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匠Methodを使って部門戦略をボトムアップで考える

こんにちは。IT企業に所属するビジネスアナリストのbizenです。
(この記事を読むためにかかる目安時間 6〜10分)

はじめに

今回は匠Methodを使って部門の一事業の戦略検討をファシリテーションした経験を共有しようと思います。

匠Methodは株式会社 匠BusinessPlaceが提供するビジネスデザインから活動まで一気通貫で行うための手法です。適用できる範囲は広く、企業・中長期戦略、ITシステムデザイン、製品企画、組織部門デザイン、業務改善、キャリアデザインまで出来ます。デザイン思考とシステム思考が融合したこの手法は、共感的かつロジカルで、知情意の調和がとれた美しさが感じられ、興奮します(※個人の感想です)
匠Methodに関しては最下部のリンク先をご参照ください。

本来の使い方は、このメソッドをある程度理解した人たちがコミュニケーションを取りながら何かしらのゴールを目指してデザインしていくのですが、ここに書く内容は“変則的”に使ったケースです。

メソッドを全員にレクチャーする時間的余裕がない、でも全員が意見を出し合って納得感のある結論を出したいという状況で、私がどのように匠Methodを使っていったのか、それをご紹介します。

会社での出来事ですので、お伝えしたい意味合いが変わらない範囲で少々の変更、また少し抽象化して記述します。私自身、匠Methodを勉強中で理解が及んでいないところがありますので、これをベストプラクティスとしてご紹介するわけではありません。現在の成長記録となりますが、どなたかのインスピレーションにつながれば幸いです。

なお、この投稿は匠塾12月アドベントカレンダーとして公開しています。この投稿以外にも匠Methodに関する様々な投稿がありますので、是非ご覧になってください。



なぜファシリテーションすることになったのか

・2021年2月、ある部門のA部長に呼ばれる。その部で取り組んでいる一つの事業の方針・戦略をボトムアップで考えて作る手伝いをしてほしいと依頼される。私自身はその事業に関わっていないが、その部の別事業の戦略検討をやったことがあった。メンバーをある程度集めてファシリテーションしてほしいという依頼だった
・2月中にある程度のものを提出して欲しい(というか2週間後)
・A部長の思いとして『自分たち自身が未来を想像し、戦略を考え、自分たちで道を開いていって欲しい』という思いがあるようだった

A部長の話を聞きながら、これは匠Methodを使ってみる経験ができそうだなと下心を抱き、『納期厳しくない?』思いつつも「わかりました」と答えました。

どう進めたのか

まず、情報整理として、現在の事業の状況とその部門の既存の方針を確認することにしました。ターゲットとなるその事業の状況を確認すべく、A部長やキーマンになりそうな人を捕まえてヒアリングしました。

事業の概要

・ターゲットはバックオフィス事業。様々な委託元から業務運用のお仕事をもらって活動している。具体的にいうと経理・購買・総務などの業務プロセスの一部分を受託している
・人やシステムを介して何かしらアウトプットする運用業務。顧客は社内・社外と様々
・現在は約10個の業務テーマがあり、テーマごとにチーム制を取って、それぞれまったく違う内容の仕事をしている
・チームの動きはバラバラで横断的な活動はこれといってない。別のチームがどのような業務をやっているか具体的にはほとんど知らない
・ヒトが動く分、売上はそれなりに立っている。運用業務は効率化することで業務を圧縮できるが、圧縮すればその分ヒトの作業時間は減るので売上も減っていくというジレンマがある

上位戦略とのつながり

・各チームは組織変更等でこの部門に集められてきたという経緯があり、バックオフィス事業というくくりで見た時に、向かうべき方向性、成長戦略は強く示されていない(方針がないわけではないが、メンバーのコミットメントが弱そうな感触)
・会社の長期ビジョンは、さすがにIT企業なので『DX』『デジタルビジネス』『アジャイル』『データ活用』といったある意味で華のある内容。先進的な姿が描かれていて、これはこれでとても大事だが、バックオフィス事業の具体的な仕事とつながっているかはハッキリしない。長期ビジョンはもちろん、中期経営計画、事業部方針の記述には、このバックオフィス事業を示す内容が明記されていない
・メンバーにとってみると戦略のリアリティがぼんやりしているのではないか、上位戦略から連鎖していないように感じているのではないか
・自分の仕事が会社のビジョンとどのようにつながっているか、メンバーは腹落ちしているのだろうか?(してなさそう)

こういった印象を持ちました。

誰と一緒に作っていくか?

