見出し画像

非営利組織の経営の本質①:非営利活動ってなんだ?

 10年ほど前からいわゆるソーシャルセクターに関心を持って関わり始め、非営利組織の資金調達などを実務で行う認定ファンドレイザーなんて資格も取得していたのですが、ちょっと近い将来、非営利組織の経営についてお伝えしなければならない機会が出てきそうで、そのために、ちょっと整理しておこうと思ったのですが、取り掛かってみると、なかなかこれが厄介なこと に気づきました。

 田尾雅夫先生、吉田忠彦先生の『非営利組織論』(有斐閣アルマ)の冒頭を読んでいると、こういう表現がされていました。

非営利組織を「非営利目的」という部分だけでくくると、行政機関、町内会などの地縁活動、家族や親戚などの血縁関係、さらにはその場かぎりのほとんど集会のようなものまで含まれることになる。「非営利目的」というだけでは、営利を目的とする組織以外のすべての人の集まりを指すことになるので、非常に広くなってしまう。

田尾雅夫、吉田忠彦『非営利組織論』(有斐閣アルマ)P.2

 ちなみに世の中で言う「NPO」というのは日本の法律では「非営利特定活動促進法」という法律で規定されています。こちらでの定義も見ておきます。

第二条 この法律において「特定非営利活動」とは、別表に掲げる活動に該当する活動であって、不特定かつ多数のものの利益の増進に寄与することを目的とするものをいう。
2 特定非営利活動法人は、これを特定の政党のために利用してはならない。

特定非営利活動促進法

「特定」非営利「活動」なので、活動内容が特定されているのですね。その部分はわかりやすい。続いてみてみます。

第三条 特定非営利活動法人は、特定の個人又は法人その他の団体の利益を目的として、その事業を行ってはならない。

特定非営利活動促進法

否定表現で説明されるとよくわからないですね。この文章を肯定表現に変えるためには第二条の表現を持ってくる必要があります。代入してみたものが下記になります。

特定非営利活動法人は、不特定かつ多数のものの利益の増進に寄与することを目的として、その事業を行わなければならない。

筆者合成

「不特定かつ多数のものの利益の増進に寄与する」というのが、なんともわかりにくいですが、ここでさらに第5条を見てみます。

第五条 特定非営利活動法人は、その行う特定非営利活動に係る事業に支障がない限り、当該特定非営利活動に係る事業以外の事業(以下「その他の事業」という。)を行うことができる。この場合において、利益を生じたときは、これを当該特定非営利活動に係る事業のために使用しなければならない。

特定非営利活動促進法

ここで、混乱してくる方もいらっしゃるかと思いますので、ちょっと整理します。

特定非営利活動法人は、まあ、活動=事業を行う訳ですが、その事業によって利益を出してはいけないか、と言うと、そんなことはないのです。ここがいちばんのややこしいポイントです。そもそも、利益を出さないとスタッフの給料も払えませんし、組織として成り立ちません。

ここで、非営利組織=利益を出しちゃいけない組織、と思っていた方は、え?となるかと思います。

じゃあ、非営利の「営利」って何?

となるかと思いますが、つまり、非営利組織は、利益を出してはいけないわけではなく、特定の個人又は法人(政党含む)の利益を目的として、その事業を行ってはならない、ということ。

つまりは、株式会社であれば資本提供者に配当が回ったりするわけですが、これが禁止されています。

先ほどの本に戻ります。

非営利組織(nonprofit organization)とは、(中略)まず民間の組織であって、そして営利以外の主な目的があり、営利活動も許されているものの、その利益を組織メンバーに分配することが禁じられている組織である。

田尾雅夫、吉田忠彦『非営利組織論』(有斐閣アルマ)P.1

実際のところ、この定義も誤解を生みそうです。「組織メンバー」という表現がわかりにくいですが、禁じられているのは「利益の分配」であって、コストとして従業員への報酬の支払いは禁じられていません。

では、「利益の分配」とは何でしょうか。一番、簡単に考えられるのが、株式会社による株主への配当です。こういうことが禁止だよ、と言っています。

ドラッカーの『非営利組織の経営』の日本語版の冒頭には、「日本語版へのまえがき」として、ドラッカーのこんな言葉が書かれています。

最古の非営利組織(NPO)は日本にある。日本の寺は自治的だった。もちろん非営利だった。その他にも日本には無数の非営利組織があった。ある分野では日本がいちばん多い。それは産業団体であって、企業間、産業間、対政府の橋渡し役となってきた。

ドラッカー『非営利組織の経営』iii

いや、キリスト教の教会は営利組織だったんかい、と突っ込みたくなりますが、まあ、そこはドラッカーのリップサービスが入っているにしても、談業団体が非営利組織と言うのは確かに、と思います。

つまり、自組織の利益を求めるというよりは、不特定かつ多数のものの利益の増進に寄与することを目的としての事業活動をしている組織。これが非営利組織、ということになるでしょう。

これは確かに、と思います。ある組織が自分の組織の利益のためにやっている活動に、他の組織の人が協力しよう、とは思わないはずです。しかし、自組織のためではなく、不特定かつ多数のものの利益の増進に寄与することを目的として行っている活動であれば、いっちょ、協力しようか、となってもおかしくない。

そういう意味では、本来、非営利組織というものは、こじんまりちまちまと何かをやるというよりは、大勢の力が集まって何か大きなことを成し遂げていく、そんなイメージなのではないか、と思います。だから、そのための非営利なのです。

こうして考えてくると、日本のNPO法がなんでNPOを特定非営利活動法人としているのか、わかってきます。

つまり、人々の共感を呼びやすい、「不特定かつ多数のものの利益の増進に寄与することを目的として行っている活動」をリストアップして、それを「特定非営利活動」としているのです。少なくとも、建前では。

最後に、そのリストを掲載して、今回の考察を終わりたいと思います。

一 保健、医療又は福祉の増進を図る活動
二 社会教育の推進を図る活動
三 まちづくりの推進を図る活動
四 観光の振興を図る活動
五 農山漁村又は中山間地域の振興を図る活動
六 学術、文化、芸術又はスポーツの振興を図る活動
七 環境の保全を図る活動
八 災害救援活動
九 地域安全活動
十 人権の擁護又は平和の推進を図る活動
十一 国際協力の活動
十二 男女共同参画社会の形成の促進を図る活動
十三 子どもの健全育成を図る活動
十四 情報化社会の発展を図る活動
十五 科学技術の振興を図る活動
十六 経済活動の活性化を図る活動
十七 職業能力の開発又は雇用機会の拡充を支援する活動
十八 消費者の保護を図る活動
十九 前各号に掲げる活動を行う団体の運営又は活動に関する連絡、助言又は援助の活動
二十 前各号に掲げる活動に準ずる活動として都道府県又は指定都市の条例で定める活動

特定非営利活動促進法

この20の項目を分類していくと、国がどんな活動を「不特定かつ多数のものの利益の増進に寄与することを目的として行っている活動」と考えているかがわかりますね。

現場からは以上です。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?