの計画は何か?

比較して思うのは、「顧客」という言葉は、『非営利組織の経営』の目次には出てきていないな、ということです。非営利組織で顧客?というのはどう考えればいいのでしょうか?

『経営者に贈る5つの質問』の日本語版から引用します。

ついこの間まで、非営利組織の世界では、顧客という言葉はほどんど耳にしなかった。(中略)ここで顧客という言葉の定義を行うつもりはない。たんにこうお聞きしたい。「あなたの組織は、誰を満足させたとき成果をあげたと言えるか?」この質問に答えるならば、その答えが、そのまま顧客とは誰かを教える。すなわち、組織の活動とその提供するものに価値を見出す人たちという意味での顧客を定義したことになる。

『経営者に贈る5つの質問』P.25-26

この文章に続けて、ドラッカーは、顧客には二種類の顧客がいる、としています。「活動対象としての顧客」と「パートナーとしての顧客」です。その上で、なぜ、この質問が重要なのか、下記のようにコメントしています。

組織が成果をあげるには、活動対象としての顧客を絞らなければならない。「われわれの顧客は誰か?」という質問に答えなければならない。焦点を絞らなければ、エネルギーは放散し、成果はあがらない。

『経営者に贈る5つの質問』P.26

ドラッカーは1966年に著した『経営者の条件』の中で、成果の出す人がやっていることを5つに整理していて、それが、「時間管理」「貢献に焦点をあてる」「強みを生かす」「選択と集中」「意思決定」(筆者まとめ)です。

これはまさに「選択と集中」の話ですが、興味深いのは、顧客を2つに分けた上で、絞るのは「活動対象としての顧客」だけなんですね。「パートナーとしての顧客」、例えば、寄付者やボランティアなどは確かに、誰でもウェルカムな気がします。

ということで、「顧客」の話はどうやら、『非営利組織の経営』では、「成果」という言葉の中に含まれているようです。

話を戻して、パート1から見ていきます。*の部分がインタビュー部分です。

PART ONE : The Mission Comes First : and your role as a leader
ミッションが最初:そして1リーダーとしてのあなたの役割
1. The Commitment 
2. Leadership Is a Foul-Weather job
3. Setting New Goals*
4. What the Leader Owes*
5. Summary

Foul-Weather jobというのは、悪天候の仕事、という意味のようです。この章ではリーダーの責任、ということが書かれているようです。最初に必要なのはミッション(使命)であり、それに対するコミットメントが大事、ということでしょう。

PART TWO : From Mission to Performance : effective strategies for marketing, innovation, and fund development
ミッションから成果へ:マーケティング、イノベーション、成長発見のための効果的な戦略
1. Converting Good Intentions into Results
2. Winning Strategies
3. Defining the Market *
4. Building the Donor Constituency *
5. Summary

”Converting Good Intentions into Results” というのは「良き意図を成果に変える」という意味で、要するにマーケティングの話です。ドラッカーは営利組織よりも非営利組織の方がマーケティングが必要であり、戦略に組み込まれていなければならない、と考えていたようです。

ここでドラッカーは、ある詐欺師が言ったという話を持ってきます。曰く、「ブルックリン橋を売る方が、贈るよりも簡単だ」と。確かに、架空の土地を売る詐欺の話は割と聞きますが、架空の土地をプレゼントされて騙された、という話は確かに聞きません。だって、そもそも怪しすぎるw

もうひとつ、ドラッカーは非営利組織の提供するものが目に見えない、すなわちサービスであるとも言っていて、これは後にコトラーなんかが言い出す「サービスマーケティング」の難しさも持っているわけですね。ちなみに、3. Defining the Market はまさに、コトラーとの対談だったりします。

この章の日本語版から、コトラーのジョーク交じりのコメントを引用しておきます。

マーケティングには、セグメンテーション、ターゲティング、ポジショニングの3つの大きなステップ、STPがあります。昔風のランチ、ゴルフ、ディナーというLGDとはだいぶ違います。

『非営利組織の経営』P.87

なので、この章はとっても重要なことが、ものすごいコンパクトに書かれています。NPO立ち上げようっていう方は、ちゃんとこの章だけでも読んで考えた方が良さそうですね。

PART THREE : Managing for Performance : how to define it ; how to measure it.
成果のためのマネジメント:どのように明らかにし、測るのか
1. What Is the Bottom Line When There Is No 'Bottom Line'?
2. Don't’s and Do's - The Basic Rules 
3. The Effective Decision *
4. How to Make the Schools Accountable *
5. Summary

Bottom Line というのは、会計の表の一番下という意味で、最終成果を意味しています。何が最終的な成果で、何がプロセスの成果なのか、ということをちゃんと決めましょうね。で、何をして何をしないのか、ルールづけしましょうね。

ということで、ここは、戦略をもとに計画を立てるという内容になるかと思います。

PART FOUR : People and Relationships : your staff, your board, your volunteers, your community
人々と関係:スタッフ、理事会、ボランティア、コミュニティ
1. People Decisions
2. The Key Relationship
3. From Volunteers to Unpaid Staff *
4. The Effective Board *
5. Summary

ここで人や組織の問題ですね。以前、あるNPOを立ち上げたとき、理事会に誰に入ってもらうか、最初のボランティアをどう歓迎するのか、と言うことに関して、経験ある方からかなり勉強させていただきました。今、考えると、あの体験は貴重だったなーと思いますし、ドラッカーのマネジメントにも通じていたんだなーと思います。

PART FIVE : Develop Yourself : as a person, as an executive, as a leader
自己成長:人としてエグゼクティブとしてリーダーとして
1. You Are Responsible
2. What Do You Want to Be Remembered For ?
3. Non-Profits : The Second Career *
4. The Woman Executive in the Non-Profit Institution *
5. Summary

セカンドキャリアとか女性のエグゼクティブという話も含め、このセクターでの働きが人の成長と自己実現につながるよ、という話ですね。あと、割とこのセクターは、創業者の思いやミッション、というのが大事になってきますが、その創業者が人格的に成長しないと、組織も成長しないという課題はあると思いますので、そこにも触れた内容ですね。

さて、ここまでざっと眺めてきて思うことは、ドラッカーの考えでは、実際に組織を立ち上げて活動する前に、いろいろ考えておいた方がいいよ、ということになるかと思います。

しかし、実際には、とりあえず立ち上げちゃった、始めちゃった、という組織や団体が多いのではないかな、と思います。戦略立てても、数年立たないと実行できない、なんて制約条件もあります。

なので、今、思ったことは、人生、長いんですから、いつ、こういう解決したい社会課題に直面したり、そういう団体をサポートするハメになるか、わからないです。

人生で会社を作ったり上場させたりってことがあるのは、まあ、一握りの人かと思いますが、こちらは長い目で見て、もうちょっと確率が高いかもしれない。

そう考えると、非営利組織の経営について、一度は学んでおくことは、意外に人生の役に立つかもしれないな、ということを思いました。

現場からは以上です。

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