招集すべきメンバーは部門長のススメもあり、テーマごとのチームリーダーあるいはそれに近しい役割の人を7人ほど召集することに。
スケジュール的に2回の打ち合わせでまとめなくてはいけないので、事業に関わる数十人全員を集めてやるには無理があると考えました。

ディスカッションを始める前の準備

匠Methodを使って進めようと思ったので、アウトプットとして価値分析モデル価値デザインモデル要求分析ツリーの3つの図にまとまるように、メンバーからワードを引き出そうと考えました。

価値デザインモデル
価値分析モデル
要求分析ツリー


メンバーに付箋に書いてもらって貼り付けて集約していくというような進め方が望ましいのですが、1回の会議時間は短く、匠Methodをレクチャーしながらやるというのは現実的に難しいので、メンバーの発言を促し、その発言を3つの図に私が当てはめていくという方法を取ることにしました。
ちなみに、コロナ禍ということで全員リモートで参加することになります。この頃にはもうリモート会議には慣れていて、特に戸惑いはありませんでした。

ということで、以下3つを事前に考えました。

  1. 私の目標

  2. 会社の長期ビジョン、事業部方針が示す成長の方向性とバックオフィス事業の成長の軸としてつながるものを想像。仮説を立てておく

  3. ディスカッションの事前課題をまとめる


1.私の目標

・多くのメンバーにとって納得感があるものにする。腹落ちしてもえるように、『自分たちで考えた』という手ごたえをもってもらいたい。例えば、アウトプットは出来る限りメンバーが出した言葉で表現する
・上位ビジョンと自分の仕事がつながっていることを体感してもらう


2.会社の長期ビジョン、事業部方針が示す成長の方向性とバックオフィス事業の成長の軸としてつながるものを想像。仮説を立てておく

成長の軸(成功のシナリオ)を想定しました。上位の戦略には成長したい(させたい)方向性や大きなHowが書かれています。ですので、その内容とバックオフィス事業の活動の方向性とつながる部分が見つかれば、自然と『自分の仕事と上位ビジョンがつながっている』ことがわかってきます。成長の軸は、3つの図を作る時に出てくるキーワードになる可能性が高い。

ということで、下図のような仮説・メモを作っておきました。これをたたきにして新たな価値観に気付くこともありそうです。

成長軸のメモ

経験的に自分の仮説が合っていても間違っていても良いと思います。今回のようにファシリテーターが『相手を深く理解していない』状況でファシリテーションする場合は、基本的に参加している皆様から教えていただくスタンスで進めるので、ディスカッションメンバーは素人に説明するようにしっかり言語化するという良い面があるように思います。(筋の良い仮説であるに越したことはないです)

3.ディスカッションの事前課題をまとめる

メンバーに発言・発散してもらうと、ビジョン、コンセプト、ステークホルダー、価値(嬉しいこと)、目的、業務・IT要求、活動(How)のどれかに関わる内容を話してくれるはずで、ファシリテーションする上ではどの部分の発言をしているのかに着目しながら、まとめていくことになるはずです。足りないものがあれば、そこに絞って発言を促したり、質問して解像度を高めたりしながら進行をすれば埋まっていきます。
そういった会になるよう、メンバーには事前準備としていくつかお願いすることにしました。


事前課題

1回目の前に次のようなことをお願いしました。
・会社のビジョン、事業部方針資料、部門の方針資料を改めて読み、自分の仕事とつながっている部分、つながっていると思えない部分を教えてください
・バックオフィス事業って何なのか。仮でいいので定義してみたい。『これは』という言葉を考えてきてください。自分たちの仕事を抽象化して共通項を探ります
・自分のチームが1~3年後どうなっていたいですか?どんなビジョンがあるか教えてください
・自分のチームはどんな価値をどのようにしてお客様に届けたいか


振り返ってみると、この仕事はこの『準備』で半分終わっていたように思います。

いよいよ実践

1回目の様子

・集まったチームリーダーは、皆積極的に参加する姿勢を見せてくれていた
・チームリーダーは現状の課題や『なりたい姿』のイメージをしっかりとらえていた
・その『なりたい姿』が部門の戦略に反映されていないということも理解していた
・環境の変化に敏感で、新たに取り組みたい技術習得(How)の案は持っていたが、それに取り組む目的は明確ではなかった
・他のチームリーダーの発言を聞き、共通の課題やHow、方向性があることに皆が気づいていった

日々の仕事でこんなことを感じていた…

非常にノリが良く、前を向いている人たちだったので助けられました。『業務に忙殺されていて未来を描くことできない状態』なのかと誤解していました。A部長は部下たちがいろいろ考えて取り組んでいることを知っているけど、戦略と活動のつながりが自分たちで整理できていないから『自分たちで戦略に落とし込む経験』をして欲しかったと。そういうことなのだなと理解しました。

1回目のあとの私のワーク

1回のディスカッション(約1.5時間)で匠Methodの3つの図に当てはめていけそうな要素がだいぶ出そろいました。
2回目に向けて、価値デザインモデルのビジョンコンセプトのたたき、および価値分析モデルをメンバーの言葉を借りて作りました。私の案も一部、補足的に追記しました。これをたたきにして2回目のディスカッションで全員に意見を言ってもらいながらつめていくことにしました。


2回目の様子

・仮ビジョン、仮コンセプトを見ながらディスカッション。自分たちにとって顧客が誰なのか、何を提供して貢献するのか、時間をかけて話し合った。どのチームリーダーも共通項として納得がいくものになった
・たたきの価値分析モデルは、ステークホルダーと『何が嬉しいか』=価値を皆の言葉で整理しておいたので違和感なし
・価値と目的との紐づけをディスカッションしながら進める。まとめられるものをまとめ、色分けして整理
・価値と目的がつながらないものは、足したり外したり再考。新たな目的を見つけたり、新たな価値を見つけたり。とても重要なディスカッションになった

価値分析モデルの作成過程

・価値の言葉はそれぞれのチームリーダーから出ているもの。それが共通の目的になっているものも少なくない。共通項が見えてくる
・次に要求分析ツリーに当てはめていった。ディスカッションでまとまってきたビジョンコンセプトを当てはめ、さらに目的を紐づけ直していく。目的と紐づけながら、コンセプトに違和感がでてくると、コンセプトの表現を変えていくなど。コンセプトと目的を行ったり来たりしながら、表現を推敲。また、ディスカッションで出ていた具体的なHowを取り出して、どの目的に紐づくのかを見てもらい、リアリティを上げてもらった
・発言の中にあった問題・課題をストックしておいたので、その問題・課題がどの要求に関わっているのか、要求分析ツリーにマッピングしていった

こうして熱気を帯びた2回目は終わりました。

気づきや納得感の確認

2回目が終わってまもなく、ドキュメントとしてメンバーにフィードバックし、コメント(アンケート)をもらうことにしました。
①共感できるポイント・納得感
②もっと検討したい部分
③言葉の定義として補足したいこと
④このビジョンにした場合の自分のテーマの課題感 

概ね満足してもらえたようでした。以下はその一部です。

ビジョンだけだと「具体的になにを目指せばいいのかな?」という気持ちになりますが、3つのコンセプトとセットになると、とても腹落ちします。コンセプトとセットでメンバーの羅針盤となるのが良いですね。

担当している案件は違っても、共通するところは多く、他の業務に参画しても対応できそう(業務ローテーションが可能)な気がした

今までの『運用』は、終活ではないですがサービスの最後にあり、維持安定させることだけが重要、という感じだったわけですが、デジタルによってビジネスが変わり、価値創造の一端を担う存在になっている。運用部門の在り方が大きく変わっていて、その新たな姿を目指すんだということがはっきり見えてきて、すっきりしました

我々が向き合っている顧客にも相手があり、その先にも相手があり、それらが連鎖している。直接的・間接的社会に貢献しているということまで見えてきました。価値を生み出しつづけるのは大切と感じています。


その後の話

もらったアンケート結果を見てみると、チームリーダーたちは、具体的な活動として何をやっていくのか、すでにそちらのほうに目が向いていました。
A部長にアウトプットとアンケート結果を渡し、中身を説明してメンバーの熱意を伝えました。A部長はずいぶんと納得してくれたようで、ほぼそのまま部の方針書に組み込まれました。

そして春から自分たちで掲げたビジョン達成のために、施策を作り、活動が始まっています。

今回の学びと課題

・部のデザインの場合、部の成長軸になりうる部分は上位戦略で方向性が描かれている。それを腹落ちさせるのは、リアリティ。具体的なステークホルダーが、何が嬉しいのかのつながりが見えてくると自分たちの成長の軸が腹落ちする
・頭の中で3つの図(価値デザインモデル、価値分析モデル、要求分析ツリー)を描きながら話を聞いていると理解しやすいし、質問すべきポイントがはっきりする
・自分たちの言葉で紡いでいくと、場の温度があがっていく
・ゴールに向けて自分が強引に、恣意的に議論をひっぱることもできてしまう。アウトプットが目的ではない。主体が相手であることを忘れてはいけない
・時間的制約はあったものの、「活動」の部分をもっと掘り下げたかった。活動に意思を込めないと絵にかいた餅になってしまう。(幸い、個人個人の期の目標設定に活動が組み込まれたようで、ビジョン達成に向けてこの活動は継続しているらしい)

ここまで読んでいただいてありがとうございます。


参考リンク

[1] 匠塾の公開ページ (https://www.facebook.com/takumijyuku/

[2] 匠塾2021年度アドベントカレンダーhttps://adventar.org/calendars/6673

[3] 匠Methodとは (https://www.takumi-businessplace.co.jp/takumi-method/index.html

[4] 匠Method 超入門(関西匠塾第一回) (https://www.slideshare.net/hagimotojunzo/method-72390898?qid=e75538a8-e047-45c6-8b09-1cec15fe7a23&v=&b=&from_search=1


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